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池波正太郎「鬼平犯科帳 第8巻」の感想とあらすじは?

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今ひとつピリッとした感じがありません。

平蔵ら火付盗賊改方の派手な大立ち回りや、なじみの密偵達の華々しい活躍が乏しく感じられるためでしょう。唯一「流星」がスケールを感じる短編です。

「流星」で大坂の生駒の仙右衛門と長谷川平蔵宣以が対決します。

今まで対決した凶悪な盗賊は、平蔵や平蔵の身内を狙っていましたが、今度は部下を狙うという非道の盗賊です。

しかし、生駒の仙右衛門が平蔵の前に直接現れることはありません。この点が残念です。

最後に、「あきらめきれずに」の話の大筋とは関係ないのですが、岸井左馬之助とお静は夫婦となります。

参考:「流星」が「鬼平犯科帳 劇場版」の原作の一つだと思われます。

(映画)鬼平犯科帳 劇場版(1995年)の考察と感想とあらすじは?
監督は鬼平犯科帳のテレビシリーズの監督もつとめている小野田嘉幹。松竹創業100周年記念作品。率直な感想としては、"別に映画化しなくても良かったのではないか?テレビの特番で十分"といったところ。
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内容/あらすじ/ネタバレ

用心棒

〔笹や〕のお熊婆さんの前に懐かしい男が現れた。高木軍兵衛といい、仕官していた家中を追い出され、今は用心棒として働いているという。

しかし、高木軍兵衛は名前とは異なり腕っ節はさっぱりという侍である。その軍兵衛が絡まれて叩きのめされたのを、昔なじみの馬越の仁兵衛に助けられた。しかし…

あきれた奴

小柳安五郎は子供と一緒に身投げをしようとしている女を助けた。その女は小柳が捕まえた鹿留の又八の女房であった。小柳はそのことを又八に告げる。又八と組んでいた相棒の行方が分からず、又八を責め立てていたが口を割らない。小柳は一計を案じ、又八を牢から連れ出す。

明神の次郎吉

明神の次郎吉が看取った老僧・宗円に頼まれた遺品を、岸井左馬之助に届けに来たのである。宗円は岸井左馬之助が再び江戸にでてきて押上村の春慶寺に戻った時にいた僧である。左馬之助は次郎吉を手厚くもてなすが、この次郎吉をみかけた火付盗賊改方の密偵がいた。

流星

平蔵の配下の妻が白昼殺された。緊迫する火付盗賊改方であるが、そのことを嘲笑うかのように今度は押し込みがおきる。平蔵は激怒するが敵が何者なのかも分からない。

平蔵宅に忍び込んだ老盗賊の浜崎の友蔵のところに助働きの頼みがきた。しかもこの頼みは断れない。なぜなら人質がいるからである。浜崎の友蔵の舟を使った助働きが必要としたのは生駒の仙右衛門である。鹿山の市之助と組んでの盗みである。

一方、敵がわからず焦っている火付盗賊改方。小房の粂八が浜崎の友蔵のところに相談にきたが、友蔵はいなかった。あわてて出て行ったということを聞き、平蔵にすぐさま報告する。ここから敵につながる一筋の糸が見えてきた。

白と黒

二人組の下女泥があらわれた。短期間だけ商家で働き、間取りを覚えたら金を失敬する泥棒である。顔は見られているので、特徴は分かっている。

一方、平蔵は取り逃がした翻筋斗の亀太郎を従兄の仙右衛門宅からの帰り道に見かける。その場では捕えずに、彦十らに見張らせる。

あきらめきれずに

岸井左馬之助がもぞもぞと様子がおかしい。聞いてみると、小野田治平という老剣客の娘・お静を嫁に貰わないかと言われたのだ。この事を平蔵に話せばからかわれるに違いないと思っていた左馬之助は言い出しにくかったのだ。平蔵は左馬之助とともにお静を見に行くが…

本書について

池波正太郎
鬼平犯科帳8
文春文庫 約二八〇頁
連作短編
江戸時代

目次

用心棒
あきれた奴
明神の次郎吉
流星
白と黒
あきらめきれずに

登場人物

用心棒
 高木軍兵衛
 馬越の仁兵衛
 お熊…笹やの女あるじ

あきれた奴
 小柳安五郎…同心
 鹿留の又八…盗賊

明神の次郎吉
 明神の次郎吉…盗賊
 櫛山の武兵衛…盗賊
 宗円…坊主

流星
 沖源蔵…剣客
 杉浦要次郎…剣客
 生駒の仙右衛門…盗賊
 鹿山の市之助…盗賊
 浜崎の友蔵…元盗賊

白と黒
 翻筋斗の亀太郎…盗賊
 お仙
 お今

あきらめきれずに
 岸井左馬之助
 小野田治平…剣客
 お静…治平の娘
 浅井高之助

池波正太郎の火付盗賊改もの

映画の原作になった小説

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