記事内に広告が含まれています。

池波正太郎「鬼平犯科帳 第6巻」の感想とあらすじは?

この記事は約5分で読めます。

主立った登場人物が登場しつくし、登場人物が落ち着いてきています。

さて、本作で印象に残るのが、「大川の隠居」です。火付盗賊改方に盗っ人が入り込み、その盗っ人と平蔵の駆け引きがとても面白い作品です。

鬼平シリーズの中ではちょっと異色な感じがあります。

一つには、盗賊団と火付盗賊改方の闘いではない点。

もう一つは題名と関係があるのですが、この題名について印象的な描写をしている点です。

ここで登場する盗っ人が現役を退いた”隠居”である点と、「大川の隠居」をかけているあたりがとても面白いのですが、この”本当”の「大川の隠居」の描写がとても印象的なのです。

池波正太郎の自然に対する畏敬を描写しているようにも感じられるこのシーンは、鬼平シリーズの中ではこれ以外にないように思います。

さて”本当”の「大川の隠居」は一体何なのかは、本書で確認して頂きたいと思います。

参考:「狐火」が「鬼平犯科帳 劇場版」の原作の一つだと思われます。

(映画)鬼平犯科帳 劇場版(1995年)の考察と感想とあらすじは?
監督は鬼平犯科帳のテレビシリーズの監督もつとめている小野田嘉幹。松竹創業100周年記念作品。率直な感想としては、"別に映画化しなくても良かったのではないか?テレビの特番で十分"といったところ。

内容/あらすじ/ネタバレ

礼金二百両

横山大学の長男・千代太郎が拐かされた。それに、徳川家康から賜った国光の短刀も盗まれてしまった。このことが公になれば、家の取り潰しもあり得るため、横山大学は隠密に処理をしたいのである。

そのため甥が長谷川平蔵宣以の配下である谷善左衛門を通じて、谷善左衛門から佐嶋忠介に頼み込んで、平蔵の耳に達した。平蔵は話しを聞いて、頭に浮かぶものがあったようである。果たして、犯人は一体誰なのか。

猫じゃらしの女

密偵の伊三次は岡場所で遊んでいた。相手をしているおよねが、先日相手をした客から預かりものをしていると話す。見てはいけないと釘を刺されたのだが、つい見てしまった。しかし、およねにはその物が一体何なのかさっぱり分からなかった。

伊三次は、どれどれと見ると、もと盗賊の伊三次の目には錠前の型であることがすぐに分かった。伊三次はこれを取りにもどる客を捕まえるべく小房の粂八に連絡をする。

剣客

平蔵と木村忠吾が巡回をしていると、横を通り過ぎる侍の袖に血が付いているのに平蔵が気が付いた。平蔵は忠吾に後をつけさせた。近くで騒ぎが起きた様子はなかった。

すると剣術の師を見舞いに行く非番の沢田小平次と出会う。平蔵は沢田小平次とともに、その師の所へ行くが、そこでその師が殺されているのを発見した。

狐火

おまさがかつて配下として働いたことのある狐火の勇五郎の二代目と思われる押し込みがあった。しかも、この狐火の勇五郎のやり口は凶悪であった。

おまさはとても二代目の仕業とは思えなかった。すると、二代目の狐火に勇五郎に出会う。凶悪なやり口は、やはり、二代目の仕事ではないという。二代目は弟の文吉の仕業だろうと言う。

大川の隠居

風邪を引いた平蔵が寝込んでいる所に盗っ人が忍び込んだらしい。平蔵が大切にしていた亡き父親の形見である煙管がなくなっている。残念に思っていたが、病み上がりに出かけた先で乗った舟の船頭がまさにその煙管を所持していた。平蔵は小房の粂八にその船頭を探らせる。

すると、その船頭は浜崎の友蔵という盗賊であった。友蔵は酔狂で今をときめく鬼平のところに忍び込んで煙管を盗んだことを自慢する。このことを聞いた平蔵は、ちょっとからかってやろうと考える。

盗賊人相書

東玉庵というそば屋に強盗が入った。厠に逃げていたおよしは犯人をしっかりと見ていた。木村忠吾は、そのおよしを連れて似顔絵を描くために石田竹仙のところに行った。

およしの言う通りに似顔絵を描く内にだんだんと無口になっていく石田竹仙。忠吾は熱心なことだと感心することしきりであるが、平蔵はそのことを聞いて別のことを考えた。

のっそり医者

勤めていたそば屋を襲われたために次の奉公先を探していたおよしは、医師の萩原宗順のところで働くことになった。およしは、宗順のところで大切にされているらしく、心配していた平蔵も安心した。

そのおよしが、役宅を訪ねてきてどうしても平蔵に伝えたいことがあるという。それは、最近萩原宗順宅を不審な人物がうろついているのだという。

本書について

池波正太郎
鬼平犯科帳6
文春文庫 約二八〇頁
連作短編
江戸時代

目次

礼金二百両
猫じゃらしの女
剣客
狐火
大川の隠居
盗賊人相書
のっそり医者

登場人物

礼金二百両
 横山大学
 千代太郎…横山大学の長男
 谷善左衛門…佐嶋忠介の叔父
 山本伊助
 又太郎

猫じゃらしの女
 伊三次…密偵
 およね
 卯之吉…型師

剣客
 石坂太四郎
 松尾喜兵衛

狐火
 狐火の勇五郎…盗賊
 文吉…盗賊
 瀨戸川の源七

大川の隠居
 浜崎の友蔵…盗賊

盗賊人相書
 およし
 石田竹仙…絵師
 遠州無宿の熊治郎…盗賊

のっそり医者
 およし
 萩原宗順…医師

池波正太郎の火付盗賊改もの

映画の原作になった小説

池波正太郎「鬼平犯科帳 第2巻」の感想とあらすじは?

本書、第二話「谷中・いろは茶屋」で同心の中でも憎めない登場人物の木村忠吾が初登場する。本書では二話で主要な役割を果たす。また、小房の粂八と相模の彦十は密偵として板に付き始めてきているようである。

山本兼一の「火天の城」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

第十一回松本清張賞。織田信長の最後の居城・安土城をつくった職人たちの物語。天主を担当した岡部又右衛門以言、岡部又兵衛以俊の親子を主人公としている。安土城は謎に包まれている城である。

池波正太郎「鬼平犯科帳 第8巻」の感想とあらすじは?

今ひとつピリッとした感じがない。平蔵ら火付盗賊改方の派手な大立ち回りや、なじみの密偵達の華々しい活躍が乏しく感じられるためだろう。唯一「流星」がスケールを感じる短編である。

藤沢周平「闇の歯車」の感想とあらすじは?
職人のような作品を作る事が多い藤沢周平としては、意外に派手な印象がある。だから、一度読んでしまうと、はっきりと粗筋が頭に残ってしまう。そういう意味では映像化しやすい内容だとも言える。
藤沢周平「蝉しぐれ」の感想とあらすじは?
藤沢周平の長編時代小説です。時代小説のなかでも筆頭にあげられる名著の一冊です。幼い日の淡い恋心を題材にしつつ、藩の権力闘争に翻弄される主人公の物語が一つの骨格にあります。
山本周五郎の「赤ひげ診療譚」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
新出去定という医者は、その使命感や考え方のみならず、全体としての個性が強烈である。その新出去定がいう言葉に次のようなことがある。
藤沢周平「時雨みち」の感想とあらすじは?
「帰還せず」と「滴る汗」は藤沢周平には珍しい公儀隠密もの。印象に残る作品は「山桜」と「亭主の仲間」。「山桜」が2008年に映画化されました。
池波正太郎「鬼平犯科帳第22巻 特別長編 迷路」の感想とあらすじは?

個人的に、鬼平シリーズの中で、本書が最も長谷川平蔵が格好良く書かれている作品だと思う。特に最後の場面は、思わず"目頭が熱く"なってしまった。

池宮彰一郎の「四十七人の刺客」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
第12回新田次郎文学賞受賞。いわゆる忠義の士を描いた忠臣蔵をベースにしたものではない。だから、忠義の士という描かれ方というわけではない。
井上靖「おろしや国酔夢譚」の感想とあらすじは?(映画の原作です)
覚書/感想/コメント「序章」で大黒屋光太夫ら伊勢漂民以外のロシアに漂着した漂民を簡単に書いています。それらの漂民は日本に帰ることはかないませんでした。ですが、この小説の主人公大黒屋光太夫は日本に帰ることを得たのです。帰ることを得たのですが、...
和田竜「のぼうの城」の感想とあらすじは?

脚本「忍ぶの城」を小説化したのが「のぼうの城」である。舞台は秀吉の北条氏討伐で唯一落ちなかった忍城(おしじょう)の攻城戦。この忍城の攻防戦自体がかなり面白い。十倍を超える敵を相手に一月以上も籠城を重ね、ついに落ちなかった。

夢枕獏「陰陽師」第1巻」の感想とあらすじは?
ドロドロしたオカルトチックな印象はないが、不可思議な世界感の作品である。それに、闇が舞台になっていることが多いわりには、ホラーっぽくない。静かで優雅な感じすらする。
佐伯泰英の「居眠り磐音江戸双紙 第1巻 陽炎ノ辻」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
坂崎磐音が豊後関前藩を出て江戸で暮らさなければならなくなった事件から物語は始まる。居眠り磐音の異名は、磐音の師・中戸信継が磐音の剣を評した言葉である。
司馬遼太郎の「梟の城」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
司馬遼太郎氏が第42回直木三十五賞を受賞した作品です。舞台となるのは、秀吉の晩年。伊賀忍者の葛籠重蔵、風間五平、木さる。そして謎の女・小萩。それぞれの思惑が入り乱れる忍びを主人公とした小説です。
藤沢周平の「花のあと」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
「旅の誘い」は「暗殺の年輪」に収録されている「冥い海」とあわせて読むと面白い。「冥い海」は葛飾北斎から見た広重が描かれており、「旅の誘い」では安藤広重から見た葛飾北斎が書かれている。
山本一力「あかね空」のあらすじと感想は?
第126回直木賞受賞作品です。永吉から見れば親子二代の、おふみから見ればおふみの父母をいれて親子三代の話です。本書あかね空ではおふみを中心に物語が進みますので、親子三代の物語と考えた方がよいでしょう。
宇江佐真理の「雷桜」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
江戸という都会から少しだけ離れた山里。その山里にある不思議な山という特殊な空間が、現実を忘れさせてくれる舞台となっている。そして、そこで出会うお遊と斉道というのは、まるでシンデレラ・ストーリー。
浅田次郎「輪違屋糸里」の感想とあらすじは?
新撰組もの。舞台は江戸時代末期。「壬生義士伝」が男の目線から見た新撰組なら、この「輪違屋糸里」は女の目線から見た新撰組です。しかも、時期が限定されています。まだ壬生浪士組と呼ばれていた時期から、芹沢鴨が暗殺されるまでの時期が舞台となっている...
京極夏彦の「嗤う伊右衛門」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)(面白い!)

第二十五回泉鏡花文学賞受賞作品。伝奇や幻想話というのは好きであるが、怪談やホラーというのは苦手である。だから積極的に読む気がしない。映画などに至っては見る気すらない。

浅田次郎「壬生義士伝」の感想とあらすじは?(映画の原作です)(面白い!)

第十三回柴田錬三郎賞受賞作品。新選組というものにはあまり興味がなかった。倒幕派か佐幕派かといったら、倒幕派の志士の話の方が好きであった。だが、本書で少し新選組が好きになった。興味が湧いた。