記事内に広告が含まれています。

佐伯泰英の「居眠り磐音江戸双紙 第1巻 陽炎ノ辻」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

この記事は約5分で読めます。
スポンサーリンク

覚書/感想/コメント

シリーズ第一巻。

坂崎磐音が豊後関前藩を出て江戸で暮らさなければならなくなった事件から物語は始まります。

居眠り磐音の異名は、磐音の師・中戸信継が磐音の剣を評した言葉です。

春先の縁側で日向ぼっこをしている年寄猫のようであり、眠っているのか起きているのか、まるで手応えがありません。

そこから名づけられました。

ですが、その磐音は厳しい稽古で知られる江戸・直心影流の佐々木道場で目録が与えられようとする程の腕前です。

佐々木道場の目録は他道場では免許皆伝ともいわれています。

さて、今回の磐音が巻き込まれる事件は、田沼意次の新貨幣政策で新たに流通することになる南鐐二朱銀に端を発します。

江戸時代における貨幣政策は改鋳がほとんどで、その度に金や銀の含有量が減り、減った分だけ幕府の儲けとなるという政策を採っていました。

一時的に幕府の財政を潤しますが、貨幣価値が下落し、市中でインフレが起きるので歓迎されませんでした。

今回はこの政策に絡んで入り乱れる思惑から起きる事件を物語としています。

こう書くと、何やら面倒なことを扱っているように思われるかもしれませんが、こうした部分をすっ飛ばしながら読み進めても、充分面白く、気負わず読むことの出来る作品です。

映像化

ドラマ化

  • 2007年にNHKの木曜時代劇で「陽炎の辻〜居眠り磐音 江戸双紙〜」としてドラマ化されました。

映画化

  • 2019年に映画化されました。

内容/あらすじ/ネタバレ

明和九年(一七七二)、豊後関前城下に三人の若者が江戸から戻ってきた。坂崎磐音、河出慎之助、小林琴平である。この三人は遊びも学問も共に付き合ってきた仲である。

そして慎之助の妻・舞は琴平の妹、そして磐音の許嫁も琴平の妹で三人は小林家の姉妹を通じて姻戚関係が結ばれようとするほどの仲でもある。だが、帰藩早々に事件が起きる。

河出慎之助が妻・舞の不義の噂を聞きつけ、問いただし、手打ちにしてしまったのだ。これに端を発し、琴平が慎之助を斬り、そして、磐音が琴平を斬らねばならない事態へと発展する。

この悲劇は養家から戻された遊蕩児と酒毒に士道を忘れた中年男が流した悪意のこもった流言がもたらしたものだった。

許嫁・奈緒の兄・琴平を殺した磐音は、奈緒を娶るというささやかな夢を奪われ、城下で暮らすことを諦めて江戸へと出た。

磐音が江戸に出てきたのはいいものの、明日の食事にも事を欠く有様である。大家の金兵衛が家賃滞納をされてもかなわないと、磐音に職を斡旋する。まずは、鰻割きの仕事で鉄五郎を紹介される。

そして、両替商・今津屋吉右衛門の用心棒。若干の曲折はあったものの、二つの仕事を磐音は得ることが出来た。

両替商・今津弥吉右衛門は脅されている。それは、田沼意次の新貨幣政策として出した南鐐二朱銀がもとである。狙いは上方経済圏との江戸経済圏との統一である。だが、これには根強い反対論者がいた。どうやらそこの辺りから狙われているらしい。

そこで用心棒をとなったのだが、磐音が一緒に組むことになるはずの品川柳二郎、竹村武左衛門がすぐに首になってしまう。これは二人の師匠が二人を破門して、代わりの用心棒を押しつけたからである。だが、この新たにやって来た用心棒の黒岩十三郎と天童赤司は野犬のようである。気を許せる相手ではなかった。

一体何を考えてこの二人を送り込んできたのか。磐音は先に首になった品川柳二郎、竹村武左衛門の両名にある頼み事をした。

今津屋では次第にことの真相が分かってきた。それは、南鐐二朱銀八枚と小判一両の交換による出目を目論んで大量の南鐐二朱銀を今津屋に持ち込み、今津屋を潰す魂胆なのだ。

そして、田沼改革を頓挫させる。裏にいるのはどうやら両替商の長老で両替屋行司の阿波屋有楽斎であり、さらには幕閣の老中が絡んでいるらしい。

今津屋に送られてきた用心棒はこのことに関係があるらしい。そして、いよいよ対決が始まる…。

本書について

佐伯泰英
陽炎ノ辻
居眠り磐音 江戸双紙1
双葉文庫 約三五〇頁
江戸時代

目次

第一章 向夏一石橋
第二章 暗雲広小路
第三章 騒乱南鐐銀
第四章 大川火炎船
第五章 雪下両国橋

登場人物

河出慎之助
舞…妻、琴平の妹
小林琴平…舞の兄
奈緒…琴平の妹、磐音の許嫁
蔵持十三…河出慎之助の叔父
山尻頼禎
福坂志山…分家当主、藩主叔父
宍戸文六…国家老
東源之丞…目付頭
参次
おみつ
市村集五郎…丹石流道場主
黒岩十三郎
天童赤司
毘沙門の統五郎
伊勢屋丹兵衛…両替商
阿波屋有楽斎…両替商
阿部伊予守正右…老中
徳兵衛…女衒
厳原湖伯…医者
源斎…医者
川合越前守久敬…勘定奉行
日村綱道…金座方
立川勇士郎…南町定廻り同心
千三…御用聞き

シリーズ一覧

  1. 陽炎ノ辻
  2. 寒雷ノ坂
  3. 花芒ノ海
  4. 雪華ノ里
  5. 龍天ノ門
  6. 雨降ノ山
  7. 狐火ノ杜
  8. 朔風ノ岸
  9. 遠霞ノ峠
  10. 朝虹ノ島
  11. 無月ノ橋
  12. 探梅ノ家
  13. 残花ノ庭
  14. 夏燕ノ道
  15. 驟雨ノ町
  16. 螢火ノ宿
  17. 紅椿ノ谷
  18. 捨雛ノ川
  19. 梅雨ノ蝶
  20. 野分ノ灘
  21. 鯖雲ノ城
  22. 荒海ノ津
  23. 万両ノ雪
  24. 朧夜ノ桜
  25. 白桐ノ夢
  26. 紅花ノ邨
  27. 石榴ノ蠅
  28. 照葉ノ露
  29. 冬桜ノ雀
  30. 侘助ノ白
  31. 更衣ノ鷹上
  32. 更衣ノ鷹下
  33. 孤愁ノ春
  34. 尾張ノ夏
  35. 姥捨ノ郷
  36. 紀伊ノ変
  37. 一矢ノ秋
  38. 東雲ノ空
  39. 秋思ノ人
  40. 春霞ノ乱
  41. 散華ノ刻
  42. 木槿ノ賦
  43. 徒然ノ冬
  44. 湯島ノ罠
  45. 空蟬ノ念
  46. 弓張ノ月
  47. 失意ノ方
  48. 白鶴ノ紅
  49. 意次ノ妄
  50. 竹屋ノ渡
  51. 旅立ノ朝(完)
  52. 「居眠り磐音江戸双紙」読本
  53. 読み切り中編「跡継ぎ」
  54. 居眠り磐音江戸双紙帰着準備号
  55. 読みきり中編「橋の上」(『居眠り磐音江戸双紙』青春編)
  56. 吉田版「居眠り磐音」江戸地図磐音が歩いた江戸の町

映画の原作になった小説

山本兼一の「火天の城」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

第十一回松本清張賞。織田信長の最後の居城・安土城をつくった職人たちの物語。天主を担当した岡部又右衛門以言、岡部又兵衛以俊の親子を主人公としている。安土城は謎に包まれている城である。

酒見賢一の「墨攻」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)(面白い!)
物語の始まりは墨子と公輸盤との論戦から始まる。この論戦で語られることが、物語の最後で効いてくる重要な伏線となっている。さて、墨子は謎に包まれている思想家である。そして、その集団も謎に包まれたままである。
池波正太郎「鬼平犯科帳 第2巻」の感想とあらすじは?

本書、第二話「谷中・いろは茶屋」で同心の中でも憎めない登場人物の木村忠吾が初登場する。本書では二話で主要な役割を果たす。また、小房の粂八と相模の彦十は密偵として板に付き始めてきているようである。

井上靖の「敦煌」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

敦煌が脚光を浴びるのは、20世紀になってからである。特に注目を浴びたのは、敦煌の石窟から発見された仏典である。全部で4万点。

浅田次郎「輪違屋糸里」の感想とあらすじは?
新撰組もの。舞台は江戸時代末期。「壬生義士伝」が男の目線から見た新撰組なら、この「輪違屋糸里」は女の目線から見た新撰組です。しかも、時期が限定されています。まだ壬生浪士組と呼ばれていた時期から、芹沢鴨が暗殺されるまでの時期が舞台となっている...
海音寺潮五郎「天と地と」の感想とあらすじは?
本書は上杉謙信の側から見事に描ききった小説であると思う。本書では、上杉謙信が亡くなるまでを描いているのではない。しかし、重要な局面で印象的に小説は終了している。
浅田次郎の「憑神」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
幕末も幕末。大政奉還が行われた前後を舞台にしている。主人公別所彦四郎の昔らからの知り合いとして榎本釜次郎が登場する。この榎本釜次郎とは榎本武揚のことである。
藤沢周平「蝉しぐれ」の感想とあらすじは?
藤沢周平の長編時代小説です。時代小説のなかでも筆頭にあげられる名著の一冊です。幼い日の淡い恋心を題材にしつつ、藩の権力闘争に翻弄される主人公の物語が一つの骨格にあります。
藤沢周平「竹光始末」の感想とあらすじは?
短編6作。武家ものと市井ものが織混ざった作品集である。「竹光始末」「恐妻の剣」「乱心」「遠方より来る」が武家もの、「石を抱く」「冬の終りに」が市井ものとなる。また、「竹光始末」「遠方より来る」が海坂藩を舞台にしている。
山本周五郎の「赤ひげ診療譚」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
新出去定という医者は、その使命感や考え方のみならず、全体としての個性が強烈である。その新出去定がいう言葉に次のようなことがある。
京極夏彦の「嗤う伊右衛門」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)(面白い!)

第二十五回泉鏡花文学賞受賞作品。伝奇や幻想話というのは好きであるが、怪談やホラーというのは苦手である。だから積極的に読む気がしない。映画などに至っては見る気すらない。

藤沢周平「闇の歯車」の感想とあらすじは?
職人のような作品を作る事が多い藤沢周平としては、意外に派手な印象がある。だから、一度読んでしまうと、はっきりと粗筋が頭に残ってしまう。そういう意味では映像化しやすい内容だとも言える。
山本一力「あかね空」のあらすじと感想は?
第126回直木賞受賞作品です。永吉から見れば親子二代の、おふみから見ればおふみの父母をいれて親子三代の話です。本書あかね空ではおふみを中心に物語が進みますので、親子三代の物語と考えた方がよいでしょう。
ヴァレリオ・マンフレディの「カエサルの魔剣」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
覚書/感想/コメント舞台となるのは西ローマ帝国の崩壊時。最後の皇帝ロムルス・アウグストゥスが主要な登場人物となっています。歴史にifがあるとした、冒険歴史小説です。グリーヴァのドルイド僧、マーディン・エムリース、ローマ名メリディウス・アンブ...
宇江佐真理の「雷桜」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
江戸という都会から少しだけ離れた山里。その山里にある不思議な山という特殊な空間が、現実を忘れさせてくれる舞台となっている。そして、そこで出会うお遊と斉道というのは、まるでシンデレラ・ストーリー。
井上靖「おろしや国酔夢譚」の感想とあらすじは?(映画の原作です)
覚書/感想/コメント「序章」で大黒屋光太夫ら伊勢漂民以外のロシアに漂着した漂民を簡単に書いています。それらの漂民は日本に帰ることはかないませんでした。ですが、この小説の主人公大黒屋光太夫は日本に帰ることを得たのです。帰ることを得たのですが、...
池波正太郎「雲霧仁左衛門」の感想とあらすじは?
池波正太郎の火付盗賊改方というと「鬼平犯科帳」があまりにも有名すぎますので、本書は霞んでしまう面がありますが、「鬼平犯科帳」とは異なり、長編の面白さを十分に堪能できる時代小説であり、短編の「鬼平犯科帳」とは違う魅力にあふれた作品です。
池波正太郎「鬼平犯科帳第22巻 特別長編 迷路」の感想とあらすじは?

個人的に、鬼平シリーズの中で、本書が最も長谷川平蔵が格好良く書かれている作品だと思う。特に最後の場面は、思わず"目頭が熱く"なってしまった。

井上靖の「風林火山」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
物語は、山本勘助が武田家に仕え、勘助が死んだ武田信玄(武田晴信)と上杉謙信(長尾景虎)との幾度と行われた戦の中で最大の川中島の決戦までを描いている。
池波正太郎「鬼平犯科帳 第6巻」の感想とあらすじは?

主立った登場人物が登場しつくし、登場人物が落ち着いてきている。本作で印象に残るのが、「大川の隠居」である。火付盗賊改方に盗っ人が入り込み、その盗っ人と平蔵の駆け引きがとても面白い作品である。