記事内に広告が含まれています。

佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第8巻 知略!」を読んだ感想とあらすじ

この記事は約4分で読めます。

覚書/感想/コメント

今回は分家の孫娘るりが鳶沢一族に危難をもたらします。

信之助と一緒になったおきぬの代りに江戸にのぼってきたるりですが、鳶沢村でのびのびと育ったせいか、細かいところでの配慮に欠けるところがあります。

そんな中で起きた事件が鳶沢一族を窮地に陥れていきます。

さらに、悲劇が待ち受けていました。

実戦に慣れた鳶沢一族の中核となる人物たちが地方へ飛んだり、大黒丸に乗り込んだりして江戸も鳶沢村も陣容が手薄になってきています。

若手の育成は急務ですが、悠長に構えている時間がありません。

シリーズを重ねる毎に段々と苦しくなっていく鳶沢一族に未来はあるのでしょうか?

今回は甲賀五姓家の一つ鵜飼家が登場します。甲賀五十三家などは様々な時代小説で登場しますが、甲賀五姓家は珍しいかもしれません。

本書によると、歴史はこうなります。

「信濃の国司諏訪左衛門源重頼の三男望月三郎兼家が平将門の乱に軍功あって近江甲賀郡司になった。この時に甲賀近江守兼家と姓を改めた。子の家近も文武に優れていた。

この頃、甲賀王滝荘竜巻というところに幻術に長じた法師が住んでいた。家近はこの法師から術を習い、甲賀流の起源となる。

代はくだり、近江一族から望月、鵜飼、内貴、芥川、甲賀の五姓家が生じる。これら五姓家に南北朝の敗残兵が入り込んで甲賀五十三家が出来上がった。

五姓家に上野、伴、長野の三つを合わせて甲賀八天狗という。」

さて、大黒丸の登場とともに何となくですが海洋冒険小説の様相を呈してきているような気がしています。

雄飛!古着屋総兵衛影始末」で登場した武川衆ははるか彼方へ忘れ去られているようですし、本庄家の次女・宇伊の婿取りの気配もありません。

さて、次作以降どうなるのでしょう。

内容/あらすじ/ネタバレ

宝永四年(一七〇七)初夏。るりは呼鈴の音を聞いたが、空耳と思いそのままにしていた…。

芦ノ湖畔の温泉場に総兵衛と新妻の美雪が逗留していた。近くには総兵衛を狙う鵜飼衆時雨一族の頭領・洞爺斎蝶丸が潜んでいた。

総兵衛と美雪は武芸者の一行が一人の娘に言いがかりをつけている場面に遭遇し、娘を助けた。こうした出来事があった後、駒吉が弟の芳次をともなって現れた。

「影」から連絡があった。五日前に命が発せられたが、るりがそれに気がつかなかったので遅れたという。

笠蔵からの手紙にその命の内容がしたためられていた。

柳沢吉保の意を受けた者が京に上って清閑寺親房の三女・新典侍教子を綱吉の愛妾に差し出す企てをしているという噂がある。六十を超えた綱吉に若い女を差し出すのは命を縮めるようなものだ。京に上って調べよというものであった。

武芸者たちから助けた娘はおゆみといった。恋路を両親に反対され、京にいる祖父母に直訴にいく道中だという。

総兵衛は駒吉をともない、おゆみと一緒に京に上ることにした。一方、美雪は芳次と供に江戸に戻ることになった。

江戸では北町奉行所与力の鹿家赤兵衛が大黒屋に密貿易の疑いがあると出向いていた。またぞろ柳沢吉保の魔手が伸びようとしていた。鹿家の叔父・鵜飼参左衛門は柳沢家新御番組に新規に召し抱えられた者だということがわかった。そして、甲賀五十三家の名門の五姓家だという。忍びの一族だ。

その頃、京への道中の総兵衛は都合良く現れたおゆみという娘の存在を疑わしく考えていた。

るりが勾引にあった。どうやら本所の中之郷瓦町にある天祥院が怪しい。天祥院は鵜飼家から多額の布施がもたらされているのが分かった。るりの奪還作戦が動き出した。

総兵衛らと同行しているおゆみがある頼みをした。総兵衛はそろそろ本音が出てきたかと思った。

江戸では同心の鶴巻琢磨の後を笠蔵の指示のもと追跡していた。鶴巻は造船場に向かっていた。その造船場には亀が甲羅に覆われているように船の上部も鉄帯で補強された船が何艘も出来上がっていた。

それとは別に、甲賀鵜飼衆が相州の観音崎に向かったということがわかった。観音崎には大黒丸の隠し港がある。大黒屋にとって戦慄すべき事態が生じたようだ。

京に入った総兵衛は清閑寺親房の三女・教子の様子を見る前に、坊城公積を訪ねた。そして総兵衛はこの度の一件を相談することにした…。

本書について

佐伯泰英
知略!古着屋総兵衛影始末8
徳間文庫 約四〇〇頁
江戸時代

目次

序章
第一章 追跡
第二章 勾引
第三章 逼塞
第四章 参籠
第五章 海戦
終章 意地

登場人物

洞爺斎蝶丸…鵜飼衆時雨一族の棟梁
おゆみ(赤蛇子)
鵜飼参左衛門…柳沢家新御番組
鹿家赤兵衛…北町奉行所与力
鶴巻琢磨…同心
坪内定鑑…北町奉行
定岡舎人…柳沢家の御用人
松井十郎兵衛…十智流
猪谷又七郎…無敵流
豆太郎…山城宇治園の番頭
庸念…天祥院の小僧
清閑寺親房
新典侍教子…親房の三女
品川氏郷…表高家
内貴頼母…旗本
坊城公積…中納言

古着屋総兵衛影始末シリーズ

佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第11巻 帰還!」を読んだ感想とあらすじ
このシリーズの最終巻です。あとがきでは第一部の幕を下ろす、となっていますので、新シリーズの予感です。新シリーズでは、六代将軍徳川家宣の時代の間部詮房、新井白石、荻原重秀といったところを敵役にするのかもしれません。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第10巻 交趾!」を読んだ感想とあらすじ
題名の「交趾」は「こうち」と読みます。交阯とも書くことがあります。また、「こうし」と読むこともあります。前漢から唐にかけて置かれた中国の郡の名称で、現在のベトナム北部ソンコイ川流域地域を指します。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第9巻 難破!」を読んだ感想とあらすじ
二度目の航海に出発した大黒丸に危難が迫ろうとしています。そのことを知る船大工の箕之吉の行方を捜して総兵衛らと柳沢吉保の手下が動き出します。そして、大黒丸に乗り込んだ総兵衛はこの航海で最大のピンチを迎えます。鳶沢一族の命運はどうなるのでしょうか?
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第8巻 知略!」を読んだ感想とあらすじ
今回は分家の孫娘るりが鳶沢一族に危難をもたらします。信之助と一緒になったおきぬの代りに江戸にのぼってきたるりですが、鳶沢村でのびのびと育ったせいか、細かいところでの配慮に欠けるところがあります。そんな中で起きた事件が鳶沢一族を窮地に陥れていきます。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第7巻 雄飛!」を読んだ感想とあらすじ
前作で登場した武川衆が鳶沢一族の前に立ちはだかるのか?と思っていましたが、今回は展開が違います。まず、大黒屋には念願の大黒丸が完成します。ですが、この大黒丸の初航海は相当慌ただしい状況となってしまいます。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第6巻 朱印!」を読んだ感想とあらすじ
前作でお歌を殺された柳沢吉保。復讐戦が始まるのかと思いきや、本書からは本格的に柳沢一族と鳶沢一族の戦いが幕を開けます。古着屋総兵衛影始末の第二章が幕を開けるのが本書です。柳沢吉保が甲府宰相に任ぜられるところから陰謀が始まります。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第5巻 熱風!」を読んだ感想とあらすじ
江戸時代に約六十周年周期に三度ほどおきた大規模な伊勢神宮への集団参詣運動を題材にしています。この三度ほどおきたのは数百万人規模のものでした。お蔭参り、伊勢参りともいい、奉公人が無断でもしくは子供が親に無断で参詣したことから抜け参りとも呼ばれました。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第4巻 停止!」を読んだ感想とあらすじ
前作で「影」との対決に終止符を打った総兵衛ら鳶沢一族。第二の「影」の出現により今まで通りに影の旗本の役目を果たすことになります。この第二の「影」が早速登場するのかと思いきや、本作では登場しません。とはいっても、第二の「影」らしい人物は登場するのですが...。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第3巻 抹殺!」を読んだ感想とあらすじ
前作で「影」が下した指令は、播磨赤穂藩の藩主浅野内匠頭長矩が高家筆頭吉良上野介義央を斬りつけるという事件に端を発していました。総兵衛は「影」の意に反して動きます。「影」の指令が徳川家の安泰のためには逆に動くものと思ったからです。しかし、そのことによって「影」との対立が表面化しようとしていました。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第2巻 異心!」を読んだ感想とあらすじ
物語は花見をしている時に起きた事件から始まります。江戸の花見は、五代将軍徳川綱吉治世下での名所は不忍池を見下ろす上野の山。江戸時代の花見としては、他に飛鳥山、隅田川堤、品川御殿山、小金井などがありますが、これらは八代将軍徳川吉宗の時代を待たなくてはなりません。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第1巻 死闘!」を読んだ感想とあらすじ
初代総兵衛が徳川家康から直々に拝領した三池典太光世を、六代目総兵衛が先祖伝来の祖伝無想流に工夫を加えた秘剣、落花流水剣で斬る!シリーズの最初から全速力のスピードです。これは、波乱含みで展開が早いのがひとつ。鳶沢一族の全員が総力戦で縦横無尽に駆けめぐるため、視点がコロコロ変わるのが、もうひとつの要素です。