記事内に広告が含まれています。

佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第6巻 朱印!」を読んだ感想とあらすじ

この記事は約4分で読めます。

覚書/感想/コメント

前作でお歌を殺された柳沢吉保。復讐戦が始まるのかと思いきや、本書からは本格的に柳沢一族と鳶沢一族の戦いが幕を開けます。

古着屋総兵衛影始末の第二章が幕を開けるのが本書です。

柳沢吉保が甲府宰相に任ぜられるところから陰謀が始まります。

もともと甲斐は幕府にとって戦略的に重要な位置を占めていました。

そのため代々徳川一族が藩主として統治していました。ですが、綱吉の寵愛の深い柳沢吉保は一族同然の扱いを受け甲斐を統治することになります。

さらに、柳沢一族がもともと武田家に縁のある武川衆の出身とあり、このたびの移封によって武川衆が蠢動し始めます。

柳沢吉保にしてみれば、先祖伝来の地にようやく戻ってきたといったところなのでしょう。

今後、この武川衆と鳶沢一族の戦いが今後激烈なものになっていくのでしょうが、今回は小手調べといったところでしょうか。

今回総兵衛は甲府への潜入にある目的をもって信之助とおきぬを連れていきます。ですが、おきぬが重傷を負ってしまいます。

おきぬが重傷を負ってからの総兵衛らの逃走劇がハラハラどきどきの展開となるのですが、この逃走劇の中でおきぬの心境の変化が見逃せません。

さて、題名の「朱印」とは一体何を意味するのでしょうか?

実はこの題名自体が大きなヒントとなっているのですが、この答えは本書でご確認ください。

内容/あらすじ/ネタバレ

宰相と呼ばれた人物が大黒屋の新船・大黒丸の大きさを感嘆してみていた。そして供のものに大船建造を禁じた触れがなかったかと訊ねるが、ないといわれる。だが、宰相はなんとしてでも見つけよという。でなければ、われら柳沢一族の生きる道はないといった…。

宝永二年(一七〇五)の大晦日。鳶沢村では深沢美雪を村に迎えるために次郎兵衛と忠太郎が月窓院の澄水尼を訪ねた。次郎兵衛は美雪を一族の女として教育し直そうと思っているのだ。それには一つの思いがあった。このことは事後で江戸の総兵衛に告げられた。

総兵衛が駒吉を供に連れて外出している時のこと、甲府から連れてこられたという娘・ちよを救い出した。危うく遊女にされるところだったのだ。甲府というと老中首座の柳沢吉保の領地である。吉保は前年に川越城主から甲斐、駿河を統治する甲府宰相に任じられていた。

柳沢吉保は武田一族の出ということで領民は喜んでいるという。川越からの国替えの時は赤の陣羽織をきた侍大将が練り歩いたという。武川衆と呼ばれる一統のようだ。

年が明け、武川衆の動静を気にした総兵衛は四番番頭の磯松と手代の清吉を甲府に送り込んだ。

この二人からの手紙が届いた。甲府では警戒が厳重で、城の大規模な改修が行われているという。さらには甲斐領内で新しい金山開発の噂があるという。風布七人衆と呼ばれる武芸達者を幹部とする一族のものも動いている。どうやら柳沢吉保が全面に立ってきたようだ。

総兵衛は「影」と会うことにする。

「影」は総兵衛からの報告を聞いて驚愕する。そして、証拠をつかむために甲府へ潜入せよと命じた。

甲府への潜入は総兵衛自ら行うこととし、供に信之助とおきぬ、それと甲府出身のちよを選んだ。

甲府についた四人はちよの家に泊まることにした。ここで磯松と清吉と合流する。そして、新たな情報がもたらされた。城代家老の柳沢権太夫が江戸に赴き、江戸からなにか重要なものを持って帰るという噂があるというのだ。

ちよの父親・伍平は無口な質であるが、城の改修工事の際の事故で怪我を負ってからさらに無口になったという。総兵衛はこの改修工事に関係しているのではないかと考えた。

輿に乗った人物が武田神社にお参りに行き、倒幕の誓いをたてた。この人物はあろうことか柳沢吉保の息子・柳沢吉里であった。さらには、吉里が征夷大将軍に就くというのだ。あまりにも荒唐無稽な話だが、巷には吉里は綱吉の子供であるという噂がながれていることもある。それにしても…。

総兵衛らは城代家老の寝床に侵入することにした。それは権太夫が江戸から持ち帰ったとされるものを奪うためである。

首尾良く奪い取ったものの、脱出の際ちりぢりになり、おきぬは太股に深手を負ってしまう…。

本書について

佐伯泰英
朱印!古着屋総兵衛影始末6
徳間文庫 約四〇〇頁
江戸時代

目次

序章
第一章 苦肉
第二章 再生
第三章 潜入
第四章 再編
第五章 逃走
第六章 継戦

登場人物

ちよ
伍平…ちよの父親
かつ…ちよの母親
梅吉…弟
唐犬の段五郎
離れ凧の弥助
柳沢吉里…柳沢吉保の息子
柳沢権太夫保格…城代家老
柳沢幻斎…風布の頭
柳沢小太郎…幻斎の子
曲淵剛左衛門…風布七人衆
曾雌孫兵衛…風布七人衆
飯坂一郎太…風布七人衆
黒米弥衛七…風布七人衆
節村端五郎…風布七人衆
峰岸龍平…風布七人衆
市橋九郎三郎…風布七人衆
笹竹長太郎
陣出種五郎
宗沢伝兵衛…甲府藩町奉行所与力
金三…馬喰の親分
徳川綱条…水戸藩主
徳川吉宗…紀州藩主
徳川吉通…尾張藩主

古着屋総兵衛影始末シリーズ

佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第11巻 帰還!」を読んだ感想とあらすじ
このシリーズの最終巻です。あとがきでは第一部の幕を下ろす、となっていますので、新シリーズの予感です。新シリーズでは、六代将軍徳川家宣の時代の間部詮房、新井白石、荻原重秀といったところを敵役にするのかもしれません。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第10巻 交趾!」を読んだ感想とあらすじ
題名の「交趾」は「こうち」と読みます。交阯とも書くことがあります。また、「こうし」と読むこともあります。前漢から唐にかけて置かれた中国の郡の名称で、現在のベトナム北部ソンコイ川流域地域を指します。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第9巻 難破!」を読んだ感想とあらすじ
二度目の航海に出発した大黒丸に危難が迫ろうとしています。そのことを知る船大工の箕之吉の行方を捜して総兵衛らと柳沢吉保の手下が動き出します。そして、大黒丸に乗り込んだ総兵衛はこの航海で最大のピンチを迎えます。鳶沢一族の命運はどうなるのでしょうか?
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第8巻 知略!」を読んだ感想とあらすじ
今回は分家の孫娘るりが鳶沢一族に危難をもたらします。信之助と一緒になったおきぬの代りに江戸にのぼってきたるりですが、鳶沢村でのびのびと育ったせいか、細かいところでの配慮に欠けるところがあります。そんな中で起きた事件が鳶沢一族を窮地に陥れていきます。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第7巻 雄飛!」を読んだ感想とあらすじ
前作で登場した武川衆が鳶沢一族の前に立ちはだかるのか?と思っていましたが、今回は展開が違います。まず、大黒屋には念願の大黒丸が完成します。ですが、この大黒丸の初航海は相当慌ただしい状況となってしまいます。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第6巻 朱印!」を読んだ感想とあらすじ
前作でお歌を殺された柳沢吉保。復讐戦が始まるのかと思いきや、本書からは本格的に柳沢一族と鳶沢一族の戦いが幕を開けます。古着屋総兵衛影始末の第二章が幕を開けるのが本書です。柳沢吉保が甲府宰相に任ぜられるところから陰謀が始まります。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第5巻 熱風!」を読んだ感想とあらすじ
江戸時代に約六十周年周期に三度ほどおきた大規模な伊勢神宮への集団参詣運動を題材にしています。この三度ほどおきたのは数百万人規模のものでした。お蔭参り、伊勢参りともいい、奉公人が無断でもしくは子供が親に無断で参詣したことから抜け参りとも呼ばれました。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第4巻 停止!」を読んだ感想とあらすじ
前作で「影」との対決に終止符を打った総兵衛ら鳶沢一族。第二の「影」の出現により今まで通りに影の旗本の役目を果たすことになります。この第二の「影」が早速登場するのかと思いきや、本作では登場しません。とはいっても、第二の「影」らしい人物は登場するのですが...。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第3巻 抹殺!」を読んだ感想とあらすじ
前作で「影」が下した指令は、播磨赤穂藩の藩主浅野内匠頭長矩が高家筆頭吉良上野介義央を斬りつけるという事件に端を発していました。総兵衛は「影」の意に反して動きます。「影」の指令が徳川家の安泰のためには逆に動くものと思ったからです。しかし、そのことによって「影」との対立が表面化しようとしていました。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第2巻 異心!」を読んだ感想とあらすじ
物語は花見をしている時に起きた事件から始まります。江戸の花見は、五代将軍徳川綱吉治世下での名所は不忍池を見下ろす上野の山。江戸時代の花見としては、他に飛鳥山、隅田川堤、品川御殿山、小金井などがありますが、これらは八代将軍徳川吉宗の時代を待たなくてはなりません。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第1巻 死闘!」を読んだ感想とあらすじ
初代総兵衛が徳川家康から直々に拝領した三池典太光世を、六代目総兵衛が先祖伝来の祖伝無想流に工夫を加えた秘剣、落花流水剣で斬る!シリーズの最初から全速力のスピードです。これは、波乱含みで展開が早いのがひとつ。鳶沢一族の全員が総力戦で縦横無尽に駆けめぐるため、視点がコロコロ変わるのが、もうひとつの要素です。