佐伯泰英の「居眠り磐音江戸双紙 第23巻 万両ノ雪」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第二十三弾

近頃顔を見せないでいた笹塚孫一が顔を出した。というよりも、本書の前半分は笹塚孫一が主人公である。六年前に起きた事件が再燃し、笹塚孫一が活躍するというものである。磐音も絡んでくるが、驚きの絡み方をする。

この事件で、久々のやりとりが聞けて、嬉しいやら懐かしいやらであった。

「笹塚様、かねて申し上げているように、それがし南町奉行所の役人ではございませぬ」

坂崎磐音と笹塚孫一。この二人には、この掛け合いが似合う。

江戸に戻ってきた磐音とおこん。途中、大坂や名古屋で事件にでも巻き込まれるのだろうと思っていただけに、少し拍子抜けしたが、すんなりとは戻ってこられないのは磐音らしい。

この磐音とおこんだが、豊後関前藩で仮祝言を挙げているので、あとは正式に祝言を挙げるだけだ。まずは、磐音が佐々木玲圓と養子縁組をし、おこんは速水左近の養女となり、その後に祝言を挙げる。

磐音は養子縁組をすることで、本作以後「佐々木磐音」と名がかわる。

この養子縁組の時に、徳川家基から御下賜の品が届く。黒塗家紋蒔絵小さ刀だ。これには特別の思いが込められている。

磐音が佐々木家に養子として入ることにより、いよいよ佐々木家と将軍家との秘密の関わりに磐音が巻き込まれることになる。

そして、徳川家基から御下賜の品が届いたことにより、シリーズ最初の佳境が近いことも伝わってくる。(前作までは、この佳境にたどり着くまで十冊くらいかかるかと思っていたが、もう少し前に佳境が来る気がしてきた。)

あえて、「最初の佳境」といったのは、本書のあとがきで佐伯泰英氏が縄田一男氏のインタビューで、五十巻くらいはいきそうだと漏らしたからであり、今後の展開の中でもう一つ二つ山場がありそうだと踏んだからだ。今後の展開の中での山場は、田沼意次との対立にあるのは間違いない。

ちなみに、私は筆者が五十巻くらいと漏らしているのは、見込みが甘い気がしている。七十巻以上はいくのではないか、そう思っている。

さて、磐音たちの祝い事を前に、今津屋には跡取りが誕生し、御家人の当主となった品川柳次郎にも春がやってきそうな気配で、目出度いことが続いている。

新たな登場人物?も加わった。犬の白山号だ。この白山号もいつかシリーズの中で活躍する日が来るのだろう。
次作はいよいよ磐音とおこんの祝言が描かれるのだろうか。

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内容/あらすじ/ネタバレ

笹塚孫一は浦賀奉行所から回ってきた手配書に舌打ちをしていた。

六年前の明和八年(一七七一)。新宿の追分の子安稲荷近くの麹屋宣左衛門方に、おかげ参り白装束の賊が入った。

誰一人傷つけられることはなかったが、縛られていた奉公人が行灯を倒してしまい火が店に回って、主夫婦が亡くなった。

この取り調べをしていたのが当番方与力の笹塚孫一だったのだ。年番方に就任したのは翌年のことだった。

事件が起きて三日後、御用聞きの駕籠屋の紋蔵が、若い飯売が身請けされたという話を持ってきた。切餅一つで即金だったという。そこに孫一は不審を覚えた。

身請けされたお香のあとをつけ、相手の新助という男を問いただすつもりだ。だが、この新助が殺された。これは明らかに新助が昨日の賊に関連することを示している。

事件は頓挫した。孫一はお香に望みのだんご屋を江戸でひらかないかと誘った。新助からお香に話が漏れているかも知れないと賊が疑って、一味の誰かが顔を出さないかと期待をかけたのだ。

孫一がお香の店に顔を出すと、店先に万両の鉢が置かれていた。通りすがりの者からもらったというが、それを見てお香はハッとなった。思い出したことがあるのだ。新助が寝言で「万両の親方」と言ったというのだ。

孫一は早速そういう人物がいないか調べさせた。すると、犯罪者ではなく、恩賞を受ける側の人物に該当する人物がいた。万両の大次郎親方と呼ばれているそうだ。

この大次郎がお香の店に忍び込んだ。これを孫一が捕縛したが、盗みのことは知らぬ、ただお香に一目惚れして懸想したので会いに来たという。

そのまま口を割らすことが出来ず、殺人未遂と賭博常習の罪をもって三宅島への遠島となったのだ。

その万両の大次郎が島抜けをしたという…。

笹塚孫一は万両の大次郎が必ずお香の様子を窺いに現われると踏んでいた。

万両の大次郎は三宅島ではたいそう人望を集めていたらしい。人望を得て、島民や島役人が油断したところを見計らって、十三人で島抜けをしたのだ。また、人望があるだけでなく、剣の腕も良い。天然神道流の遣い手であった。

島抜けの途中で幾人かが死んだようで、残る仲間は三、四人であろうという。

御家人の当主に就いた品川柳次郎は、平川町の椎葉お有と会う時間が出来ていた。その柳次郎をお有の父・椎葉弥五郎が家に招いた。

この招きの帰り、柳次郎は笹塚孫一の姿を見かけ、何となしにあとを付けていた。昨日の礼もしたいという思いもあったからだ。その孫一が襲われるのをみて、柳次郎は飛び込んだ。襲ったのは万両の大次郎の義弟・草太郎だった。

笹塚孫一宛に文が届いた。万両の大次郎一味が数日後に江戸にはいるという。一味は八人。誰からのものかはわからぬが、信憑性が高そうだ。

一味には二人剣客がいる。赤嶽多之助という者と、途中で仲間になった亀村作之助という者だ。

万両の大次郎一味はもう江戸に入っているだろう。そうした中、品川柳次郎を呼び出す文が届けられた。柳次郎は誘い出された場所で、万両の大次郎一味が麹屋に押し入った時の金の分配を相談している場に出くわした…。

元旦。坂崎磐音とおこんの姿が尚武館の前にあった。久しぶりの江戸であった。

元旦早々佐々木道場に立ち合いを望む武芸者が現われた。高瀬少将輔と名乗った相手は道場の扁額と自分が持ち出してきた茶碗を賭けた。

ほうほうの体で道場を後にした高瀬少将輔は茶碗とともに、連れていた犬を残していた。だが、茶碗はどうも由緒あるもののように思われる。いっかいの武芸者が持ち歩けるものではない。

本書について

佐伯泰英
万両ノ雪
居眠り磐音 江戸双紙23
双葉文庫 約三八〇頁
江戸時代

目次

第一章 明和八年のおかげ参り
第二章 安永六年の島抜け
第三章 子安稲荷の謎
第四章 元旦の道場破り
第五章 跡取り披露
あとがき

登場人物

幹蔵…麹屋筆頭手代
季助…手代
駕籠屋の紋蔵…御用聞き
歌垣彦兵衛…臨時廻り同心
お香
新助
万両の大次郎
おきち
草太郎
赤嶽多之助
亀村作之助
お稲…亀村の妻女
伝馬の鬼八
染井の五郎蔵
落合の茂吉
椎葉弥五郎
志津
椎葉お有
高瀬少将輔
白山号…犬

シリーズ一覧

  1. 陽炎ノ辻
  2. 寒雷ノ坂
  3. 花芒ノ海
  4. 雪華ノ里
  5. 龍天ノ門
  6. 雨降ノ山
  7. 狐火ノ杜
  8. 朔風ノ岸
  9. 遠霞ノ峠
  10. 朝虹ノ島
  11. 無月ノ橋
  12. 探梅ノ家
  13. 残花ノ庭
  14. 夏燕ノ道
  15. 驟雨ノ町
  16. 螢火ノ宿
  17. 紅椿ノ谷
  18. 捨雛ノ川
  19. 梅雨ノ蝶
  20. 野分ノ灘
  21. 鯖雲ノ城
  22. 荒海ノ津
  23. 万両ノ雪
  24. 朧夜ノ桜
  25. 白桐ノ夢
  26. 紅花ノ邨
  27. 石榴ノ蠅
  28. 照葉ノ露
  29. 冬桜ノ雀
  30. 侘助ノ白
  31. 更衣ノ鷹上
  32. 更衣ノ鷹下
  33. 孤愁ノ春
  34. 尾張ノ夏
  35. 姥捨ノ郷
  36. 紀伊ノ変
  37. 一矢ノ秋
  38. 東雲ノ空
  39. 秋思ノ人
  40. 春霞ノ乱
  41. 散華ノ刻
  42. 木槿ノ賦
  43. 徒然ノ冬
  44. 湯島ノ罠
  45. 空蟬ノ念
  46. 弓張ノ月
  47. 失意ノ方
  48. 白鶴ノ紅
  49. 意次ノ妄
  50. 竹屋ノ渡
  51. 旅立ノ朝(完)
  52. 「居眠り磐音江戸双紙」読本
  53. 読み切り中編「跡継ぎ」
  54. 居眠り磐音江戸双紙帰着準備号
  55. 読みきり中編「橋の上」(『居眠り磐音江戸双紙』青春編)
  56. 吉田版「居眠り磐音」江戸地図磐音が歩いた江戸の町
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