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池波正太郎「鬼平犯科帳 第6巻」の感想とあらすじは?

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主立った登場人物が登場しつくし、登場人物が落ち着いてきています。

さて、本作で印象に残るのが、「大川の隠居」です。火付盗賊改方に盗っ人が入り込み、その盗っ人と平蔵の駆け引きがとても面白い作品です。

鬼平シリーズの中ではちょっと異色な感じがあります。

一つには、盗賊団と火付盗賊改方の闘いではない点。

もう一つは題名と関係があるのですが、この題名について印象的な描写をしている点です。

ここで登場する盗っ人が現役を退いた”隠居”である点と、「大川の隠居」をかけているあたりがとても面白いのですが、この”本当”の「大川の隠居」の描写がとても印象的なのです。

池波正太郎の自然に対する畏敬を描写しているようにも感じられるこのシーンは、鬼平シリーズの中ではこれ以外にないように思います。

さて”本当”の「大川の隠居」は一体何なのかは、本書で確認して頂きたいと思います。

参考:「狐火」が「鬼平犯科帳 劇場版」の原作の一つだと思われます。

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監督は鬼平犯科帳のテレビシリーズの監督もつとめている小野田嘉幹。松竹創業100周年記念作品。率直な感想としては、"別に映画化しなくても良かったのではないか?テレビの特番で十分"といったところ。
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内容/あらすじ/ネタバレ

礼金二百両

横山大学の長男・千代太郎が拐かされた。それに、徳川家康から賜った国光の短刀も盗まれてしまった。このことが公になれば、家の取り潰しもあり得るため、横山大学は隠密に処理をしたいのである。

そのため甥が長谷川平蔵宣以の配下である谷善左衛門を通じて、谷善左衛門から佐嶋忠介に頼み込んで、平蔵の耳に達した。平蔵は話しを聞いて、頭に浮かぶものがあったようである。果たして、犯人は一体誰なのか。

猫じゃらしの女

密偵の伊三次は岡場所で遊んでいた。相手をしているおよねが、先日相手をした客から預かりものをしていると話す。見てはいけないと釘を刺されたのだが、つい見てしまった。しかし、およねにはその物が一体何なのかさっぱり分からなかった。

伊三次は、どれどれと見ると、もと盗賊の伊三次の目には錠前の型であることがすぐに分かった。伊三次はこれを取りにもどる客を捕まえるべく小房の粂八に連絡をする。

剣客

平蔵と木村忠吾が巡回をしていると、横を通り過ぎる侍の袖に血が付いているのに平蔵が気が付いた。平蔵は忠吾に後をつけさせた。近くで騒ぎが起きた様子はなかった。

すると剣術の師を見舞いに行く非番の沢田小平次と出会う。平蔵は沢田小平次とともに、その師の所へ行くが、そこでその師が殺されているのを発見した。

狐火

おまさがかつて配下として働いたことのある狐火の勇五郎の二代目と思われる押し込みがあった。しかも、この狐火の勇五郎のやり口は凶悪であった。

おまさはとても二代目の仕業とは思えなかった。すると、二代目の狐火に勇五郎に出会う。凶悪なやり口は、やはり、二代目の仕事ではないという。二代目は弟の文吉の仕業だろうと言う。

大川の隠居

風邪を引いた平蔵が寝込んでいる所に盗っ人が忍び込んだらしい。平蔵が大切にしていた亡き父親の形見である煙管がなくなっている。残念に思っていたが、病み上がりに出かけた先で乗った舟の船頭がまさにその煙管を所持していた。平蔵は小房の粂八にその船頭を探らせる。

すると、その船頭は浜崎の友蔵という盗賊であった。友蔵は酔狂で今をときめく鬼平のところに忍び込んで煙管を盗んだことを自慢する。このことを聞いた平蔵は、ちょっとからかってやろうと考える。

盗賊人相書

東玉庵というそば屋に強盗が入った。厠に逃げていたおよしは犯人をしっかりと見ていた。木村忠吾は、そのおよしを連れて似顔絵を描くために石田竹仙のところに行った。

およしの言う通りに似顔絵を描く内にだんだんと無口になっていく石田竹仙。忠吾は熱心なことだと感心することしきりであるが、平蔵はそのことを聞いて別のことを考えた。

のっそり医者

勤めていたそば屋を襲われたために次の奉公先を探していたおよしは、医師の萩原宗順のところで働くことになった。およしは、宗順のところで大切にされているらしく、心配していた平蔵も安心した。

そのおよしが、役宅を訪ねてきてどうしても平蔵に伝えたいことがあるという。それは、最近萩原宗順宅を不審な人物がうろついているのだという。

本書について

池波正太郎
鬼平犯科帳6
文春文庫 約二八〇頁
連作短編
江戸時代

目次

礼金二百両
猫じゃらしの女
剣客
狐火
大川の隠居
盗賊人相書
のっそり医者

登場人物

礼金二百両
 横山大学
 千代太郎…横山大学の長男
 谷善左衛門…佐嶋忠介の叔父
 山本伊助
 又太郎

猫じゃらしの女
 伊三次…密偵
 およね
 卯之吉…型師

剣客
 石坂太四郎
 松尾喜兵衛

狐火
 狐火の勇五郎…盗賊
 文吉…盗賊
 瀨戸川の源七

大川の隠居
 浜崎の友蔵…盗賊

盗賊人相書
 およし
 石田竹仙…絵師
 遠州無宿の熊治郎…盗賊

のっそり医者
 およし
 萩原宗順…医師

池波正太郎の火付盗賊改もの

映画の原作になった小説

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