記事内に広告が含まれています。

池波正太郎「鬼平犯科帳 第8巻」の感想とあらすじは?

この記事は約4分で読めます。

今ひとつピリッとした感じがありません。

平蔵ら火付盗賊改方の派手な大立ち回りや、なじみの密偵達の華々しい活躍が乏しく感じられるためでしょう。唯一「流星」がスケールを感じる短編です。

「流星」で大坂の生駒の仙右衛門と長谷川平蔵宣以が対決します。

今まで対決した凶悪な盗賊は、平蔵や平蔵の身内を狙っていましたが、今度は部下を狙うという非道の盗賊です。

しかし、生駒の仙右衛門が平蔵の前に直接現れることはありません。この点が残念です。

最後に、「あきらめきれずに」の話の大筋とは関係ないのですが、岸井左馬之助とお静は夫婦となります。

参考:「流星」が「鬼平犯科帳 劇場版」の原作の一つだと思われます。

(映画)鬼平犯科帳 劇場版(1995年)の考察と感想とあらすじは?
監督は鬼平犯科帳のテレビシリーズの監督もつとめている小野田嘉幹。松竹創業100周年記念作品。率直な感想としては、"別に映画化しなくても良かったのではないか?テレビの特番で十分"といったところ。
スポンサーリンク

内容/あらすじ/ネタバレ

用心棒

〔笹や〕のお熊婆さんの前に懐かしい男が現れた。高木軍兵衛といい、仕官していた家中を追い出され、今は用心棒として働いているという。

しかし、高木軍兵衛は名前とは異なり腕っ節はさっぱりという侍である。その軍兵衛が絡まれて叩きのめされたのを、昔なじみの馬越の仁兵衛に助けられた。しかし…

あきれた奴

小柳安五郎は子供と一緒に身投げをしようとしている女を助けた。その女は小柳が捕まえた鹿留の又八の女房であった。小柳はそのことを又八に告げる。又八と組んでいた相棒の行方が分からず、又八を責め立てていたが口を割らない。小柳は一計を案じ、又八を牢から連れ出す。

明神の次郎吉

明神の次郎吉が看取った老僧・宗円に頼まれた遺品を、岸井左馬之助に届けに来たのである。宗円は岸井左馬之助が再び江戸にでてきて押上村の春慶寺に戻った時にいた僧である。左馬之助は次郎吉を手厚くもてなすが、この次郎吉をみかけた火付盗賊改方の密偵がいた。

流星

平蔵の配下の妻が白昼殺された。緊迫する火付盗賊改方であるが、そのことを嘲笑うかのように今度は押し込みがおきる。平蔵は激怒するが敵が何者なのかも分からない。

平蔵宅に忍び込んだ老盗賊の浜崎の友蔵のところに助働きの頼みがきた。しかもこの頼みは断れない。なぜなら人質がいるからである。浜崎の友蔵の舟を使った助働きが必要としたのは生駒の仙右衛門である。鹿山の市之助と組んでの盗みである。

一方、敵がわからず焦っている火付盗賊改方。小房の粂八が浜崎の友蔵のところに相談にきたが、友蔵はいなかった。あわてて出て行ったということを聞き、平蔵にすぐさま報告する。ここから敵につながる一筋の糸が見えてきた。

白と黒

二人組の下女泥があらわれた。短期間だけ商家で働き、間取りを覚えたら金を失敬する泥棒である。顔は見られているので、特徴は分かっている。

一方、平蔵は取り逃がした翻筋斗の亀太郎を従兄の仙右衛門宅からの帰り道に見かける。その場では捕えずに、彦十らに見張らせる。

あきらめきれずに

岸井左馬之助がもぞもぞと様子がおかしい。聞いてみると、小野田治平という老剣客の娘・お静を嫁に貰わないかと言われたのだ。この事を平蔵に話せばからかわれるに違いないと思っていた左馬之助は言い出しにくかったのだ。平蔵は左馬之助とともにお静を見に行くが…

本書について

池波正太郎
鬼平犯科帳8
文春文庫 約二八〇頁
連作短編
江戸時代

目次

用心棒
あきれた奴
明神の次郎吉
流星
白と黒
あきらめきれずに

登場人物

用心棒
 高木軍兵衛
 馬越の仁兵衛
 お熊…笹やの女あるじ

あきれた奴
 小柳安五郎…同心
 鹿留の又八…盗賊

明神の次郎吉
 明神の次郎吉…盗賊
 櫛山の武兵衛…盗賊
 宗円…坊主

流星
 沖源蔵…剣客
 杉浦要次郎…剣客
 生駒の仙右衛門…盗賊
 鹿山の市之助…盗賊
 浜崎の友蔵…元盗賊

白と黒
 翻筋斗の亀太郎…盗賊
 お仙
 お今

あきらめきれずに
 岸井左馬之助
 小野田治平…剣客
 お静…治平の娘
 浅井高之助

池波正太郎の火付盗賊改もの

映画の原作になった小説

山本一力「あかね空」のあらすじと感想は?
第126回直木賞受賞作品です。永吉から見れば親子二代の、おふみから見ればおふみの父母をいれて親子三代の話です。本書あかね空ではおふみを中心に物語が進みますので、親子三代の物語と考えた方がよいでしょう。
藤沢周平「時雨みち」の感想とあらすじは?
「帰還せず」と「滴る汗」は藤沢周平には珍しい公儀隠密もの。印象に残る作品は「山桜」と「亭主の仲間」。「山桜」が2008年に映画化されました。
藤沢周平「雪明かり」の感想とあらすじは?
直木賞受賞前後の短編集。大雑把には前半が市井もので、後半が武家ものだが、中間のものは市井もの武家もの半々である。藤沢周平としては前期の作品群になる。
池波正太郎「鬼平犯科帳 第6巻」の感想とあらすじは?

主立った登場人物が登場しつくし、登場人物が落ち着いてきている。本作で印象に残るのが、「大川の隠居」である。火付盗賊改方に盗っ人が入り込み、その盗っ人と平蔵の駆け引きがとても面白い作品である。

池波正太郎「雲霧仁左衛門」の感想とあらすじは?
池波正太郎の火付盗賊改方というと「鬼平犯科帳」があまりにも有名すぎますので、本書は霞んでしまう面がありますが、「鬼平犯科帳」とは異なり、長編の面白さを十分に堪能できる時代小説であり、短編の「鬼平犯科帳」とは違う魅力にあふれた作品です。
池波正太郎「仕掛人・藤枝梅安 第1巻 殺しの四人」の感想とあらすじは?
仕掛人シリーズの第一弾です。藤枝梅安と彦次郎の二入の過去が随所に散りばめられ、二人の背景となる事柄がこの一冊でおよそ分かります。また、仕掛人の世界に独特の言葉も解説されており、今後のシリーズを読む際の助けになります。今後このシリーズの脇を固...
司馬遼太郎の「城をとる話」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
覚書/感想/コメント昭和三十九年(1964年)に俳優・石原裕次郎氏が司馬遼太郎氏を訪ね、主演する映画の原作を頼みました。それが本作です。司馬氏は石原裕次郎氏が好きで、石原氏たっての願いを無下に断れるようではなかったようです。映画題名「城取り...
井上靖の「敦煌」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

敦煌が脚光を浴びるのは、20世紀になってからである。特に注目を浴びたのは、敦煌の石窟から発見された仏典である。全部で4万点。

ヴァレリオ・マンフレディの「カエサルの魔剣」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
覚書/感想/コメント舞台となるのは西ローマ帝国の崩壊時。最後の皇帝ロムルス・アウグストゥスが主要な登場人物となっています。歴史にifがあるとした、冒険歴史小説です。グリーヴァのドルイド僧、マーディン・エムリース、ローマ名メリディウス・アンブ...
池宮彰一郎の「四十七人の刺客」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
第12回新田次郎文学賞受賞。いわゆる忠義の士を描いた忠臣蔵をベースにしたものではない。だから、忠義の士という描かれ方というわけではない。
藤沢周平「蝉しぐれ」の感想とあらすじは?
藤沢周平の長編時代小説です。時代小説のなかでも筆頭にあげられる名著の一冊です。幼い日の淡い恋心を題材にしつつ、藩の権力闘争に翻弄される主人公の物語が一つの骨格にあります。
浅田次郎「壬生義士伝」の感想とあらすじは?(映画の原作です)(面白い!)

第十三回柴田錬三郎賞受賞作品。新選組というものにはあまり興味がなかった。倒幕派か佐幕派かといったら、倒幕派の志士の話の方が好きであった。だが、本書で少し新選組が好きになった。興味が湧いた。

山本周五郎の「赤ひげ診療譚」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
新出去定という医者は、その使命感や考え方のみならず、全体としての個性が強烈である。その新出去定がいう言葉に次のようなことがある。
司馬遼太郎の「梟の城」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
司馬遼太郎氏が第42回直木三十五賞を受賞した作品です。舞台となるのは、秀吉の晩年。伊賀忍者の葛籠重蔵、風間五平、木さる。そして謎の女・小萩。それぞれの思惑が入り乱れる忍びを主人公とした小説です。
藤沢周平「闇の歯車」の感想とあらすじは?
職人のような作品を作る事が多い藤沢周平としては、意外に派手な印象がある。だから、一度読んでしまうと、はっきりと粗筋が頭に残ってしまう。そういう意味では映像化しやすい内容だとも言える。
井上靖「おろしや国酔夢譚」の感想とあらすじは?(映画の原作です)
覚書/感想/コメント「序章」で大黒屋光太夫ら伊勢漂民以外のロシアに漂着した漂民を簡単に書いています。それらの漂民は日本に帰ることはかないませんでした。ですが、この小説の主人公大黒屋光太夫は日本に帰ることを得たのです。帰ることを得たのですが、...
和田竜「のぼうの城」の感想とあらすじは?

脚本「忍ぶの城」を小説化したのが「のぼうの城」である。舞台は秀吉の北条氏討伐で唯一落ちなかった忍城(おしじょう)の攻城戦。この忍城の攻防戦自体がかなり面白い。十倍を超える敵を相手に一月以上も籠城を重ね、ついに落ちなかった。

浅田次郎「輪違屋糸里」の感想とあらすじは?
新撰組もの。舞台は江戸時代末期。「壬生義士伝」が男の目線から見た新撰組なら、この「輪違屋糸里」は女の目線から見た新撰組です。しかも、時期が限定されています。まだ壬生浪士組と呼ばれていた時期から、芹沢鴨が暗殺されるまでの時期が舞台となっている...
酒見賢一の「墨攻」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)(面白い!)
物語の始まりは墨子と公輸盤との論戦から始まる。この論戦で語られることが、物語の最後で効いてくる重要な伏線となっている。さて、墨子は謎に包まれている思想家である。そして、その集団も謎に包まれたままである。
宇江佐真理の「雷桜」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
江戸という都会から少しだけ離れた山里。その山里にある不思議な山という特殊な空間が、現実を忘れさせてくれる舞台となっている。そして、そこで出会うお遊と斉道というのは、まるでシンデレラ・ストーリー。