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佐伯泰英の「居眠り磐音江戸双紙 第21巻 鯖雲ノ城」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第二十一弾

佐々木玲圓の後継となることが決まっている坂崎磐音。佐々木磐音と名前がかわる前に、嫡男の務めを果たすために、おこんを伴って故郷の豊後関前にいく。

この豊後関前藩の絵図が最初に掲載されているのが嬉しいオマケとなっている。

このシリーズは序盤でこそ豊後関前藩がよく登場した。だが、その後それほどの重要性がなくなっていた。

ここで一端仕切り直すかのように磐音を豊後関前藩に戻したのは、この後、坂崎磐音から佐々木磐音と名を変える磐音の新たな出発地として故郷を踏ませ立ったのではないだろうか。

それとも、故郷とお別れをして、新たな旅立ちを象徴させるためにこうしたのだろうか。

いずれにしても、シリーズは完全に新たな段階へ入ろうとしている。

新たな展開になると新たな人物が登場したり、昔からの人物たちに変化を持たせたりするものである。

本書では、磐音とおこんにくっついてきていた痩せ軍鶏こと松平辰平がそのまま諸国修行の旅に出ることになった。今度江戸に戻ってくる時には一回りも二回りも大きくなりそうな予感である。

嫡男の磐音が坂崎家を離れることで、坂崎家に養子入することになる井筒遼次郎は江戸へ修行に出されそうであり、磐音との繋がりが強くなりそうである。

また、最後に登場する博多の大商人・箱崎屋次郎平は、今度シリーズの中でどのような役割を果たすことになるのだろうか。少なくとも、磐音とおこんが江戸に戻るまでの旅の中で登場はしそうである。

この箱崎屋次郎平は、磐音が佐々木玲圓の後継になり、上様も喜ばれているだろうと語る。そして、佐々木家に入りることで政の道に踏み込むことになるだろうと。佐々木家とは単なる道場主の家柄ではないのだ。

佐々木磐音と名をかえ、敵対するのは田沼親子であるのは間違いない。

本書が安永六年(一七七七)。

田沼意次は十代将軍徳川家治の信任は厚く、安永元年(一七七二)にすでに老中となっていた。この田沼意次の力が落ちていく過程で息子・田沼意知の死がある。天明四年(一七八四)のことである。本書の時点から七年後。

そして、田沼意次本人の死は天明八年(一七八八)のことで、六九歳だった。本書の時点から十一年後のことだ。

恐らく、ここまでがこのシリーズの中で描かれる期間だろうと思われる。実際には、田沼意次が蟄居になる天明七年(一七八七)までにはシリーズが一旦完結すると思われる。

だが、これは相当先の話で、当面、磐音が直面する問題は将軍家後嗣の家基のことである。

この家基は安永八年(一七七九)、鷹狩りの帰りに突然苦しみ急死している。本書からわずか二年後のことである。

この家基に死には毒殺の噂もあり、本書の大きなクライマックスの一つになるのは間違いない。

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内容/あらすじ/ネタバレ

江戸を出発して三十六日目、船が豊予水道を過ぎ、舵を南へと取った。南北から大きく両腕を丸く広げたように雄美岬と猿多岬が関前湾を囲んで、湾の中央に小さな断崖がせり出し、その上に豊後関前城がそびえている。別名を白鶴城という。

坂崎磐音一行の到着を父で国家老の坂崎正睦自ら出迎えた。だが、この出迎えは、磐音が復藩するとか様々な憶測をうんだ。

坂崎正睦は娘の伊予が嫁いでいる井筒家の人々や腹心の郡奉行・東源之丞らを招いて、磐音とおこんの帰国を祝った。この席で、正睦は磐音とおこんが祝言を挙げることを知らせ、同時に磐音が佐々木玲圓の養子となることを知らせた。坂崎家の嫡男である磐音が坂崎家を離れると知り、一同は驚いていた。

だが、正睦は井筒家の次男・遼次郎を養子として迎えることを、井筒家の隠居・洸之進と源太郎の二人とはかっていた。当の遼次郎は突然の話にとまどいを隠しきれないでいる。

翌朝七つ、磐音が松平辰平と一緒に浜で稽古をしていると、薄暗い中、浜に怪しげな船が乗り上げた。

この後戻ると、おこんが今津屋のお佐紀と由蔵に持たされた二つの長持ちの一つを開いていた。この長持ちには贈り物が入っていた。そして一通りの仕分けが終わり、今度は坂崎家の墓参りへゆくことになった。

磐音の師・中戸信継は病で顔にも体にも生気が感じられなかった。そして、門弟も多くが去り、その大半が新たにやってきた諸星十兵衛の道場へ鞍替えをしていた。道場での稽古もかつてのような覇気がなく、弛緩した空気が漂っている。

中戸道場からの帰り、磐音と辰平は藩物産所へ立ち寄った。そこで初めて中津屋文蔵と会った。中津屋は近年急速に藩で力を付けてきた商人である。この中津屋文蔵と一緒に浜奉行の山瀬金太夫とも会った。

このあとに東源之丞と落ち合い詳しい話を聞くことが出来た。藩の借財は中津屋の働きもあり予定より早く返済できそうだが、その一方で中津屋に対して一万六千両あまりの未払い金ができてしまった。

この未払い金の返済はいつでもかまわないというかわりに、藩の人事に口をつっこんできているという。

磐音が家に戻ると、おこんが嗚咽している。お佐紀に持たされたもう一つの長持ちには花嫁衣装一式がそろえられていたのだ。それは関前で祝言を挙げられるようにというお佐紀の心遣いだった。おこんはそれに感激していたのだ。

この事を知り、坂崎家では仮祝言を挙げることになった。

帰国の途中で亡くなった住倉十八郎と虎吉の通夜の帰り、国家老・坂崎正睦を狙った刺客に襲われた。この連中を磐音が追い払ったが、すぐさま捕獲の手配がなされた。

この事があった後も、中戸道場の仲間が催してくれた磐音とおこんの歓迎会の帰りに襲われ、別の日には東源之丞が襲われた。東源之丞の傷は深く、命が危ぶまれる。その東が必死に刺客からもぎとったものがあった。それは羽織の紐である。

本書について

佐伯泰英
鯖雲ノ城
居眠り磐音 江戸双紙21
双葉文庫 約三四五頁
江戸時代

目次

第一章 白萩の寺
第二章 中戸道場の黄昏
第三章 三匹の秋茜
第四章 長羽織の紐
第五章 坂崎家の嫁

登場人物

中津屋文蔵
啓蔵…大番頭
山瀬金太夫…浜奉行
伊澤義忠…寄合
諸星十兵衛…道場主
市場栄左衛門
村越半三郎
上方屋丈右衛門…両替商
仲造…上方屋番頭
中戸信継…道場主
磯野玄太…師範
東源之丞…郡奉行
伊庭起春…物産所支配
園田七郎助…目付頭
榊兵衛…町奉行
井筒源太郎…磐音の義弟、伊予の亭主
井筒遼次郎…源太郎の弟
井筒洸之進…井筒家の隠居
願龍…泰然寺和尚
一譚
雲次…漁師
おまつ…松風屋女将
(坂崎家)
佐平…坂崎家老僕
笠間政兵衛…用人頭
水城秀太郎…用人
水城祐五郎…秀太郎の父
栄造…門番
白土葉之助…医師
箱崎屋次郎平…博多の大商人

シリーズ一覧

  1. 陽炎ノ辻
  2. 寒雷ノ坂
  3. 花芒ノ海
  4. 雪華ノ里
  5. 龍天ノ門
  6. 雨降ノ山
  7. 狐火ノ杜
  8. 朔風ノ岸
  9. 遠霞ノ峠
  10. 朝虹ノ島
  11. 無月ノ橋
  12. 探梅ノ家
  13. 残花ノ庭
  14. 夏燕ノ道
  15. 驟雨ノ町
  16. 螢火ノ宿
  17. 紅椿ノ谷
  18. 捨雛ノ川
  19. 梅雨ノ蝶
  20. 野分ノ灘
  21. 鯖雲ノ城
  22. 荒海ノ津
  23. 万両ノ雪
  24. 朧夜ノ桜
  25. 白桐ノ夢
  26. 紅花ノ邨
  27. 石榴ノ蠅
  28. 照葉ノ露
  29. 冬桜ノ雀
  30. 侘助ノ白
  31. 更衣ノ鷹上
  32. 更衣ノ鷹下
  33. 孤愁ノ春
  34. 尾張ノ夏
  35. 姥捨ノ郷
  36. 紀伊ノ変
  37. 一矢ノ秋
  38. 東雲ノ空
  39. 秋思ノ人
  40. 春霞ノ乱
  41. 散華ノ刻
  42. 木槿ノ賦
  43. 徒然ノ冬
  44. 湯島ノ罠
  45. 空蟬ノ念
  46. 弓張ノ月
  47. 失意ノ方
  48. 白鶴ノ紅
  49. 意次ノ妄
  50. 竹屋ノ渡
  51. 旅立ノ朝(完)
  52. 「居眠り磐音江戸双紙」読本
  53. 読み切り中編「跡継ぎ」
  54. 居眠り磐音江戸双紙帰着準備号
  55. 読みきり中編「橋の上」(『居眠り磐音江戸双紙』青春編)
  56. 吉田版「居眠り磐音」江戸地図磐音が歩いた江戸の町