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佐伯泰英の「古着屋総兵衛影始末 第3巻 抹殺!」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第三弾。

前作で播磨赤穂藩の藩主浅野内匠頭長矩が高家筆頭吉良上野介義央を斬りつけるという事件に端を発する、一連の騒動にみせた「影」の指令が、徳川家の安泰のためには逆に動くものと思った総兵衛が「影」の意に反して動き、「影」との対立が表面化しようとしていた。それが、全面的に噴出するのが本作である。

ショックなのは総兵衛と相思相愛の千鶴があっけなく殺されてしまうことである。驚くほどあっけなく殺される。

こうした重要人物が殺されたり、死んだりする場合、それなりの場面を用意するのが普通かも知れないが、本作では唐突に語られる。そして、壮絶な復讐劇が始まる。

復讐劇ではあるのだが、同時に影の旗本として生きてきた鳶沢一族と「影」との対決でもある。

この対決は悲壮な一面がある。

というのは、この対決に鳶沢一族が勝ったとしても、徳川家康との盟約を知る存在「影」を失った場合、鳶沢一族はその存在意義を何に持てばいいのか分からなくなってしまう。だが、「影」から戦いを仕掛けられている。一族を守るためには、たとえ自らの存在理由を失うことになろうとも「影」と戦わざるを得ない。

だが、この戦いの後には大ドンデン返しが待っている。これは本書で確認頂きたい。

さて、この「影」だが、一体誰なのか?

早い段階でその可能性は絞られて語られているが、犯人捜しのようにその人物を推測するのも本書の楽しみ方である。

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内容/あらすじ/ネタバレ

正月早々笠蔵が風邪を引いた。風邪を引いて気を弱くした笠蔵はおきぬと信之助を呼んで、後継が心配だという。今、鳶沢一族に降りかかっているのは惣代の剥奪と、「影」との対立である。こうした中で、笠蔵はいち早く後継問題を片づけておきたかったのだ。

総兵衛が千鶴を好いていることは皆知っている。そこで、笠蔵はこれを後押ししようというのだ。そのために、鳶沢村の次郎兵衛の了解を取る必要がある。幸い、笠蔵は病になっているので、療養を兼ね、総兵衛に知られぬように鳶沢村に行くことにした。

「影」からの呼び出しが来た。だが、約束の場に「影」は現れなかった。これは「影」の鳶沢一族への縁切り状と考えるほかない。つまり、「影」との戦いが始まることを意味している。まずは、「影」がだれかを探り出す必要がある。

大目付の本庄豊後守勝寛から呼ばれた。本庄家にある家康と秀忠に関わる門外不出の家宝が盗まれたというのだ。総兵衛はおきぬを本庄家に入れて探索させることにした。この盗みは家の事情に詳しい人間でなければ出来ない犯行である。

総兵衛が外で意外な話を聞き込んできた。それは、三井越後屋が古着の町富沢町から品を仕入れるという噂があるという。もし、これが本当の話なら、古着と新物の仕入れと販売が交流することになり、衣類の流通形態がまったく変わる話である。総兵衛としてはなんとしてでもその仕入れ口に名乗りを上げておきたい話である。

本庄家から盗まれた家宝だが、出入りの自由な親戚筋で、家宝の存在と場所を知っている者の可能性が高い。間の悪いことに、五代将軍綱吉から、是非ともその家宝を見たいといわれたという。本庄家に危難がおよぼうとしていた。

一方、大黒屋では席次の再編がなされた。それとともに、清吉を鳶沢一族に迎える決議がなされた。そして、この席で「影」を探している者達からの報告がなされた。

本庄豊後守勝寛の長女・絵津の許婚・米倉新之助がとんでもない女に引っかかっていることが分かった。後ろにいるのは札差の伊勢屋亀右衛門である。

千鶴が殺された。「影」が動いて千鶴を殺したことを総兵衛は感じ取った。早急に「影」が誰なのかを確定させなければならない。老中筆頭の土屋相模守政直が一番怪しいが、総兵衛には引っかかる点がある。それは、「影」と会った時に聞いた声である。当年六十二才になる土屋相模守のような老人の声ではなく、壮年の者の声であった…。

本書について

佐伯泰英
抹殺! 古着屋総兵衛影始末3
徳間文庫 約三九五頁
江戸時代

目次

序章 後継
第一章 対決
第二章 盗難
第三章 惨死
第四章 仇討
第五章 処断
第六章 蘇生
終章 復活

登場人物

歌舞伎の左近…御用聞き
さき…左近の女房
六平…担ぎ商い
三井八郎右衛門高富…三井越後屋当主
吉野…本庄豊後守勝寛の姉
いね…本庄家の勝手頭
紋三…植木職人
米倉能登守…旗本
米倉新之助…絵津の許婚
お七
梵天の五郎蔵
伊勢屋亀右衛門…札差
板坂源蔵…用心棒
土屋相模守政直…老中筆頭
土屋昭直…嫡男
土屋定直…次男
数馬柳之進…土浦藩小姓頭
伊達村兼光降次
犀川小次郎
瑞眼太郎平
伊馬里三太夫
水無瀬三郎助
三田村露州
熊沢隼人
丹衣斎盛久
中条十松
樋口定兼…馬庭念流
(船宿幾とせ)
うめ…女将
千鶴
勝五郎…老船頭
元太郎…赤子