記事内に広告が含まれています。

井上靖の「敦煌」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)

この記事は約3分で読めます。
スポンサーリンク

覚書/感想/コメント

敦煌が脚光を浴びるのは、20世紀になってからです。

特に注目を浴びたのは、敦煌の石窟から発見された仏典です。

全部で4万点。

様々な言語で書かれた仏典は古語研究にとって新たな道を切り開くことになり、さらには、世界文化史上のあらゆる分野の研究を改変する宝物でした。

なぜこれほどの仏典が石窟に隠されていたのかは謎ですが、この小説に描かれていることに近いようなことが行われたのでしょう。

発見された仏典が解読可能な状態で保存されていたことの偶然と、そして何よりもこの仏典が発見されたことは奇蹟に近いことだったでしょう。

もしかしたら、敦煌と同じ様に隠された宝物は世界のどこかで眠っているのかもしれません。

1988年に映画化されました。映画「敦煌」です。

(映画)敦煌(1988年)の考察と感想とあらすじは?
敦煌と言えば莫高窟とそこから出た敦煌文献が有名である。小説と映画の舞台となっているのは、ちょうど西夏ができて敦煌を占領した時期である。映画そのままに、この頃に敦煌文書が莫高窟の中に放り込まれ、入口を塗り込められたと考えられている。

歴史小説の周囲」の井上靖氏のエッセーも興味深いですので併せて読むのをおススメします。

内容/あらすじ/ネタバレ

趙行徳は都開封に上って進士の試験を受けた。順当に試験をこなしたが、終盤の試験で居眠りをしてしまい、自ら試験を放棄した形になってしまった。

うちひしがれた趙行徳は試験会場をあとにして、街を歩いた。その時、趙行徳の前に現れたのは、裸で売られている西夏の女だった。

金を払い、女を自由にしてやると、女はその礼に一枚の小さい布片をくれた。この布片には趙行徳の知らない文字が書かれていた。

女に尋ねると、文字は読めないがこれがないとイルガイ(興慶)には入れないという。イルガイとは西夏の首都である。趙行徳はここに初めて西夏に文字があることを知ったのだった。

趙行徳は何とかしてこの文字を読みたいものだと思った。進士の試験を受けることに費やした情熱は、この文字に取って代わった。

趙行徳は都開封を出て、西夏の本拠地・興慶を目指したが、途中で西夏の部隊に捕われた。そして、そのまま漢人部隊に編入させられてしまい、戦いにでることとなる。所属する部隊の長は朱王礼といった。

超行徳は文字が書けるということで朱王礼に目をかけられる。そして、ついに興慶に行く機会を与えられた。西夏の文字を習得する事が出来るのである。

時が過ぎ、再び朱王礼のもとに戻ると、再び戦の日々が過ぎる。その中で、瓜州城の太守・延恵からの依頼で、仏典を西夏語に翻訳する仕事を引き受ける。だが、それには興慶から人を呼ばなくてはならない。興慶への道中は尉遅光という貿易商人と一緒になる。

再び瓜州城へ戻った超行徳は仏典の翻訳にいそしんだが、朱王礼が反乱するに及んで、状況が一変した。太守・延恵共々沙州(敦煌)へ逃げることになったのだ。

本書について

井上靖
敦煌
新潮文庫 約二七〇頁
宋 12世紀

目次

敦煌

登場人物

趙行徳
朱王礼…漢人部隊の長
尉遅光…貿易商人
延恵…瓜州城の太守
曹賢順…沙州の節度使
李元昊…西夏王の長子

映画の原作になった小説

ヴァレリオ・マンフレディの「カエサルの魔剣」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
覚書/感想/コメント舞台となるのは西ローマ帝国の崩壊時。最後の皇帝ロムルス・アウグストゥスが主要な登場人物となっています。歴史にifがあるとした、冒険歴史小説です。グリーヴァのドルイド僧、マーディン・エムリース、ローマ名メリディウス・アンブ...
井上靖「おろしや国酔夢譚」の感想とあらすじは?(映画の原作です)
覚書/感想/コメント「序章」で大黒屋光太夫ら伊勢漂民以外のロシアに漂着した漂民を簡単に書いています。それらの漂民は日本に帰ることはかないませんでした。ですが、この小説の主人公大黒屋光太夫は日本に帰ることを得たのです。帰ることを得たのですが、...
海音寺潮五郎「天と地と」の感想とあらすじは?
本書は上杉謙信の側から見事に描ききった小説であると思う。本書では、上杉謙信が亡くなるまでを描いているのではない。しかし、重要な局面で印象的に小説は終了している。
藤沢周平「竹光始末」の感想とあらすじは?
短編6作。武家ものと市井ものが織混ざった作品集である。「竹光始末」「恐妻の剣」「乱心」「遠方より来る」が武家もの、「石を抱く」「冬の終りに」が市井ものとなる。また、「竹光始末」「遠方より来る」が海坂藩を舞台にしている。
佐伯泰英の「居眠り磐音江戸双紙 第1巻 陽炎ノ辻」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
坂崎磐音が豊後関前藩を出て江戸で暮らさなければならなくなった事件から物語は始まる。居眠り磐音の異名は、磐音の師・中戸信継が磐音の剣を評した言葉である。
浅田次郎「壬生義士伝」の感想とあらすじは?(映画の原作です)(面白い!)

第十三回柴田錬三郎賞受賞作品。新選組というものにはあまり興味がなかった。倒幕派か佐幕派かといったら、倒幕派の志士の話の方が好きであった。だが、本書で少し新選組が好きになった。興味が湧いた。

夢枕獏「陰陽師」第1巻」の感想とあらすじは?
ドロドロしたオカルトチックな印象はないが、不可思議な世界感の作品である。それに、闇が舞台になっていることが多いわりには、ホラーっぽくない。静かで優雅な感じすらする。
池波正太郎「鬼平犯科帳 第8巻」の感想とあらすじは?

今ひとつピリッとした感じがない。平蔵ら火付盗賊改方の派手な大立ち回りや、なじみの密偵達の華々しい活躍が乏しく感じられるためだろう。唯一「流星」がスケールを感じる短編である。

藤沢周平「時雨みち」の感想とあらすじは?
「帰還せず」と「滴る汗」は藤沢周平には珍しい公儀隠密もの。印象に残る作品は「山桜」と「亭主の仲間」。「山桜」が2008年に映画化されました。
京極夏彦の「嗤う伊右衛門」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)(面白い!)

第二十五回泉鏡花文学賞受賞作品。伝奇や幻想話というのは好きであるが、怪談やホラーというのは苦手である。だから積極的に読む気がしない。映画などに至っては見る気すらない。

池波正太郎「鬼平犯科帳第22巻 特別長編 迷路」の感想とあらすじは?

個人的に、鬼平シリーズの中で、本書が最も長谷川平蔵が格好良く書かれている作品だと思う。特に最後の場面は、思わず"目頭が熱く"なってしまった。

井上靖の「風林火山」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
物語は、山本勘助が武田家に仕え、勘助が死んだ武田信玄(武田晴信)と上杉謙信(長尾景虎)との幾度と行われた戦の中で最大の川中島の決戦までを描いている。
司馬遼太郎の「梟の城」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
司馬遼太郎氏が第42回直木三十五賞を受賞した作品です。舞台となるのは、秀吉の晩年。伊賀忍者の葛籠重蔵、風間五平、木さる。そして謎の女・小萩。それぞれの思惑が入り乱れる忍びを主人公とした小説です。
藤沢周平「蝉しぐれ」の感想とあらすじは?
藤沢周平の長編時代小説です。時代小説のなかでも筆頭にあげられる名著の一冊です。幼い日の淡い恋心を題材にしつつ、藩の権力闘争に翻弄される主人公の物語が一つの骨格にあります。
池宮彰一郎の「四十七人の刺客」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
第12回新田次郎文学賞受賞。いわゆる忠義の士を描いた忠臣蔵をベースにしたものではない。だから、忠義の士という描かれ方というわけではない。
山本周五郎の「赤ひげ診療譚」を読んだ感想とあらすじ(映画の原作)
新出去定という医者は、その使命感や考え方のみならず、全体としての個性が強烈である。その新出去定がいう言葉に次のようなことがある。
山本一力「あかね空」のあらすじと感想は?
第126回直木賞受賞作品です。永吉から見れば親子二代の、おふみから見ればおふみの父母をいれて親子三代の話です。本書あかね空ではおふみを中心に物語が進みますので、親子三代の物語と考えた方がよいでしょう。
浅田次郎「輪違屋糸里」の感想とあらすじは?
新撰組もの。舞台は江戸時代末期。「壬生義士伝」が男の目線から見た新撰組なら、この「輪違屋糸里」は女の目線から見た新撰組です。しかも、時期が限定されています。まだ壬生浪士組と呼ばれていた時期から、芹沢鴨が暗殺されるまでの時期が舞台となっている...
藤沢周平「雪明かり」の感想とあらすじは?
直木賞受賞前後の短編集。大雑把には前半が市井もので、後半が武家ものだが、中間のものは市井もの武家もの半々である。藤沢周平としては前期の作品群になる。
池波正太郎「仕掛人・藤枝梅安 第1巻 殺しの四人」の感想とあらすじは?
仕掛人シリーズの第一弾です。藤枝梅安と彦次郎の二入の過去が随所に散りばめられ、二人の背景となる事柄がこの一冊でおよそ分かります。また、仕掛人の世界に独特の言葉も解説されており、今後のシリーズを読む際の助けになります。今後このシリーズの脇を固...