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池波正太郎「鬼平犯科帳第22巻 特別長編 迷路」の感想とあらすじは?

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個人的に、鬼平シリーズの中で、本書が最も長谷川平蔵宣以が格好良く書かれている作品だと思います。

特に最後の場面は、思わず”目頭が熱く”なってしまいました。

本書の途中で、平蔵は探索のために頭を剃り、坊主になりきる場面があります。

探索に執念を燃やしている様を表しているのですが、それもこれも、自分が襲われるのは何とも思わないが、身内や配下が襲われる事については我慢のならないという、身内や配下に対する平蔵の思いがそうさせるのでしょう。

全ての責任を自分一人で背負う気構えと、それを実行する平蔵は、それこそ”管理職”の鑑であるといえます。

昨今、平蔵のようにきっちりと責任をとるような管理職がいないのを嘆いている人には、本書を読めば、清々しく思えるのではないでしょうか。

平蔵に対する信頼は配下の者からの言動からも分かります。

特に佐嶋忠介。平蔵が一人で見回りに出るのをヤキモキしてみています。それもこれも、平蔵は”かけがえのないお方”と思っているからです。この様に配下・部下に慕われる管理職はいないでしょう。

この事は、佐嶋忠介だけではありません。最後の場面で、同心、密偵一同、佐嶋忠介と同じ思いであるのがひしひしと伝わるのです。

最初にも書きましたが、最後の場面には”目頭が熱く”なってしまいました。それもこれも、長谷川平蔵が格好良すぎるからです。

参考:本作も「鬼平犯科帳 劇場版」の原作の一つだと思われます。

(映画)鬼平犯科帳 劇場版(1995年)の考察と感想とあらすじは?
監督は鬼平犯科帳のテレビシリーズの監督もつとめている小野田嘉幹。松竹創業100周年記念作品。率直な感想としては、"別に映画化しなくても良かったのではないか?テレビの特番で十分"といったところ。
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内容/あらすじ/ネタバレ

池尻の辰五郎を捕まえた平蔵。これで池尻の辰五郎の一件は全て終わったかのように思えたが、実はこれが全ての始まりであった。

盗っ人を捕まえるために賭場に出入りしていた細川峯太郎は博奕に魅入られてしまっていた。負けが込んでいる細川峯太郎は焦りを禁じ得なかった。その細川峯太郎がお長によく似た女を見かけ、女から金を貰ってから負けを全て取り戻した。平蔵はその細川峯太郎の行状を調べ上げていたのだ。その途中で、細川峯太郎と話し込んでいた老爺に多少の引っかかりを覚えたものの、しかし細川峯太郎の行状はさして気に留めていなかった。

その中、平蔵が曲者に襲われた。曲者を取り逃がしてしまったが、傷を受ける事はなかった。しかし、やがて息・辰蔵をはじめとした身内が狙われ、そして配下の者にも魔の手が忍び寄ってくる。かつて同じ様な手口で配下を亡くしている平蔵は歯ぎしりをして悔しがる。しかも、今度の相手はどうにも執拗である。

平蔵は、細川峯太郎に話し込んでいた老爺の事を尋ねる。そして細川峯太郎の記憶により作られた人相書は矢野口の甚七のものであった。

さて、密偵になった玉村の弥吉が久方ぶりに外出をすると偶然に出会った男がいた。法妙寺の九十郎という盗賊である。話しを聞くと法妙寺の九十郎は江戸で盗めをするので玉村の弥吉に助けて欲しいと頼む。

平蔵は、配下の者が凶刃に倒れ、役宅を厳戒態勢に敷いている中で、この法妙寺の九十郎の見張りもしなくてはならなくなってしまった。

一体、平蔵の配下をねらい続ける者は誰なのか?

本書について

池波正太郎
鬼平犯科帳22
特別長編 迷路
文春文庫 約三五〇頁
長編
江戸時代

目次

豆甚にいた女
夜鴉
逢魔が時
人相書二枚
法妙寺の九十郎
梅雨の毒
座頭・徳の市
托鉢坊主
麻布・暗闇坂
高潮
引鶴

登場人物

猫間の重兵衛…盗賊
お松…盗賊
矢野口の甚七…盗賊
安藤玄丹…盗賊
吉松…盗賊
法妙寺の九十郎…盗賊
竹尾の半平…盗賊
細川峯太郎
玉村の弥吉…密偵

池波正太郎の火付盗賊改もの

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