記事内に広告が含まれています。

藤沢周平「たそがれ清兵衛」の感想とあらすじは?

この記事は約5分で読めます。

短編八作。全てが、剣士としては一流なのですが、一癖も二癖もある人物が主人公となっています。

“だんまり弥助”は、弥助が寡黙になった原因が話しの根っこにあります。一種のトラウマです。このトラウマから解放される時の弥助の心境がラストを飾り、清々しい作品となっています。

“かが泣き半平”は、ある意味身からでた錆で、厄介事に巻き込まれてしまっています。しかし、その一方で多少の同情を禁じ得ないのも確かです。

さて、2002年の映画「たそがれ清兵衛」(主演:真田広之、宮沢りえ。第76回アカデミー賞外国語作品賞ノミネート。)の原作となるのが、本書収録の「たそがれ清兵衛」「祝い人助八」と「竹光始末」(「竹光始末」に収録)です。

映画では、主人公の人物設定の多くを「祝い人助八」に依っている感じがあります。

また、ストーリーの骨格に近いところも「祝い人助八」に依っている感じです。映画のラストシーンは「祝い人助八」からのものでしょう。

映画をご覧になっていない方は、「たそがれ清兵衛」「祝い人助八」と「竹光始末」を読まれてから、映画を見ると面白いでしょう。

映画と原作のどこが違い、映画でどう反映されているのかを見るのもまた、映画を楽しむ方法だと思います。

映画「たそがれ清兵衛」の紹介

(映画)たそがれ清兵衛(2002年)の考察と感想とあらすじは?
山田洋次監督による藤沢周平作品の映画化第1弾です。原作は藤沢周平の「たそがれ清兵衛」「竹光始末」「祝い人助八」です。原作となる3つの短編のそれぞれの特徴を生かしながら映画化されました。ただし、題名の「たそがれ清兵衛」が映画のストーリーの骨格...
スポンサーリンク

内容/あらすじ/ネタバレ

たそがれ清兵衛

井口清兵衛は下城の太鼓が鳴るとそそくさと帰るところから、たそがれ清兵衛と呼ばれている。

しかし、清兵衛は病弱の妻・奈美の世話をするために早々に帰るのだ。

その頃、藩では筆頭家老の堀将監の専横が目に余り始めている。殿からの指示で、上意討ちも辞さない情勢になっている。

その時の、討ち手に選ばれたのが井口清兵衛である。堀将監には北爪半四郎という剣の腕に覚えのあるものがついている。

うらなり与右衛門

うらなりという渾名は三栗与右衛門の顔からきている。誰もがヘチマのうらなりを想像するところから来ている。その与右衛門に艶聞が持上がっている。土屋の後家といい仲になっているらしいというのだ。

これが元で与右衛門は二十日の遠慮の処分を受けた。これには、与右衛門と中川助蔵は困った。というのも、長谷川志摩を守らなくてはならない秘密の仕事があるのだ。これが出来なくなる。

ごますり甚内

川波甚内は大声でごますりをするので有名である。

これは全て減らされた家禄を元にもどさんがためにしていることである。この効果はいっこうに現れない。

効果が現れたというのか…。家老の栗田兵部に呼ばれた折りに、家禄を戻してやろうと言われる。その代わり、働けと言うのだ。仕事は簡単だ。あるものを持って行き、代わりのものを貰うだけである。

この簡単な仕事の帰りに甚内は襲われる。

ど忘れ万六

樋口万六はど忘れをする。これが元で隠居をしたのだ。

ある日、嫁の亀代が途方に暮れているようだったので、話してみろと言ってみた。すると、嫁の亀代は、片岡文之進と茶屋から出てきたところを見られた。そのことで大場正五郎に脅されているというのだ。

しかし、何かあったわけではないのだ。どうすればいいのか困っていると亀代は言う。

だんまり弥助

杉内弥助重英は度が過ぎるほどの無口である。これは、かつて自らの口が滑って、従妹の美根を死に追いやったという自責の念があったからである。弥助は美根の葬儀の後から少しずつ寡黙になっていった。

藩では金井甚四郎と中老の大橋源左衛門が権力闘争を繰り広げていた。その一方の当事者、中老の大橋源左衛門は村井屋甚助と癒着している。弥助は、この事を突き止める。

かが泣き半平

露骨に泣き言を言う事からかが泣き半平と異名をとる鏑木半平。その半平が、藩主一門の守屋采女正の付き人・塚原が子供を折檻しているのを見かける。後にいる守屋采女正は制止する気配がない。たまらず飛び出した半平は塚原の折檻を止める。

ある日、この時の母親に半平が出会った。誰にも見られていないはずだが、この事を知っている者がいた。

日和見与次郎

藤江与次郎はどの派閥にも属していない。というのも、父が派閥抗争に敗れて家禄を減らされ、急に老けたのを見たからである。しかし、藩の情勢はそれを許そうとしなかった。

与次郎の従姉の織尾が尋ねてきた。しかし、与次郎はその時いなかった。あとで聞くと、江戸に向かう夫の警護を頼みに来たのだが、あいにく与次郎がいなかったので頼めなかったのだ。その従姉の一家が惨殺された。

祝い人助八

男やもめの伊部助八は、風呂にはいる事も少ないので体から異臭を放っている。この事を藩主に叱責されて、それ以来祝い人助八の異名をとっている。

この助八の元に親しい飯沼の波津が訪ねてきた。少しの間かくまって欲しいというのだ。元夫の甲田豊太郎の粗暴に恐れを抱いているのだ。

助八が甲田豊太郎を打ちのめすと、この事が上に知られ、助八は思いもかけない事に巻き込まれる。

本書について

藤沢周平
たそがれ清兵衛
新潮文庫 約三二〇頁
短編集
江戸時代

目次

たそがれ清兵衛
うらなり与右衛門
ごますり甚内
ど忘れ万六
だんまり弥助
かが泣き半平
日和見与次郎
祝い人助八

登場人物

たそがれ清兵衛
 井口清兵衛
 奈美…清兵衛の妻
 杉山頼母…家老
 堀将監…筆頭家老
 北爪半四郎

うらなり与右衛門
 三栗与右衛門
 中川助蔵
 長谷川志摩…家老
 平松藤兵衛…筆頭家老
 伊黒半十郎

ごますり甚内
 川波甚内
 栗田兵部…家老
 山内蔵之助…家老

ど忘れ万六
 樋口万六
 亀代…嫁
 大場庄五郎

だんまり弥助
 杉内弥助重英
 民乃…弥助の妻
 曾根金八
 金井甚四郎…次席家老
 大橋源左衛門…中老
 村井屋甚助
 服部邦之助
 美根…弥助の従妹

かが泣き半平
 鏑木半平
 勝乃…半平の妻
 守屋采女正…藩主一門
 塚原

日和見与次郎
 藤江与次郎
 丹羽司…御使番
 淵上多聞…組頭
 織尾…与次郎の従姉

祝い人助八
 伊部助八
 波津
 甲田豊太郎

映画の原作になった小説

藤沢周平「時雨みち」の感想とあらすじは?
「帰還せず」と「滴る汗」は藤沢周平には珍しい公儀隠密もの。印象に残る作品は「山桜」と「亭主の仲間」。「山桜」が2008年に映画化されました。
和田竜「のぼうの城」の感想とあらすじは?

脚本「忍ぶの城」を小説化したのが「のぼうの城」である。舞台は秀吉の北条氏討伐で唯一落ちなかった忍城(おしじょう)の攻城戦。この忍城の攻防戦自体がかなり面白い。十倍を超える敵を相手に一月以上も籠城を重ね、ついに落ちなかった。

藤沢周平「雪明かり」の感想とあらすじは?
直木賞受賞前後の短編集。大雑把には前半が市井もので、後半が武家ものだが、中間のものは市井もの武家もの半々である。藤沢周平としては前期の作品群になる。
井上靖「おろしや国酔夢譚」の感想とあらすじは?(映画の原作です)
覚書/感想/コメント「序章」で大黒屋光太夫ら伊勢漂民以外のロシアに漂着した漂民を簡単に書いています。それらの漂民は日本に帰ることはかないませんでした。ですが、この小説の主人公大黒屋光太夫は日本に帰ることを得たのです。帰ることを得たのですが、...
池波正太郎「鬼平犯科帳 第8巻」の感想とあらすじは?

今ひとつピリッとした感じがない。平蔵ら火付盗賊改方の派手な大立ち回りや、なじみの密偵達の華々しい活躍が乏しく感じられるためだろう。唯一「流星」がスケールを感じる短編である。

池波正太郎「仕掛人・藤枝梅安 第1巻 殺しの四人」の感想とあらすじは?
仕掛人シリーズの第一弾です。藤枝梅安と彦次郎の二入の過去が随所に散りばめられ、二人の背景となる事柄がこの一冊でおよそ分かります。また、仕掛人の世界に独特の言葉も解説されており、今後のシリーズを読む際の助けになります。今後このシリーズの脇を固...
藤沢周平「隠し剣秋風抄」の感想とあらすじは?
隠し剣シリーズの第二弾。全九編の短編集。前回同様、今回も独創的な秘剣が炸裂する。さて、印象に残る短編は、「暗黒剣千鳥」「盲目剣谺返し」の二編。「盲目剣谺返し」は2006年公開の「武士の一分」の原作である。
山本周五郎の「赤ひげ診療譚」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
新出去定という医者は、その使命感や考え方のみならず、全体としての個性が強烈である。その新出去定がいう言葉に次のようなことがある。
池波正太郎「鬼平犯科帳 第2巻」の感想とあらすじは?

本書、第二話「谷中・いろは茶屋」で同心の中でも憎めない登場人物の木村忠吾が初登場する。本書では二話で主要な役割を果たす。また、小房の粂八と相模の彦十は密偵として板に付き始めてきているようである。

ヴァレリオ・マンフレディの「カエサルの魔剣」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
覚書/感想/コメント舞台となるのは西ローマ帝国の崩壊時。最後の皇帝ロムルス・アウグストゥスが主要な登場人物となっています。歴史にifがあるとした、冒険歴史小説です。グリーヴァのドルイド僧、マーディン・エムリース、ローマ名メリディウス・アンブ...
藤沢周平「時雨のあと」の感想とあらすじは?
「闇の顔」の犯人は一体誰なのか。最後までわからず、そして、その犯人が意外な人物であることに思わず唸ってしまう作品。「鱗雲」では、二人の女性の対照的な結末が印象的な作品である。
京極夏彦の「嗤う伊右衛門」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)(面白い!)

第二十五回泉鏡花文学賞受賞作品。伝奇や幻想話というのは好きであるが、怪談やホラーというのは苦手である。だから積極的に読む気がしない。映画などに至っては見る気すらない。

井上靖の「風林火山」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
物語は、山本勘助が武田家に仕え、勘助が死んだ武田信玄(武田晴信)と上杉謙信(長尾景虎)との幾度と行われた戦の中で最大の川中島の決戦までを描いている。
浅田次郎の「憑神」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
幕末も幕末。大政奉還が行われた前後を舞台にしている。主人公別所彦四郎の昔らからの知り合いとして榎本釜次郎が登場する。この榎本釜次郎とは榎本武揚のことである。
佐伯泰英の「居眠り磐音江戸双紙 第1巻 陽炎ノ辻」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
坂崎磐音が豊後関前藩を出て江戸で暮らさなければならなくなった事件から物語は始まる。居眠り磐音の異名は、磐音の師・中戸信継が磐音の剣を評した言葉である。
池宮彰一郎の「四十七人の刺客」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
第12回新田次郎文学賞受賞。いわゆる忠義の士を描いた忠臣蔵をベースにしたものではない。だから、忠義の士という描かれ方というわけではない。
池波正太郎「雲霧仁左衛門」の感想とあらすじは?
池波正太郎の火付盗賊改方というと「鬼平犯科帳」があまりにも有名すぎますので、本書は霞んでしまう面がありますが、「鬼平犯科帳」とは異なり、長編の面白さを十分に堪能できる時代小説であり、短編の「鬼平犯科帳」とは違う魅力にあふれた作品です。
浅田次郎「壬生義士伝」の感想とあらすじは?(映画の原作です)(面白い!)

第十三回柴田錬三郎賞受賞作品。新選組というものにはあまり興味がなかった。倒幕派か佐幕派かといったら、倒幕派の志士の話の方が好きであった。だが、本書で少し新選組が好きになった。興味が湧いた。

池波正太郎「鬼平犯科帳 第6巻」の感想とあらすじは?

主立った登場人物が登場しつくし、登場人物が落ち着いてきている。本作で印象に残るのが、「大川の隠居」である。火付盗賊改方に盗っ人が入り込み、その盗っ人と平蔵の駆け引きがとても面白い作品である。

夢枕獏「陰陽師」第1巻」の感想とあらすじは?
ドロドロしたオカルトチックな印象はないが、不可思議な世界感の作品である。それに、闇が舞台になっていることが多いわりには、ホラーっぽくない。静かで優雅な感じすらする。