佐藤雅美の「啓順純情旅」啓順3を読んだ感想とあらすじ

この記事は約5分で読めます。
記事内に広告が含まれています。

覚書/感想/コメント

シリーズの最終巻。いよいよ啓順と聖天松との間に決着がつく。

また、今回から引き続いての「医心方」という医学書に絡んだ話にも決着がつく。とはいっても、サイドストーリー的なものとなり、啓順が直接的に絡むというものではない。だが、決着がつくことによりスッキリとした気分になる。

解説を読んではじめて知ったのだが、この「医心方」に絡んで登場する森伊織は実在の人物で、本名が立之、養真、養竹などとも称し、枳園とも号したそうだ。森鴎外が残した史伝「渋江抽斎」に度々登場する森枳園として知られるという。

実在の人物ということでいえば、博徒たちも多くが実在の人物であるようだ。丹波屋伝兵衛、津向の文吉、竹居の安五郎、大場の久八、三井の宇吉。いやぁ、全く知らなかった。丹波屋伝兵衛は荒神山の喧嘩で名高いそうだ。

第一話で登場する油屋の騒動も有名な歌舞伎狂言の題材となっているそうだ。

これらの「事実」がすんなりと作品の中に溶け込んでいるから、このシリーズの最初から「事実」とは思わないで読んできてしまった。だから、解説を読んでビックリである。

解説を読まなければ、完全なフィクションとして思いこんでしまったにちがいない。それだけ、作品に溶け込んでいるということなのだ。

また、このシリーズがいつを舞台にしているかというのもあまり気にしないで読んでしまっていた。江戸の後期くらいかなとは思っていたが、幕末に近いというのは、本作で江川太郎左衛門英龍の名が出てきてようやく気がついたくらいだ。

きっと、股旅ものや侠客をあつかった小説を多く読んでいる人には起こりえない思いこみだろう。

本作で、シリーズとしては終了だが、気になる点がある。終わったのは「逃亡者」啓順シリーズということであり、新たな啓順シリーズが開始されるような含みを持たせている。さて、どうなる?

内容/あらすじ/ネタバレ

播州の東の外れでやっと幸せをつかんだと思ったのもつかの間。聖天松から送られた並木の勘助らに木っ端微塵に打ち砕かれた。甲州の安五郎に勧められたこともあり、安五郎の縄張り内で村医者をしたほうがましと甲州へ向かった。その途中で話のタネにと伊勢路をとった啓順。

道楽息子の一行と一緒になり古市詣でをすることになった。古市町だけで妓楼が七十軒、遊女が千人もいる色里だ。油屋という妓楼にあがる時に啓順が医者と名乗ったから大変だ。その筋のものらしい男が四人啓順を取り囲んだ。だが、この四人をすぐにやりこめてしまう。

仙蔵と名乗る年かさの男が油屋に降りかかった災難を説明してくれ、あらましはわかった。その仙蔵が啓順に手を貸してくれないかと頼んできた。

最近のしてきた常次という若い衆に縄張りを採られてどうにもならないのだという。子分もとられ、残ったのが自分を含めて四人だという。

常次を目の敵にしている伝兵衛という男がいる。これを引き込んで常次を追い出すことにした。意外なことに、伝兵衛は大場の久八の女房・しづの兄だった。とすると、おきよも妹ということになる。伝兵衛はきよが啓順に会いたがっているといった。

大場の久八から伝兵衛の所に手紙が来て助っ人が欲しいという。竹居の安五郎と津向の文吉との出入があるそうで、久八も安五郎から助っ人を寄こしてもらいたいと言われたようだ。それがまわりまわって伝兵衛の所にもというわけだ。

きよへの切ない思いもあり、啓順は伝兵衛の所のものを連れて甲州へ行くことにした。

きよは与作という百姓の所に最近嫁いでしまっていたが、啓順に連れて逃げてくれと言ってくる。これから出入がある。一旦、きよをみちと清太郎の所に預けることにした。こうした手筈を整えたあと、のちに大野山本遠寺の出入と呼ばれる出入が始まった。

この出入の前、並木の勘助に会った。聖天松を一緒に倒さないかと打診したことがあった。これをよく考えたと並木の勘助はいう。二人は相談することにした。

きよが三島で姿を消した。だが、亭主の与助も見つけていないようだ。行方が分かったのは伊勢から手紙が来てからだ。きよは伊勢にいた。

途中で沼津水野家の飛び地で百姓の八郎兵衛の公事につきあわされ、まごまごしているうちに伊勢に着くのが遅くなった。着くと、まるで啓順が来るのを待っていたかのようにきよは息を引き取った。

啓順は再び甲州に戻り、裏店で医者として開業した。安五郎の縄張りということもあり、安心していたが、この安五郎が代官所に捕まるととたんに状況が悪化した。こうした中で、啓順はかつて診た勘太少年を引き取った。

並木の勘助が上手く説得して馬道の鉄五郎も味方に引き入れた。三人は江戸に入り、聖天松の手下を次々と切り崩していった。成果は日に日にあがっていく。中でも並木の勘助の引き抜きは二人を凌駕していた。

これは江戸中の噂になっていた。この噂は天野帯刀屋敷のお貴美と母・お須磨の耳にも入っていた。

勢力を拡大していく並木の勘助と、勢力を拡大できないでいる馬道の鉄五郎との仲が悪くなっていった。啓順は仲間争いをしている場合ではないと思った。

この問題が解決したあと、数年の月日が流れた。聖天松と並木の勘助、啓順らの争いは膠着したままであった。それを破ったのは伊勢の伝兵衛であった。

本書について

佐藤雅美
啓順純情旅
講談社文庫 約三七五頁
江戸時代

目次

第一話 油屋の若女将
第二話 お人よしの頓馬
第三話 大野山本遠寺の出入
第四話 伊勢古市からの便り
第五話 情けは人の為ならず
第六話 安五郎の大名行列
第七話 春のそよ風
第八話 神明前のお助け医者

登場人物

仙蔵
三吉
勘八
千太
鳥羽の源二郎
常次
大湊の伝兵衛
大場の久八
おきよ
与作
みち
清太郎
森伊織
さわ
勘太
与三郎
八郎兵衛
渡辺範左衛門…郡代
竹居の安五郎
津向の文吉
聖天松
並木の勘助
馬道の鉄五郎
お貴美
お須磨

タイトルとURLをコピーしました