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司馬遼太郎の「城をとる話」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

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覚書/感想/コメント

昭和三十九年(1964年)に俳優・石原裕次郎氏が司馬遼太郎氏を訪ね、主演する映画の原作を頼んだ。それが本作である。司馬氏は石原裕次郎氏が好きで、石原氏たっての願いを無下に断れるようではなかったようだ。

映画題名「城取り」。ただし、映画の原作としては完成に至らず、映画には何人かの登場人物と短いプロットの協力で終わった。映画の公開は昭和四十年の三月。

一方、本作は日本経済新聞の夕刊で昭和四十年の一月から七月まで連載された。

さて、関ヶ原前の奥州が舞台になっている。徳川家康が上杉討伐の軍を発する直前のようだ。

徳川家康が石田三成挙兵の報を知り、兵を西へ向けた後、奥州では伊達家が上杉家に侵食したりと方々で活発な動きを見せる。そうした動きの始まる直前の、上杉家と伊達家の国境での物語である。

主人公は佐竹家の家臣だった車藤左。とても魅力的な人物という設定になっている。

『車藤左という男は、山から掘りおこしたばかりの山の芋のように無愛想だが、そのくせ藤左をひと目でも見た男女は一種魅き入れられるような、陶然とした気持ちにさせられてしまう。』

もともと、本作が石原裕次郎氏主演の映画のためにかかれたのだから、この車藤左の印象というのが、そのまま司馬遼太郎氏の石原氏の印象なのだろう。

だが、私が本書を読んで思い浮かべたのは、黒澤明監督、三船敏郎氏主演の世界だった。石原裕次郎氏のために書かれた本だというのは知っていたが、最後まで石原氏の顔が思い浮かばなかった。

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内容/あらすじ/ネタバレ

会津上杉家の城下町、若松。世間の噂では、上方の石田三成と呼応して徳川家康を討つという…。

そうした中、車藤左は馬廻り役の中条左内を訪ねた。藤左は元佐竹義宣の家臣である。中条左内は車藤左が訪ねてきた理由をあれこれ考えていた。主家が不満で立ち退いてきたわけでもなさそうだ。藤左は女房に嫌気がさしたからだという。

左内は間諜か、と思ったりした。すると、藤左は、おれは間諜として来たのさという。そして、重臣しか知らぬ秘事である桔梗ヶ原の一件を知っている。伊達家が城を築きあげつつある場所だ。

ある日、中条左内は家老・直江山城守から呼びだしを受けた。

中条左内は桔梗ヶ原へ行くことになった。これに車藤左がくっついていくという。それに「帝釈城」と名付けられた城を攻め落とす方法があるという。しかもたった一人で奪ってやろうという。

中条左内には貨幣を収集する趣味があった。この貯め込んだ貨幣を車藤左は勝手に持ち出した。

車藤左と中条左内が帝釈城を目指している途中、猟師でもあり山賊でもある蜻蛉六という名の男と出会った。蜻蛉六の持つ技術は役に立つ、藤左はそう思った。

次に、おううという伊達領の黒橋村の巫女と出会った。黒橋村はいまから行こうとしている帝釈城の所在地である。
この二人を交えて四人で村を目指していると、狼煙が上がっているのが見えた。

狼煙を上げていたのは行商人で、輪違屋満次郎と名乗った。煙は花火だという。満次郎の技術である火術は役に立つ、藤左はそう考えた。

藤左は蜻蛉六と満次郎に、帝釈城を指して、あれを奪うから力を貸してくれと言った。村に入る直前に、蜻蛉六はにげてしまった。

黒橋村へ潜入した。藤左と左内の二人は山中で野宿した。

帝釈城の半ば完成している本丸では赤座刑部が、潜入した男が捕まったかと聞いている。聞いた相手は伊達家の目付遠藤三四郎だ。遠藤は赤座刑部をよく思っていない。

巫女のおううの家に侍をまじえた他国ものが泊まっているという噂はすぐに村を駆けめぐっていた。警戒されたのだが、それも、侍二人で城をとるという話が伝わると、あほうが二匹飛び込んできたという実感で、意外な好意を持たれることになった。

藤左はおううの家の屋根裏の納屋で潜伏している。噂を広めているのは藤左自身だった。

おううの伯父・五兵衛がやってきて、村から出てくれといってきたが、藤左は十日だけ待ってくれと頼んだ。

中条左内と満次郎は帝釈山の山向こうの赤土村に行っていた。赤土村は三ノ丸の構造予定地で、一村立ち退きを命ぜられている。

その日の夜事件が起った。与吉という若者が逃亡しようとして撃たれた。藤左は自分の代わりに撃たれる与吉を助けに行って相手に捕まった。黒橋村に戻ってきた左内はそれを聞いて驚いた。

翌朝、城方では驚くべき事が起きていた。車藤左が牢にいない。ぼんやりとした感じで戻ってきた藤左も何がなんだかわからないらしい。要するに何者かが忍び込んできて錠をあけたらしい。

車藤左は城をとるための戦術として村人を味方に引入れることに成功した。あとは城そのものをとる工夫だが、それがまったくつなかいでいた。

赤座刑部の指揮を受けた城方が一斉に村改めをし始めた。赤座はおううの家がくさいと感じたようだった。

赤座刑部は男だけを二ノ丸へ移動させた。万一の暴動を防ぐ目的があった。

車藤左は城に忍び込んだ。黒橋村の彦蔵に会いたいと思ったからだ。彦蔵は殺された与吉の兄である。その彦蔵と会って、藤左は計画を打ち明けた。

寅の日の夜を期して、黒橋村の女を上杉領に逃がしてしまう。上杉家には連絡してあるわけではないが、なんとか中条左内から連絡させねばなるまい。そのあと、普請小屋の城方を殺して二ノ丸に立て籠り、本丸と対戦する。三ノ丸では中条左内が赤土村の人数を率いて立ち上がることになっている。

かならず、城は陥ちる。そして、いっせいに上杉領に立ち退くのだ。

上杉勢が川向こうに待機しているという。

車藤左の城取が始まろうとしている…。

本書について

司馬遼太郎
城をとる話
光文社文庫 約四〇五頁
安土・桃山時代

目次

若松
桔梗ヶ原
黒橋村
帝釈城
赤土村
二ノ丸

炎上
急変
転々

登場人物

車藤左…元佐竹家家臣
中条左内…上杉家家臣
冴…左内の妹
おうう
輪違屋満次郎
蜻蛉六
五兵衛…黒橋村の村年寄、おううの伯父
与吉
彦蔵
赤座刑部
遠藤三四郎…伊達家家臣
直江山城守
小六…伊賀者