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海音寺潮五郎の「中国英傑伝」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

いわゆる十八史略ベースにし、春秋戦国時代から前漢成立までを書いた史伝である。

惜しむらくは、時系列に話が進んでおらず、書籍化する段で時系列に編集し直せばとても読みやすかったろうにと思う。

時系列で行けば、「覇者桓公」から始まり、「戦国一刷」まで読んだら、「英雄総登場」から「呂氏一族鏖殺」に戻るという順になる。

さすがに故事成語がたくさん成立した時期の話でもあり、それだけでも面白い事柄が多く書かれているが、他にも海音寺潮五郎独自の考察も面白い。

まず、「覇者桓公」で述べている言葉。「現代は人間の物質文化は、従って生活文化は、おどろくほど進歩し変化しているが、人間の精神や心は、これまたおどろくほど変わりがない。」

次に「戦国一刷」での言葉。商鞅の話は法には本質において自制作用がなく、ひたすらに行われることを本則としているという、恐ろしい一面の実例である。

本書では”覇者”が書かれているが、五覇と言うときには、次のような説があるようだ。

・春秋の五覇「斉の桓公、晋の文公、楚の荘王、呉の闔廬、越の勾践」
・後漢の趙岐の説「斉の桓公、晋の文公、宋の襄公、秦の穆公、楚の荘王」
・唐の顔師古の説「斉の桓公、晋の文公、宋の襄公、秦の穆公、呉の夫差」

いずれにも入っているのが、斉の桓公、晋の文公で、あとは楚の荘王、呉の闔廬、越の勾践、宋の襄公、秦の穆公、呉の夫差などで意見が分かれている。

さて、本書は、この春秋・戦国時代を概観するのには良書だと思う。というのは、この時代は様々な人物が登場し、複雑であり、特定の人物に焦点を当ててしまうと分かりづらくなる面もあるからである。

いったん本書のような概観できる書を読んでから個別の人物をあたると良いと思う。本書同じく十八史略を扱っているのに陳舜臣の作品がある。

個別の人物では、この時代を得意としている宮城谷昌光の小説を読まれると良いと思う。

また、項羽と劉邦については司馬遼太郎の書が面白いように思われる。

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内容/あらすじ/ネタバレ

「英雄総登場、鴻門の会、背水の陣、垓下の戦い、功臣大粛清、呂氏一族鏖殺」

秦朝末期。秦末動乱の始め。徹底的な法律で統治していた秦が、それが為に滅亡の道を歩み始める。そんな時代である。

陳勝、呉広が事を起こすと、天下の至る所で立ち上がるものが続出した。この蜂起には二種類あった。一つは旧貴族である。項羽はこれに属する。もう一つは百姓である。劉邦はこれに属した。

項羽は叔父・項梁に従って行動をしており、劉邦もこの項梁の下にいた時期もあった。項羽は始皇帝の行列を見て取って代わるべしと言ったのに対して、劉邦は男子たるものはこのようでなければならんと言ったという。

二人の成果を上手く表しているといえよう。やがて、項梁が戦死する。

項羽が趙で章邯征伐を行っている間に、西に向かい関中を平定する。この最中、張良と再会し、劉邦軍は有能な謀臣を味方につけることに成功する。

そして、項羽と劉邦の両雄が対決し始める。

劉邦は、張良、陳平といった謀臣と韓信という天才的武将を従え項羽に挑む。対する項羽は、范増という謀臣と己一人の才覚で劉邦を迎え撃つ。

結局の所、劉邦には良策を献じたり、諫言を奉る臣下が多く、これを劉邦はよく受け入れていた。対して、項羽にはこれがなかった。従って、項羽の下には有能な士も集まらなかったようだ。

だが、後に天下人となった劉邦もやがては功臣を粛清していくのである。そして、漢王朝最初の危機は、劉邦の妻・呂后がもたらすのである…。

「覇者桓公」

周王朝が成立してから六百数十年経った頃。太公望呂尚を始祖とする斉の国では、お家騒動が続き、兄弟・同族の殺しあいが続いていた。この中で管仲のお陰もあり、斉侯になったのが桓公である。やがて、天下の色々なことに骨を折り、威望天下を圧し、諸侯の盟主となった。

だが、管仲の末期の言葉を用いなかったため、斉は再びお家騒動に巻き込まれる。

「女禍記、乞食公子」

晋は周の同姓の国の中でも第一級の名門であるが、この国も深刻なお家騒動が連綿と続いていた。重耳はこのお家騒動から逃げ、諸国を流浪することになる。

一緒に逃げた臣には優れた人物がおり、六十を過ぎてから晋君の位についた。文公である。

「覇者オムニバス

秦の穆公:秦はやがて後に天下を統一するのだが、秦を強大にした法はこの穆公が道を開いたのである。他国人でも何でも、優れた人物を召し抱えることによってなしえたのだ。

宋の襄公:覇者としては実力不足の感があるが、覇者たらんとして努めた次第は、ドン・キホーテ的悲壮感と滑稽感があり、ちょいと面白い。

楚の荘王:覇者の実力はあったが、斉桓・晋文のスローガンとした尊王攘夷には少しも関係がない。尊王どころか周王朝を威迫し、鼎の軽重を問うて天下を狙う意志を示した人であった。

楚の霊王:覇者に入れる説はないが、覇者の実のあったひとである。

「闔廬(こうりょ)のクーデター、呉楚復讐録、汝、忘れたるか、子胥の憤死」

楚の平王と費無忌によって父と兄を殺された伍子胥は復讐を心に誓った。そのために他国に逃れて機会をうかがった。

呉に逃れて時期を待っている内に、楚ではかたきの平王が死んでしまった。だが、その後継者に報いるまでと伍子胥は決めていた。

呉では伍子胥のお陰もあり闔廬が王位についた。そして伍子胥の酷烈な復讐戦が始まる。

「神仙的英雄范蠡(はんれい)」

范蠡はずっと後世まで中国人が理想的人間像としてきた人物である。

「戦国一刷」

秦を強国たらしめたのが商鞅である。富国強兵の術を説き、行政上は徳治主義を捨て、全部を法律で取り締まる。経済的には徹底した統制経済をし、軍事的には徹底的な強兵主義をとる方法である。

本書について

海音寺潮五郎
中国英傑伝
文春文庫 計約六七五頁
春秋時代から前漢初期

目次

英雄総登場
鴻門の会
背水の陣
垓下の戦い
功臣大粛清
呂氏一族鏖殺
覇者桓公
女禍記
乞食公子
覇者オムニバス
闔廬(こうりょ)のクーデター
呉楚復讐録
汝、忘れたるか
子胥の憤死
神仙的英雄范蠡(はんれい)
戦国一刷

登場人物

項羽
項梁…叔父
范増
劉邦
呂后
張良
陳平
韓信
陸賈
樊かい
彭越
桓公
管仲
重耳(文公)
秦の穆公
宋の襄公
楚の荘王
楚の霊王
闔廬
伍子胥
孫武
平王
費無忌
昭王
申包胥
勾践
夫差
范蠡
商鞅