ウカノミタマは日本神話の神です。稲荷信仰で知られる神様です。
表記が古事記と日本書紀とで異なります。
- 「古事記」では、宇迦之御魂神(ウカノミタマノカミ)
- 「日本書紀」では、倉稲魂命(ウカノミタマノミコト)
「ウカ」は穀物・食物を意味します。つまり、食物や穀物の神なのです。
他にも下記の名で現されることがあります
- 宇迦之御魂大神
- 宇賀御魂命
- 宇賀御魂
- 倉稲魂
- 大物忌
- 稲荷大明神
- 稲荷神
- 三狐神
- 御食津神
- 保食神(うけもちのかみ)
- 御膳神(みけつかみ)
- 専女神
ウカノミタマの意味
宇迦之御魂神の字からは「稲に宿る神秘な霊」となります。
「宇迦」は「ウケ」(食物)の古形で、特に稲霊を表します。「御」は「神秘・神聖」、「魂」は「霊」。
稲の精霊を宗教的に祀った姿がウカノミタマと言えます。
他にも、「大殿祭祝詞(おおとのほがいののりと)」に宇賀能美多麻(うかのみたま)を稲霊(いねのみたま)の注釈があります。「神代紀」に「倉稲魂(うかのみたま)」とあります。
いずれの場合も「ウカ」は稲をさしています。
稲荷信仰へ
「山城国風土記(やましろのくにふどき)」逸文に、「伊禰奈利生(いねなりお)ひき」が「伊奈利社」の名となったとあります。
一般的に「稲荷」と書かれますが、「いなり」は「稲生」「稲成」「飯成」とも書かれます。
稲作に従事する農民の姿(=稲を荷(にな)った姿)が、稲荷神の姿という生業即実相の思想によるものです。
稲荷神は稲、養蚕、食物の神から始まりましたが、中世から近世にかけて商工業が盛んになると、生産や商業の神ともなりました。
女神?
記紀には性別が記されていませんが、平安時代の「延喜式」(大殿祭祝詞)などから女神と考えられるため、古くから女神とされてきました。
「延喜式」(大殿祭祝詞)に、女神のトヨウケビメの別名・屋船豊宇気姫命(やふねとようけひめのみこと)が登場します。
祝詞の注記で「これ稲の霊(みたま)なり。世にウカノミタマという。」と説明していることから、ウカノミタマを女神と見なしていました。
神仏習合
ウカノミタマは仏教の荼枳尼天(だきにてん)習合しました。荼枳尼天は白狐に乗る天女の姿で表されます。
もともと荼枳尼天は狐と関係ないですが、荼枳尼天を狐精とする吒枳尼陀利王経が偽撰され、近世の荼枳尼天曼荼羅で狐に乗った天女の姿で描かれるようになりました。
福神化の過程で荼枳尼天は同じ福神の宇賀神や弁才天と同一視され、さらには稲荷神とも混同され習合されるようになります。
神仏習合については義江彰夫「神仏習合」に詳しいです。
伏見稲荷大社の主祭神
伏見稲荷大社の主祭神です。
稲荷神信仰の中心となる神様で、お稲荷さんとして広く知られます。
稲荷主神としてウカノミタマの名前が文献に登場するのは室町時代以降です。
伊勢神宮では室町時代以前から、御倉神(みくらのかみ)として祀られていました。
主祭神とする神社
現在は穀物の神としてだけでなく、農業の神、商工業の神としても信仰されています。
伏見稲荷大社(京都府)が最も有名です。
関東にも有名な神社があります。
- 笠間稲荷神社(茨城県)
江戸時代には商売繁盛の神として庶民の信仰を集め、寺院の豊川稲荷(愛知県)が知られます。東京に分院の豊川稲荷(港区)があります。
系譜
「古事記」「日本書紀」では名前だけで事績が書かれていません。
古事記によるとスサノオ(須佐之男命)が櫛名田比売の次に娶った神大市比売との間に生まれたとされます。
同母の兄に大年神(おおとしのかみ)がいます。大年神も穀物系の神です。
鎌倉時代に伊勢神宮で編纂された「神道五部書」の「御鎮座伝記」で、内宮の「御倉神(みくらのかみ)の三座は、スサノオの子、ウカノミタマ神なり。また、専女(とうめ)とも三狐神(みけつかみ)とも名づく。」と記され、スサノオの子とされます。
ですが、外宮についての記載では、「調御倉神(つきのみくらのかみ)は、ウカノミタマ神におわす。これイザナギ・イザナミ 2柱の尊の生みし所の神なり。」となり、イザナギ・イザナミの子となっています。
また、別名として、オオゲツヒメ、保食神(うけもちのかみ)、御膳神(みけつかみ)、三狐神、専女神が出てきます。
日本書紀では神産みの第六の一書で、イザナギとイザナミが飢えて気力がないときに産まれたとされます。
飢えた時に食を要することから、穀物の神が生じたと考えられるのです。
日本書紀で、神武天皇が戦場で祭祀をした際に、供物の干飯に厳稲魂女(いつのうかのめ)という神名をつけました。本居宣長はウカノミタマと同じと考えています。
「諏訪氏系図」では建御名方神と八坂刀売神との子である八杵命の子とされます。
いずれにしても、アマテラスの系譜ではありません。