記事内に広告が含まれています。

佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第7巻 雄飛!」を読んだ感想とあらすじ

この記事は約5分で読めます。

覚書/感想/コメント

前作で登場した武川衆が鳶沢一族の前に立ちはだかるのか?と思っていましたが、今回は展開が違います。

まず、大黒屋には念願の大黒丸が完成します。ですが、この大黒丸の初航海は相当慌ただしい状況となってしまいます。

そして前作で、なんとなくそうなるかなぁ、と思っていた信之助とおきぬが祝言を挙げることになります。

この二つのめでたい出来事も、諸々の事情によりゆっくりと祝う暇もなく、どんどん進んでいきます。

ですが、こうした慌ただしさの中にも、総兵衛は深い考えを持って大黒丸を送り出しています。

この初出航の大黒丸の行き先はいったいどこなのでしょうか?

そして、この大黒丸に乗せられた信之助とおきぬに課せられた新たな使命とは一体何なのでしょうか?

鳶沢一族にとって、この大黒丸と信之助、おきぬ夫婦は新たな出発を意味するものなります。

慌ただしい大黒丸の初出航と、信之助とおきぬの祝言が終わると、今度は本庄豊後守勝寛の娘・絵津の嫁入り先、加賀まで送り届ける役目が降りかかります。

総兵衛と本庄豊後守勝寛の仲が一通りのものでないことを知る人物、そして、本庄豊後守勝寛と加賀前田家との結びつきが強くなることを快く思わない人物の手により絵津の身が危険にさらされることになります。

無事に絵津を送り届けることが出来るのでしょうか?

さて、本庄豊後守勝寛は二人娘。家を継ぐ男子がいないのでどちらかの娘に婿を取らなければなりません。

最初は絵津にその話があったのですが、それが「抹殺!古着屋総兵衛影始末3」での事件があり、おじゃんとなります。

それが本作で加賀へ嫁ぐことになってしまったのですから、残るのは妹の宇伊に婿を取ることになるのでしょう…。

さてさて、この話はシリーズの中で語られることがあるのでしょうか?

絵津の嫁ぐ先の加賀前田藩。大名家最大の百万石超の大藩です。外様藩ですが、将軍家とのつながりも深く、そうした意味では純粋な外様とは言いきれない家柄です。

また、前田八家もしくは加賀八家とよばれる一万石以上を有する重臣がいる家柄でもあります。

一万石以上が大名と呼ばれるのが通常なので、加賀前田藩には藩中に大名を抱え込んでいるのも同然です。

内容/あらすじ/ネタバレ

宝永三年(一七〇六)十一月。大黒丸が完成した。総兵衛は試し乗りで乗船した。大黒丸の船頭は忠太郎である。

この忠太郎の娘・るりが江戸に上がってきていた。一番番頭の信之助とおきぬが祝言を挙げるため、おきぬのかわりにとしてるりが呼ばれたのだ。

総兵衛は大目付の本庄豊後守勝寛から呼ばれた。呼ばれてすぐにいわれたのは大黒丸を明朝にでも出帆できるかということであった。老中首座の柳沢吉保が商人が大船を建造して江戸の海を試走しているのはけしからんといい、明朝に町奉行所の査察が入ることになったというのだ。

どうにしてでも柳沢吉保は総兵衛を縛に就かせたいらしい。

この話とは別に、勝寛の娘・絵津が加賀前田家の人持組七十家筆頭の家系の前田光太郎に嫁ぐことになっており、その祝言に総兵衛がかわりに出てくれないかという。祝言は金沢で行われることになり、大目付の勝寛は行けるかどうか分からないからである。

この話のゆえんか、本庄家を見張る目があることに総兵衛は気がついていた。

大黒屋で信之助とおきぬの祝言が一族が集まった中で行われた。そして慌ただしいことに、大黒丸を出帆させる準備が始まる。初めての航海となるのだが、その行き先は遠出になりそうである。

そして、この大黒丸には祝言を挙げたばかりの信之助とおきぬも乗った。一つには鳶沢村に寄り、そこでもお披露目をするのが目的であり、もう一つにはこの二人に新たな仕事を総兵衛は用意していたのだ。同時に、大黒丸には当座の商いに差し障りのない範囲の金を全部積ませた。

翌日から大黒屋に本所奉行所与力の桂木和弥と岡っ引きの加賀湯の夏六が現れ始めた…。

大黒丸の出航にともない、大黒屋の陣容が手薄になった。なによりも実戦を積んでいない若者が多すぎる。総兵衛はこれらの者を厳しく鍛えることにした。陣容を立て直すのと同時に、大黒丸が積み込んでくるはずの荷をさばくために三井八郎右衛門高富と相談することにした。

鳶沢村に立ち寄った大黒丸に乗っていた忠太郎、信之助、おきぬはそこで新たな使命を初めて知ることになる。そして、深沢美雪にも総兵衛から使命が下った。

大黒丸が江戸から消え、総兵衛らにとっての杞憂は本庄家である。絵津が前田家の家臣の所に嫁ぐのを快くおもっていない人物の魔の手が伸び始めようとしていたこともある。

その一方で、総兵衛らは大黒丸を秘かに隠すことが出来る港を至急確保する必要があった。

絵津が加賀へ輿入れする道中が始まろうとしていた。同行するのは勝寛のかわりに祝言に出席する総兵衛らである。

本書について

佐伯泰英
雄飛!古着屋総兵衛影始末7
徳間文庫 約三九五頁
江戸時代

目次

序章
第一章 旅立
第二章 再編
第三章 代父
第四章 追跡
第五章 祝言
終章

登場人物

箕之吉…大黒丸の船大工
加納十徳…明正意心流
丸茂祐太郎
桂木和弥…本所奉行所与力
加賀湯の夏六…岡っ引き
久世大和守重之…若年寄
丹後賢吉…御用人
水城母里…下総関宿藩の剣術指南
卯之吉…中間
浜次…漁師
前田綱紀…加賀前田家五代目藩主
前田光悦…江戸家老
前田光太郎…光悦の嫡男
加賀御蔵屋冶右衛門…呉服屋六代目

古着屋総兵衛影始末シリーズ

佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第11巻 帰還!」を読んだ感想とあらすじ
このシリーズの最終巻です。あとがきでは第一部の幕を下ろす、となっていますので、新シリーズの予感です。新シリーズでは、六代将軍徳川家宣の時代の間部詮房、新井白石、荻原重秀といったところを敵役にするのかもしれません。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第10巻 交趾!」を読んだ感想とあらすじ
題名の「交趾」は「こうち」と読みます。交阯とも書くことがあります。また、「こうし」と読むこともあります。前漢から唐にかけて置かれた中国の郡の名称で、現在のベトナム北部ソンコイ川流域地域を指します。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第9巻 難破!」を読んだ感想とあらすじ
二度目の航海に出発した大黒丸に危難が迫ろうとしています。そのことを知る船大工の箕之吉の行方を捜して総兵衛らと柳沢吉保の手下が動き出します。そして、大黒丸に乗り込んだ総兵衛はこの航海で最大のピンチを迎えます。鳶沢一族の命運はどうなるのでしょうか?
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第8巻 知略!」を読んだ感想とあらすじ
今回は分家の孫娘るりが鳶沢一族に危難をもたらします。信之助と一緒になったおきぬの代りに江戸にのぼってきたるりですが、鳶沢村でのびのびと育ったせいか、細かいところでの配慮に欠けるところがあります。そんな中で起きた事件が鳶沢一族を窮地に陥れていきます。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第7巻 雄飛!」を読んだ感想とあらすじ
前作で登場した武川衆が鳶沢一族の前に立ちはだかるのか?と思っていましたが、今回は展開が違います。まず、大黒屋には念願の大黒丸が完成します。ですが、この大黒丸の初航海は相当慌ただしい状況となってしまいます。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第6巻 朱印!」を読んだ感想とあらすじ
前作でお歌を殺された柳沢吉保。復讐戦が始まるのかと思いきや、本書からは本格的に柳沢一族と鳶沢一族の戦いが幕を開けます。古着屋総兵衛影始末の第二章が幕を開けるのが本書です。柳沢吉保が甲府宰相に任ぜられるところから陰謀が始まります。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第5巻 熱風!」を読んだ感想とあらすじ
江戸時代に約六十周年周期に三度ほどおきた大規模な伊勢神宮への集団参詣運動を題材にしています。この三度ほどおきたのは数百万人規模のものでした。お蔭参り、伊勢参りともいい、奉公人が無断でもしくは子供が親に無断で参詣したことから抜け参りとも呼ばれました。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第4巻 停止!」を読んだ感想とあらすじ
前作で「影」との対決に終止符を打った総兵衛ら鳶沢一族。第二の「影」の出現により今まで通りに影の旗本の役目を果たすことになります。この第二の「影」が早速登場するのかと思いきや、本作では登場しません。とはいっても、第二の「影」らしい人物は登場するのですが...。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第3巻 抹殺!」を読んだ感想とあらすじ
前作で「影」が下した指令は、播磨赤穂藩の藩主浅野内匠頭長矩が高家筆頭吉良上野介義央を斬りつけるという事件に端を発していました。総兵衛は「影」の意に反して動きます。「影」の指令が徳川家の安泰のためには逆に動くものと思ったからです。しかし、そのことによって「影」との対立が表面化しようとしていました。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第2巻 異心!」を読んだ感想とあらすじ
物語は花見をしている時に起きた事件から始まります。江戸の花見は、五代将軍徳川綱吉治世下での名所は不忍池を見下ろす上野の山。江戸時代の花見としては、他に飛鳥山、隅田川堤、品川御殿山、小金井などがありますが、これらは八代将軍徳川吉宗の時代を待たなくてはなりません。
佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第1巻 死闘!」を読んだ感想とあらすじ
初代総兵衛が徳川家康から直々に拝領した三池典太光世を、六代目総兵衛が先祖伝来の祖伝無想流に工夫を加えた秘剣、落花流水剣で斬る!シリーズの最初から全速力のスピードです。これは、波乱含みで展開が早いのがひとつ。鳶沢一族の全員が総力戦で縦横無尽に駆けめぐるため、視点がコロコロ変わるのが、もうひとつの要素です。