灰原薬氏による「応天の門」の第4巻です。
藤原基経の裏の姿が見え隠れします。
伴善男についても過去の話が出てきました。
そして、新たに登場するのがライバルとなる藤原常行(ふじわら の ときつら)です。
この藤原常行は百鬼夜行に出会ったという逸話があります。本書ではそのことが描かれました。
この話は「今昔物語」「打聞集」「真言伝」にも記されている逸話で、著名な事件だったらしいです。馬場あき子「鬼の研究」でも取り上げられています。
舞台となる時代については「テーマ:平安時代(藤原氏の台頭、承平・天慶の乱、摂関政治、国風文化)」にまとめています。
第4巻の基本情報
登場人物紹介:藤原良房
藤原 良房(ふじわら の よしふさ)。左大臣・藤原冬嗣の次男です。
皇族以外の人臣として初めて摂政の座に就いた人物です。
また、藤原北家全盛の礎を築いた存在でした。
男児がおらず、藤原基経を養子として迎えます。
登場人物紹介:藤原基経
藤原 基経(ふじわら の もとつね)。
中納言・藤原長良の三男でしたが、摂政であった叔父・藤原良房の藤原良房の養子になります。
藤原良房の死後、清和天皇・陽成天皇・光孝天皇・宇多天皇の四代にわたり朝廷の実権を握りました。
宇多天皇のとき阿衡事件(阿衡の紛議)を起こして、権勢を世に知らしめました。
日本史上初の関白に就任しました。
関係年表
藤原常行(ふじわら の ときつら)が参議になりましたので、貞観6年(864年)正月以降になるのですが、後続の巻から貞観5年(863年)であると思われます。
ーーー第4巻はここからーーー
- 863(貞観5)
- 神泉苑で御霊会を行い、祟道天皇、伊予親王ら6人の霊をまつる
- 越中・越後地震、死者多数
ーーー第4巻はここまでーーー
- 864(貞観6)
- 富士山噴火(貞観大噴火)富士山噴火史上最大
- 亡くなった人物(円仁(入唐八家))
- 865(貞観7)
- 大きな出来事がありませんでした。
- 866(貞観8) 応天門の変
- 最澄に伝教大師、円仁に慈覚大師の諡号が授けられる
- 応天門の変(応天門炎上し、伴善男が罰せられる)
第4巻の「道真の平安時代講」【解説】本郷和人
- 平安時代の恥ずかしいことについて。それは人前で冠・烏帽子をとることです。烏帽子をとって髻を見られることは極めて恥ずかしいことでした。
- 平安時代の宴席について。
- 名前の呼び方について。
- 平安時代の女性の名前は基本的にわかりません。漢字が残っていても、発音がわかりません。本書の藤原高子も「たかこ」でも「たかいこ」「たかきこ」でもあり得るのです。
- 北条政子も、源実朝の時代に従二位を貰った時、朝廷風の名前が必要になったため、北条時政の娘であることから政子とつけられたものであり、本名はわかっていません。
- 豊臣秀吉の正室についても同様で、「ね」なのか「ねね」なのかが分かっていません。いずれも資料が残っていないのです。
- 出家について。貴族の場合、出家しても、何かが変わるということはありませんでした。かなずしも戒律を守る必要がありませんでした。
物語のあらすじ
在原業平、数多の災難に遭う事
呪われていると信じ込む在原業平ですが、菅原道真は真に受けません。
道真は業平の服に蜂が寄ってくることに気づき、島田宣来子が蜂蜜がついていることを指摘しました。
どうやら蜂飼いが関わっているようです。
山吹の姫が関わっているのか?
業平が山吹の屋敷を訪ねると下男が襲ってきました。名を肋丸と言います。
肋丸は姫の事を思って業平に嫌がらせをしたのですが…。
在原業平、京にて塩焼きの宴を催す事
在原業平の屋敷で塩焼きをすることになりました。塩焼きは社交の場でした。
紀長谷雄は行きたいと思っていました。菅原道真は無理やり連れていかれます。
伴善男の息子・伴中庸や源融、藤原式家の藤原良近、藤原南家の藤原有貞…。
反藤原勢力の当主ばかりが集まっていました。
道真は在原業平にはめられたと思いました。
昭姫もこの塩焼きに呼ばれていました。
京に妖の夜行する事
京で噂が流れていました。
子の日の風のない夜。大路を異形の怪の集団が通り、それを見てしまうと魂が奪われる…。
藤原基経は在原業平に外出を避ける布令を出すように命じました。
在原行平は菅原道真に相談することにしました。
その頃、紀長谷雄が菅原道真に物の怪の話をしているところでした。
同じころ、藤原基経の屋敷をいとこの藤原常行が訪ねていました。
夜。
島田忠臣が藤原基経に報告をしていました。ある荷について…。
夜に屋敷から抜け出した藤原常行が大路の様子を見ている菅原道真と遭遇しました。
その時、鈴の音が聞こえてきました。
目の前を黒い衣に面や面布をつけた者たちが通り過ぎました。ですが、話している言葉は聞いたことがありません…。
いったい何者?
そして、在原業平は昭姫から密輸船の情報を得ました。
山科宮、山中の笛の音に惑わさるる事
白梅がかつての同僚の皐月に会いました。皐月は物の怪の退治を菅原道真に相談しました。
皐月が仕えているのは山科宮です。その山科宮が三月ばかり前から急に夜中に起き出して琵琶を一心不乱に奏でるようになりました。
笛の音が聞こえるというのですが、皐月には聞こえません。
白梅に泣きつかれ、菅原道真は山科宮を訪ねました。
そして、道真は笛の音の正体を突き止めます。
伴善男、吉夢を引き替ふる事
伴善男は悪夢で目を覚ましました。そこに素行の悪い紀豊城が戻ってきました…。
在原業平は伴善男の屋敷に招かれました。そして、最近、佐渡にいたころの夢を見るのだと言いました。
当時身の回りを見てくれていたのがタツが、嵐の日に亡くなり、その亡霊として夢に出てきたのです。
在原業平はいい薬を持ってくると約束し昭姫訪ねました。そこに菅原道真も偶然やってきていました。
菅原道真が指示した調合通りの薬ができると、在原業平はそれを伴善男に届けました。