佐伯泰英の「居眠り磐音江戸双紙 第26巻 紅花ノ邨」を読んだ感想とあらすじ

この記事は約7分で読めます。
記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

覚書/感想/コメント

シリーズ第二十六弾。

今回、佐々木磐音は山形へ行くことになる。それは元許婚の小林奈緒(白鶴)が嫁いだ山形の紅花商人・前田屋内蔵助がピンチだという知らせが舞い込んだからだ。

これが山形藩を二分するような抗争の幕開けとなり、奈緒を救い出すために磐音は好む好まざるに関わらず政争に巻き込まれていく。

とはいえ、江戸では将軍世嗣の家基の命を狙う田沼一派の動きも心配であり、そうそう山形に長居できない。

さあさあ、磐音はどうやって奈緒を救い出すのか。

そして、奈緒との感動の再会はあるのか。

さて、今回のキーとなるのは「紅(べに)」の原料となる紅花である。

紅花はエジプト原産といわれ、日本には四から五世紀ごろに渡来したといわれている。高さは一メートルほどで、花の色は黄色。

国内ではもともと温かい西日本で栽培されていたようだが、これが江戸時代中期以降に山形県の最上地方などに広がり盛んに栽培されるようになる。

この紅花を摘んで、水にさらすと黄色の色素が抜き出で赤の色素が残る。

これを発酵、乾燥などの手間暇をかけて出来上がるのが「紅餅」であり、これが非常に高価であった。

紅餅をさらに加工してできる「紅」は同じ重さの金と等価値であったともいわれる。

山形の紅花はこうした紅花の中でも上質とされていたようで、特産品といってよい。

こうした特産品が有れば、それにむらがるロクでもない連中も現われるって訳で…。

だが、この高価な紅花も明治時代以降に中国産の輸入やら化学染料が普及したおかげで急速に衰退することになる。

江戸の尚武館では竹村武左衛門の娘・早苗が慣れない奉公に疲れを見せている。早苗を元気づけるために、おこんとおえいはあることを画策する。

そのおこんとおえいは三味線を習うことになった。

おえいは昔取った杵柄であるが、おこんははじめて。今小町といわれているおこんが実は超音痴だったというオチが付けば、それはそれでおこんの新たな魅力にもなるような気がするのだが。

さてさて、尚武館にはどんな唄声が響き渡るのだろうか?

尚武館といえば、すっかりと尚武館の番犬になった白山。頼もしさはもしかしたらでぶ軍鶏の重富利次郎よりも上かもしれない。

最後に。前々作の二十四弾が安永七年(一七七八)の正月で、前作の二十五弾が安永七年(一七七八)の初夏だった。本作は同年の晩夏である。

スポンサーリンク

内容/あらすじ/ネタバレ

季節は仲夏から晩夏へ移ろうとしていた。竹村武左衛門の娘・早苗が佐々木家に奉公に出て十数日がたとうとしていた。

三味線造りの鶴吉が佐々木道場を訪ねてきた。鶴吉は三味芳六代目を継ぎ、その最初に造った三味線はおえいのためにと決めていた。おえいは鶴吉の造った三味線のすばらしさに感嘆した。

鶴吉はおえいとおこんの師匠を探すことを買ってでた。

佐々木磐音は十日ほど前に吉原会所の四郎兵衛から使いをもらった。

磐音の元許婚の奈緒が嫁いだ山形の紅花大尽・前田屋が身代ごと乗っ取られそうな騒ぎが起っているようだという。前田屋の乗っ取りにはどうやら山形藩が関わっているようだ。

このことを磐音は養父の玲圓に話し、玲圓は一件を速水左近に相談するように指示した。

磐音と吉原会所の千次、園八の三人は江戸から七十三里を十日余りで走破し、福島城下を背景に信夫山を見ていた。

速水左近からの書状が届いた。前田屋に山形藩勘定物産方紅花奉行の手が入ったことは確かだという。山形藩では元年寄の久保村光右衛門実親に秘かに会うようにとの指示もあった。

紅花奉行は播磨屋三九郎というものが就き、これがこの度の騒ぎの仕掛人のようだ。山形藩では財政立て直しのために紅花と青苧を専売制にしようとしていることもわかってきた。

早苗が奉公に来て二十日が経とうとしていた。早苗の元気がないのを知り、おこんはおえいと相談の上、武左衛門を見舞いに行くことにしてこれに早苗を同行させた。

磐音は尾行してくるものをおびき出すために信夫山東麓の崖に刻まれた磨崖仏に寄り道することにした。姿を現したのは奥羽屋徳兵衛の番頭だという銀蔵だ。

銀蔵は磐音らを公儀密偵だと思っており、磐音たちを消そうと考えていた。

磐音らが山形に着き最上屋彦左衛門方に草鞋を脱いだ。ここで紅花奉行に就いた播磨屋三九郎が商人あがりで、首席家老の舘野十郎兵衛忠有に可愛がられ侍になったことがわかった。

現在、紅花の専売に対して猛然たる反対運動が起きているという。その先頭に立っているのが前田屋内蔵助だという。

今の山形藩の藩主は秋元但馬守永朝である。これが寺社奉行を狙っており、それには大きな金子がかかる。それを見越して国許で専売をはじめようとしているらしい。だが、藩主がどこまで知っているかは疑わしい。

今、奈緒は前田屋内蔵助と離れて暮らしているらしい。どうやら前田屋が奈緒を秘かに隠したようである。

紅花商いには最上義光の時代から栽培農家、紅花商人、京の紅花問屋を密に契る文書が存在する。紅花文書と呼ばれている。これがなければ、いくら藩が専売制にしようとしても成立しない。

どうやらこれを前田屋内蔵助は奈緒に託したらしい。舘野一統も必死で奈緒の行方に関心を持つはずである。

磐音は速水左近から指示のあった久保村光右衛門実親に面談するつもりでいた。

鶴吉はおえいとおこんの師匠として若い女師匠文字きよを紹介した。

磐音は奈緒を救うためには山形藩の藩政に首を突っ込まざるを得ないことを悟った。

速水左近は藩主・秋元永朝と面談すると伝えてきていた。公儀は紅花の専売制を認めないといったも同然だった。

久保村は町奉行の宗村創兵衛、目付の酒井弥太夫、勘定蔵方手代の野崎米次郎、先手頭の重守九策ら四人を集めた。

この集まりから二日間、山形には凄絶な粛清と抵抗の嵐が吹き荒れた。

前田屋内蔵助は舘野一統により紅花文書の行方を吐かせるために拷問にかけられていた。死の淵に追いやられるほどの拷問だ。その内蔵助を磐音と園八、千次らが救い出した。

このことはたちまち山形城下に広まった。舘野一統も必死に行方を捜している。

奈緒が匿われている先を知った磐音は舘野一統に探し出される前に奈緒に会って紅花文書の在処を聞き出すつもりでいた。

そして磐音はようやく奈緒の影を踏んだと思った…。

本書について

佐伯泰英
紅花ノ邨
居眠り磐音 江戸双紙26
双葉文庫 約三三〇頁
江戸時代

目次

第一章 老いた鶯
第二章 夜旅の峠
第三章 花摘む娘
第四章 籾蔵辻の変
第五章 半夏一ツ咲き

登場人物

佐々木磐音
おこん…磐音の妻
佐々木玲圓道永…養父、師匠、直心影流
おえい…玲圓の妻
(佐々木道場関係)
重富利次郎…通称・でぶ軍鶏
曽我慶一郎…伊与松平家家臣
早苗…竹村武左衛門の長女
白山…犬
鶴吉…三味線造り、三味芳六代目
文字きよ…三味線の師匠
(幕府関係)
徳川家基…将軍家後嗣
速水左近…御側御用取次
(今津屋関係、鰻屋宮戸川、その他)
今津屋吉右衛門…両替商
お佐紀…吉右衛門の内儀
由蔵…番頭
宮松…小僧
おはつ…おそめの妹
金兵衛…大家、おこんの父親
品川柳次郎
竹村武左衛門
勢津…竹村の女房
鉄五郎…鰻屋
幸吉…長屋の頃からの磐音の馴染み
(吉原会所)
四郎兵衛
千次
園八
島屋佐古七
梅蔵…番頭
森田次信…福島藩町奉行所同心
喜多仲平蔵
(山形藩)
前田屋内蔵助
奈緒…磐音の元許婚
秋元但馬守永朝
久保村光右衛門実親(双葉)…元年寄
宗村創兵衛…町奉行
酒井弥太夫…目付
野崎米次郎…勘定蔵方手代
重守九策…先手頭
桃李尼
土屋紅風
舘野十郎兵衛忠有…首席家老
舘野桂太郎…嫡男
播磨屋三九郎…紅花奉行
銀蔵…奥羽屋徳兵衛の番頭
最上屋彦左衛門
玄拳和尚…長源寺

シリーズ一覧

  1. 陽炎ノ辻
  2. 寒雷ノ坂
  3. 花芒ノ海
  4. 雪華ノ里
  5. 龍天ノ門
  6. 雨降ノ山
  7. 狐火ノ杜
  8. 朔風ノ岸
  9. 遠霞ノ峠
  10. 朝虹ノ島
  11. 無月ノ橋
  12. 探梅ノ家
  13. 残花ノ庭
  14. 夏燕ノ道
  15. 驟雨ノ町
  16. 螢火ノ宿
  17. 紅椿ノ谷
  18. 捨雛ノ川
  19. 梅雨ノ蝶
  20. 野分ノ灘
  21. 鯖雲ノ城
  22. 荒海ノ津
  23. 万両ノ雪
  24. 朧夜ノ桜
  25. 白桐ノ夢
  26. 紅花ノ邨
  27. 石榴ノ蠅
  28. 照葉ノ露
  29. 冬桜ノ雀
  30. 侘助ノ白
  31. 更衣ノ鷹上
  32. 更衣ノ鷹下
  33. 孤愁ノ春
  34. 尾張ノ夏
  35. 姥捨ノ郷
  36. 紀伊ノ変
  37. 一矢ノ秋
  38. 東雲ノ空
  39. 秋思ノ人
  40. 春霞ノ乱
  41. 散華ノ刻
  42. 木槿ノ賦
  43. 徒然ノ冬
  44. 湯島ノ罠
  45. 空蟬ノ念
  46. 弓張ノ月
  47. 失意ノ方
  48. 白鶴ノ紅
  49. 意次ノ妄
  50. 竹屋ノ渡
  51. 旅立ノ朝(完)
  52. 「居眠り磐音江戸双紙」読本
  53. 読み切り中編「跡継ぎ」
  54. 居眠り磐音江戸双紙帰着準備号
  55. 読みきり中編「橋の上」(『居眠り磐音江戸双紙』青春編)
  56. 吉田版「居眠り磐音」江戸地図磐音が歩いた江戸の町
タイトルとURLをコピーしました