記事内に広告が含まれています。

池波正太郎「闇の狩人」の感想とあらすじは?

この記事は約4分で読めます。

仕掛人の世界と盗賊の世界。同じく闇に生きる二つの世界ですが、交わることのない世界を、一人の侍を媒介にして同居させ、さらに、武家社会の闇も同居させている作品です。

本書はある意味「鬼平犯科帳」の盗賊の世界と「仕掛人・藤枝梅安」の香具師の世界を同時に楽しめる、かなりおいしい作品といえます。

池波正太郎は、悪事ばかりに手を染めている悪党をえがくことはしません。

悪事をする一方、人助けをするという二面性をもつ人間としての悪党をえがくことが多いのです。

本来、悪党である盗賊と香具師の元締が、一人の記憶を失った侍を助けるという本書は、まさにこれです。

池波正太郎はどうも盗賊の世界を贔屓にしているように感じます。

特に、本格の盗賊は悪党にもかかわらず、あまり悪く書いていない感じがするのです。それは「鬼平犯科帳」においても感じることがあります。

ちなみに本格の盗賊とは盗賊三ヵ条を守る盗賊であり、盗賊三ヵ条とは以下をいいます。

一、盗まれて難儀するものへは、手を出さぬこと。
一、盗めするとき、人を殺傷せぬこと。
一、女を手ごめにせぬこと。

スポンサーリンク

内容/あらすじ/ネタバレ

上州と越後の境の温泉に湯治に来ていた雲津の弥平次は、思わぬ拾いものをする。ある一行に追われ、崖から落ちたために、記憶を失った侍を拾ったのである。

自分の名前を思い出せない侍に、弥平次は谷川弥太郎という名前を与えた。そして、弥平次と弥太郎は別れ、弥平次は江戸に戻った。

江戸に戻った弥平次は、盗賊・釜塚の金右衛門の跡目争いに巻き込まれていた。五郎山の伴助と土原の新兵衛が互いの陣営に人を引っこ抜いたり、もしくは敵の人間を殺し始めたのだ。

弥平次はこの争いを収めるために動き始める。
その頃、依然として記憶が戻っていない弥太郎は、弥太郎は五名の清右衛門という香具師の元締に拾われて、仕掛人として生きていた。五名の清右衛門は、同じ香具師の元締である白金の徳蔵からの圧力に危機感を覚えていた。

ある日、弥太郎は仕掛の為に斬った侍の口から笹尾平三郎という名を聞く。それが、自分の名前なのか?判然としない弥太郎であったが、嘗ての自分を取り戻す手がかりを得た。その手かがりは、やがて土岐丹波守につながっていく。

弥平次は、跡目争いを納めるために動いている中、偶然弥太郎を見かける。弥太郎が仕掛人として生きているのを知ると、仕掛人の世界から抜け出させるために、弥太郎を連れ出した。そして、弥太郎の過去を取り戻すために、一肌脱ぐ。

弥太郎は失った過去を取り戻せるのか?そして、土岐家との関わりはいったい何なのか?一方、弥平次は跡目争いをどう決着させるのか?また、五名の清右衛門と白金の徳蔵の勢力争いの結末は?

本書について

池波正太郎
闇の狩人
新潮文庫 上下計約九九〇頁
江戸時代

目次

ひろいもの
二年後
秋の声
水の底
鏡餅
隠れ家
煮こごり
飛ぶ雪
土岐家・下屋敷
春雷
白金の徳蔵
黄表紙の絵の男
木挽町・美濃半
船宿・ひたちや
陽炎
秘密
谷川弥太郎
三年後

登場人物

谷川弥太郎
おみち
お吉…ひたちやの女あるじ
〔盗賊〕
雲津の弥平次
おしま
徳治郎…船宿よしのや亭主
倉沢の与平
政七
亀次郎…政七の従弟
五郎山の伴助
土原の新兵衛
(釜塚の金右衛門)
(簑火の喜之助)
〔香具師〕
五名の清右衛門…香具師の元締
お浜…清右衛門の女房
金杉橋の長助…清右衛門の実弟
半場の助五郎
伊太郎
芝の治助…香具師の元締
白金の徳蔵…香具師の元締
(羽沢の嘉兵衛)

池波正太郎の火付盗賊改もの

池波正太郎の仕掛人・江戸の暗黒街

映画の原作になった小説

井上靖「おろしや国酔夢譚」の感想とあらすじは?(映画の原作です)
覚書/感想/コメント「序章」で大黒屋光太夫ら伊勢漂民以外のロシアに漂着した漂民を簡単に書いています。それらの漂民は日本に帰ることはかないませんでした。ですが、この小説の主人公大黒屋光太夫は日本に帰ることを得たのです。帰ることを得たのですが、...
海音寺潮五郎「天と地と」の感想とあらすじは?
本書は上杉謙信の側から見事に描ききった小説であると思う。本書では、上杉謙信が亡くなるまでを描いているのではない。しかし、重要な局面で印象的に小説は終了している。
池波正太郎「雲霧仁左衛門」の感想とあらすじは?
池波正太郎の火付盗賊改方というと「鬼平犯科帳」があまりにも有名すぎますので、本書は霞んでしまう面がありますが、「鬼平犯科帳」とは異なり、長編の面白さを十分に堪能できる時代小説であり、短編の「鬼平犯科帳」とは違う魅力にあふれた作品です。
夢枕獏「陰陽師」第1巻」の感想とあらすじは?
ドロドロしたオカルトチックな印象はないが、不可思議な世界感の作品である。それに、闇が舞台になっていることが多いわりには、ホラーっぽくない。静かで優雅な感じすらする。
藤沢周平「隠し剣孤影抄」の感想とあらすじは?
それぞれの秘剣に特徴があるのが本書の魅力であろう。独創的な秘剣がそれぞれに冴えわたる。それがどのようなものなのかは、本書を是非読まれたい。特に印象的なのは、二編目の「臆病剣松風」と「宿命剣鬼走り」である。
司馬遼太郎の「梟の城」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
司馬遼太郎氏が第42回直木三十五賞を受賞した作品です。舞台となるのは、秀吉の晩年。伊賀忍者の葛籠重蔵、風間五平、木さる。そして謎の女・小萩。それぞれの思惑が入り乱れる忍びを主人公とした小説です。
池波正太郎「鬼平犯科帳 第8巻」の感想とあらすじは?

今ひとつピリッとした感じがない。平蔵ら火付盗賊改方の派手な大立ち回りや、なじみの密偵達の華々しい活躍が乏しく感じられるためだろう。唯一「流星」がスケールを感じる短編である。

浅田次郎「壬生義士伝」の感想とあらすじは?(映画の原作です)(面白い!)

第十三回柴田錬三郎賞受賞作品。新選組というものにはあまり興味がなかった。倒幕派か佐幕派かといったら、倒幕派の志士の話の方が好きであった。だが、本書で少し新選組が好きになった。興味が湧いた。

池波正太郎「鬼平犯科帳 第6巻」の感想とあらすじは?

主立った登場人物が登場しつくし、登場人物が落ち着いてきている。本作で印象に残るのが、「大川の隠居」である。火付盗賊改方に盗っ人が入り込み、その盗っ人と平蔵の駆け引きがとても面白い作品である。

池波正太郎「仕掛人・藤枝梅安 第1巻 殺しの四人」の感想とあらすじは?
仕掛人シリーズの第一弾です。藤枝梅安と彦次郎の二入の過去が随所に散りばめられ、二人の背景となる事柄がこの一冊でおよそ分かります。また、仕掛人の世界に独特の言葉も解説されており、今後のシリーズを読む際の助けになります。今後このシリーズの脇を固...
藤沢周平「時雨みち」の感想とあらすじは?
「帰還せず」と「滴る汗」は藤沢周平には珍しい公儀隠密もの。印象に残る作品は「山桜」と「亭主の仲間」。「山桜」が2008年に映画化されました。
井上靖の「敦煌」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

敦煌が脚光を浴びるのは、20世紀になってからである。特に注目を浴びたのは、敦煌の石窟から発見された仏典である。全部で4万点。

佐伯泰英の「居眠り磐音江戸双紙 第1巻 陽炎ノ辻」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
坂崎磐音が豊後関前藩を出て江戸で暮らさなければならなくなった事件から物語は始まる。居眠り磐音の異名は、磐音の師・中戸信継が磐音の剣を評した言葉である。
藤沢周平「隠し剣秋風抄」の感想とあらすじは?
隠し剣シリーズの第二弾。全九編の短編集。前回同様、今回も独創的な秘剣が炸裂する。さて、印象に残る短編は、「暗黒剣千鳥」「盲目剣谺返し」の二編。「盲目剣谺返し」は2006年公開の「武士の一分」の原作である。
藤沢周平「蝉しぐれ」の感想とあらすじは?
藤沢周平の長編時代小説です。時代小説のなかでも筆頭にあげられる名著の一冊です。幼い日の淡い恋心を題材にしつつ、藩の権力闘争に翻弄される主人公の物語が一つの骨格にあります。
山本周五郎の「赤ひげ診療譚」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
新出去定という医者は、その使命感や考え方のみならず、全体としての個性が強烈である。その新出去定がいう言葉に次のようなことがある。
井上靖の「風林火山」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
物語は、山本勘助が武田家に仕え、勘助が死んだ武田信玄(武田晴信)と上杉謙信(長尾景虎)との幾度と行われた戦の中で最大の川中島の決戦までを描いている。
酒見賢一の「墨攻」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)(面白い!)
物語の始まりは墨子と公輸盤との論戦から始まる。この論戦で語られることが、物語の最後で効いてくる重要な伏線となっている。さて、墨子は謎に包まれている思想家である。そして、その集団も謎に包まれたままである。
山本兼一の「火天の城」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

第十一回松本清張賞。織田信長の最後の居城・安土城をつくった職人たちの物語。天主を担当した岡部又右衛門以言、岡部又兵衛以俊の親子を主人公としている。安土城は謎に包まれている城である。

藤沢周平の「花のあと」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
「旅の誘い」は「暗殺の年輪」に収録されている「冥い海」とあわせて読むと面白い。「冥い海」は葛飾北斎から見た広重が描かれており、「旅の誘い」では安藤広重から見た葛飾北斎が書かれている。