記事内に広告が含まれています。

夢枕獏「陰陽師」第1巻」の感想とあらすじは?

この記事は約5分で読めます。

シリーズ第一弾。短編集。

陰陽師ブームの火付け役となった作品の一つです。

ドロドロしたオカルトチックな印象はないですが、不可思議な世界感の作品です。

それに、闇が舞台になっていることが多いわりには、ホラーっぽくありません。静かで優雅な感じすらします。

陰陽師・安倍晴明は延喜二十一年の頃、醍醐天皇の世に生まれたようです。

今昔物語によると、安倍晴明は賀茂忠行という陰陽師の下で修行をし、賀茂忠行から陰陽の法をそっくり受け継ぎました。

一種の天才であり、頻繁に陰陽の法を見せては人を驚かしていたようです。

安倍晴明の屋敷は内裏の北東にあります。北東は鬼門の方角です。

平安京の北東に比叡山延暦寺があり、二重に張り巡らせて鬼門から内裏を守っていました。

この、安倍晴明は識神(しきじん)を使います。式神とも書き、しきしん、しきがみとも呼びます。

物語の中にも沢山出てきます。度々話題になるのは一条戻橋の下にいるといわれる安倍晴明の式神です。もっとも、姿は一度も現さないのですが…。

安倍晴明の友人として武士の源博雅朝臣がコンビとして登場します。

和歌の素養などはなく、自分自身は風雅を介さないと思っていますが、琵琶を弾かせたらかなりの腕前の持ち主です。

安倍晴明と源博雅のコンビは、シャーロック・ホームズで言うところの、ホームズとワトスンの関係のような感じです。

源博雅が媒介になることによって、馴染みの薄い平安時代と陰陽師の世界へすんなりと入り込んでいけるようになっています。

本書はこのコンビの紹介という感じです。

安倍晴明が活躍した時代については、「テーマ:平安時代(藤原氏の台頭、承平・天慶の乱、摂関政治、国風文化)」でまとめています。

このシリーズは映画化されています。2001年「陰陽師」。

(映画)陰陽師(2001年)の考察と感想とあらすじは
平安時代の実在の陰陽師・安倍晴明を主人公としている。陰陽師ブームの火付け役となった作品であり、これ以後、陰陽師ものの小説が数多く出たり再注目されたりした。

内容/あらすじ/ネタバレ

玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること

源博雅朝臣が安倍晴明の屋敷を訪ねたのは水無月の初めである。しばらく都を留守にしていた晴明は高野で坊主と呪について話をしてきたという。

博雅にはわからない。晴明は呪とは名ではないかというようなことを思いついたといった。ますますわからない。

晴明が留守にしている間に壬生忠見が死んだ。歌合わせで負け、やせ衰えて死んだという。その怨霊が清涼殿に出るそうだ。

その話とは別に、博雅は五日前の晩に帝が大事にしていた琵琶の玄象が盗まれたといった。だが、一昨日の晩に博雅はその音を聞いたという。聞いた場所は羅生門であった。

晴明は博雅と一緒に羅生門へ行った。二人と一緒に法師の蝉丸がついていった。

羅生門の上からは異国の言葉が聞こえてきた。天竺の言葉だと晴明は言う。その者は漢多太と名乗った。すでにこの世の者ではない。

漢多太は玉草という女官を連れてきたら、玄象を返すという。

梔子の女

皐月も半ば。源博雅が土御門大路にある安倍晴明の屋敷を訪ねた。

博雅の知り合いの武士に梶原資之というのがいる。出家して寿水と名乗っている。それが八日ほど前からあやかしに悩まされている。女のあやかしだ。

女には口がなかった。

晴明は懐に入れた一枚の紙片を女に見せた。女の瞳に喜びの色が現われた。紙には「如」と書かれていた。

黒川主

文月。鵜匠・賀茂忠輔の孫娘・綾子に妖異があった。何かに取り憑かれたらしい。忠輔は綾子の尋常でない光景を目の当たりにしたのだ。全裸で堀の中で鮎を口でくわえて食べている…。

忠輔の前に黒川主と名乗る男が現われた。男が帰ると綾子は昨夜のことを覚えていないという。その中、綾子の腹だけが大きくなっていった。

たまりかねた忠輔は智応という方士に相談をした。一度は黒川主を捕まえたものの、逃げられてしまう。

そして、安倍晴明のところに話がやってきたのだ。

安倍晴明が源博雅を誘って外出した。蟇だという。

四日ほど前、応天門にあやかしがでた。魔霊を押さえるための札が破かれ、あやかしがでるようになった。あやかしは子供だという。

晴明と博雅は陰態という、この世のものならぬ世界にいた。そこで博雅が見たのは百鬼夜行であった。方違によってやってきたのだ。ここで、晴明はあることを知りたかったのだ。

そして応天門に向かった。

鬼のみちゆき

それを最初に見たのは赤髪の犬麻呂という盗人だ。牛車に乗った女の鬼だ。左右には二人の影がある。内裏に行くと言ったそうだ。

もう一人見た者がいた。藤原成平という公家だ。牛車の女は七日かけて内裏に参上すると言った。ということは、明後日には大内裏の朱雀門の前に牛車は来てしまうことになる。

安倍晴明と源博雅は事前にこの牛車を見に行った。そして、博雅の一言で晴明はあることに思い当たった。

当日、晴明は博雅に帝へある言付けと願いを頼んだ。

白比丘尼

安倍晴明が源博雅に人を五、六人は切り殺したことのある太刀を持ってきて欲しいと頼んだ。

雪明かりの中、女は立っていた。晴明に三十年ぶりだという。

晴明は女に禍蛇という名の鬼を追い払う法を始めると宣言した。

結跏趺坐した女の芦の間から黒い蛇が出てきた。

本書について

夢枕獏
陰陽師1
文春文庫 約三三〇頁

目次

玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること
梔子の女
黒川主

鬼のみちゆき
白比丘尼

登場人物

安倍晴明…陰陽師
源博雅朝臣…武士
(賀茂忠行…安倍晴明の師)
蜜虫(みつむし)
蝉丸…法師
漢多太
玉草
鹿島貴次…武士
寿水(梶原資之)…元武士
賀茂忠輔…鵜匠
綾子…孫娘
黒川主
智応…方士
赤髪の犬麻呂…盗人
藤原成平…公家

映画の原作になった小説

山本兼一の「火天の城」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

第十一回松本清張賞。織田信長の最後の居城・安土城をつくった職人たちの物語。天主を担当した岡部又右衛門以言、岡部又兵衛以俊の親子を主人公としている。安土城は謎に包まれている城である。

池波正太郎「鬼平犯科帳 第6巻」の感想とあらすじは?

主立った登場人物が登場しつくし、登場人物が落ち着いてきている。本作で印象に残るのが、「大川の隠居」である。火付盗賊改方に盗っ人が入り込み、その盗っ人と平蔵の駆け引きがとても面白い作品である。

藤沢周平「闇の歯車」の感想とあらすじは?
職人のような作品を作る事が多い藤沢周平としては、意外に派手な印象がある。だから、一度読んでしまうと、はっきりと粗筋が頭に残ってしまう。そういう意味では映像化しやすい内容だとも言える。
ヴァレリオ・マンフレディの「カエサルの魔剣」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
覚書/感想/コメント舞台となるのは西ローマ帝国の崩壊時。最後の皇帝ロムルス・アウグストゥスが主要な登場人物となっています。歴史にifがあるとした、冒険歴史小説です。グリーヴァのドルイド僧、マーディン・エムリース、ローマ名メリディウス・アンブ...
藤沢周平「時雨みち」の感想とあらすじは?
「帰還せず」と「滴る汗」は藤沢周平には珍しい公儀隠密もの。印象に残る作品は「山桜」と「亭主の仲間」。「山桜」が2008年に映画化されました。
和田竜「のぼうの城」の感想とあらすじは?

脚本「忍ぶの城」を小説化したのが「のぼうの城」である。舞台は秀吉の北条氏討伐で唯一落ちなかった忍城(おしじょう)の攻城戦。この忍城の攻防戦自体がかなり面白い。十倍を超える敵を相手に一月以上も籠城を重ね、ついに落ちなかった。

藤沢周平「隠し剣秋風抄」の感想とあらすじは?
隠し剣シリーズの第二弾。全九編の短編集。前回同様、今回も独創的な秘剣が炸裂する。さて、印象に残る短編は、「暗黒剣千鳥」「盲目剣谺返し」の二編。「盲目剣谺返し」は2006年公開の「武士の一分」の原作である。
池波正太郎「鬼平犯科帳第22巻 特別長編 迷路」の感想とあらすじは?

個人的に、鬼平シリーズの中で、本書が最も長谷川平蔵が格好良く書かれている作品だと思う。特に最後の場面は、思わず"目頭が熱く"なってしまった。

佐伯泰英の「居眠り磐音江戸双紙 第1巻 陽炎ノ辻」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
坂崎磐音が豊後関前藩を出て江戸で暮らさなければならなくなった事件から物語は始まる。居眠り磐音の異名は、磐音の師・中戸信継が磐音の剣を評した言葉である。
山本周五郎の「赤ひげ診療譚」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
新出去定という医者は、その使命感や考え方のみならず、全体としての個性が強烈である。その新出去定がいう言葉に次のようなことがある。
藤沢周平「竹光始末」の感想とあらすじは?
短編6作。武家ものと市井ものが織混ざった作品集である。「竹光始末」「恐妻の剣」「乱心」「遠方より来る」が武家もの、「石を抱く」「冬の終りに」が市井ものとなる。また、「竹光始末」「遠方より来る」が海坂藩を舞台にしている。
藤沢周平「雪明かり」の感想とあらすじは?
直木賞受賞前後の短編集。大雑把には前半が市井もので、後半が武家ものだが、中間のものは市井もの武家もの半々である。藤沢周平としては前期の作品群になる。
酒見賢一の「墨攻」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)(面白い!)
物語の始まりは墨子と公輸盤との論戦から始まる。この論戦で語られることが、物語の最後で効いてくる重要な伏線となっている。さて、墨子は謎に包まれている思想家である。そして、その集団も謎に包まれたままである。
藤沢周平「隠し剣孤影抄」の感想とあらすじは?
それぞれの秘剣に特徴があるのが本書の魅力であろう。独創的な秘剣がそれぞれに冴えわたる。それがどのようなものなのかは、本書を是非読まれたい。特に印象的なのは、二編目の「臆病剣松風」と「宿命剣鬼走り」である。
藤沢周平の「花のあと」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
「旅の誘い」は「暗殺の年輪」に収録されている「冥い海」とあわせて読むと面白い。「冥い海」は葛飾北斎から見た広重が描かれており、「旅の誘い」では安藤広重から見た葛飾北斎が書かれている。
井上靖の「風林火山」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
物語は、山本勘助が武田家に仕え、勘助が死んだ武田信玄(武田晴信)と上杉謙信(長尾景虎)との幾度と行われた戦の中で最大の川中島の決戦までを描いている。
池波正太郎「鬼平犯科帳 第8巻」の感想とあらすじは?

今ひとつピリッとした感じがない。平蔵ら火付盗賊改方の派手な大立ち回りや、なじみの密偵達の華々しい活躍が乏しく感じられるためだろう。唯一「流星」がスケールを感じる短編である。

海音寺潮五郎「天と地と」の感想とあらすじは?
本書は上杉謙信の側から見事に描ききった小説であると思う。本書では、上杉謙信が亡くなるまでを描いているのではない。しかし、重要な局面で印象的に小説は終了している。
浅田次郎の「憑神」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
幕末も幕末。大政奉還が行われた前後を舞台にしている。主人公別所彦四郎の昔らからの知り合いとして榎本釜次郎が登場する。この榎本釜次郎とは榎本武揚のことである。
藤沢周平「蝉しぐれ」の感想とあらすじは?
藤沢周平の長編時代小説です。時代小説のなかでも筆頭にあげられる名著の一冊です。幼い日の淡い恋心を題材にしつつ、藩の権力闘争に翻弄される主人公の物語が一つの骨格にあります。