シリーズ第十一弾。
孫の小太郎が誕生して、秋山家もにぎわいはじめます。
本書では、この小太郎の命名に関して、小兵衛がああでもないこうでもないと考えている姿が描かれており、これがおかしいのです。
小兵衛が考えていた名前があるのですが、大治郎に言わせれば、とんでもない、困る、ような名前を考えていました。それがどのような名前なのかは読んでご確認ください。
また、本書では久しぶりに三冬が主人公となる話があります。「その日の三冬」です。
この物語の中で語られているエピソードは三冬の一面をよく現わしているものだと思います。個人的には印象に残る話でした。
滑稽でおかしいのが、「時雨蕎麦」です。とんでもない勘違い、もしくは早合点というもののもたらす喜劇というべきでしょうか。
前作まで、少し暗い内容の展開が続いていた分、本書に見える希望がとても温かく感じます。
内容/あらすじ/ネタバレ
剣の師弟
町人風の男と対峙している侍が二人いた。しかし、この町人は余裕を見せているようであり、対して侍どもは町人に臆しているようである。侍たちは町人にあしらわれてしまう。この二人は阿部壱岐守直道の家来であった。
この町人風の男を秋山小兵衛は見かける。この男と一緒にいたのが、かつての小兵衛が可愛がってた弟子の黒田精太郎だった。この黒田精太郎は殺しをして行方しれずとなったのだった。小兵衛はこのとき殺しの技を教えたようなものだと悔やんでいた。
しかし、黒田精太郎は何故江戸に戻ってきたのか?
勝負
その試合について、秋山小兵衛は息・大治郎に負けてやれという。唖然とする大治郎。相手は江戸の剣術界でも名を知られる谷鎌之助という男である。今回はこの谷の仕官のための試合である。だからこそ負けてやれと小兵衛はいう。そして、妻・三冬も同様に負けておやりなさいませというので大治郎は憮然としてしまう。
さて、谷との試合が終わると妻・三冬のお産が終わっていた。生まれたのは男の子だった。
初孫命名
秋山大治郎が息子の名を小太郎と命名したかったが、父・小兵衛はならぬという。しかし、小兵衛も名を決めかねていた。そこで松﨑助右衛門知恵を拝借しようと出かけた。
その途中でのこと。小兵衛は自分の隠宅に押し込もうと相談している連中の話を偶然聞いてしまう。しかも、浅野幸右衛門の遺金が千何百両とある事まで知っているようである。どこからこのことが漏れたのか…
その日の三冬
産後久しぶりに三冬は出かけた。そして墓参りをした帰りその事件に遭遇した。
白刃を揮ったままの浪人が若い町女房を攫ったまま逃げている。その顔を見て三冬は驚愕した。その浪人は三冬が井関道場の四天王とよばれている時に、稽古をつけてやった岩田勘助であった。
小さな家に逃げ込んだ岩田勘助を諭そうと、三冬がその小さな家に入っていく。
時雨蕎麦
川上角五郎が後添いをもらうことになったらしい。相手は京桝屋の後家だという。若い相手だと秋山小兵衛に嬉しそうに話す川上角五郎と別れ、件の京桝屋に入っていった。
そして、分かったのが川上角五郎の勘違いであるということであった。京桝屋には後家が二人いたのだ。一人は当代の義妹、そしてもう一人は先代の妻である。京桝屋はこの先代の妻と川上角五郎の縁談が進んでいると思っている。
助太刀
秋山大治郎は一年ぶりに扇子や団扇を売っている男を見る。この男に乱暴をはたらく侍がいるので大治郎は退治するが、実は大治郎の助けはいらなかったのかもしれない。男は乱暴を受けながらも急所を外していたのである。男は相当の手練れである。
この男を大治郎は再び見ることになる。そして、ここではじめて互いに名乗った。相手は林牛之助という浪人である。そして林は中島伊織という若い侍を連れていた。林は中島伊織の敵討ちの助太刀だという。
小判二十両
秋山小兵衛が「鯉屋」の隠し部屋で覗いたのは小野田万蔵の顔である。小野田万蔵は男と話していた。その内容というのが、二十両で或る人物を気絶させて欲しいというものだった。
小野田万蔵は恩師・辻平右衛門が生きている時の小兵衛の弟弟子になる。この小野田万蔵は出生に秘密があって、小兵衛は今回の件をどうするか思案していた。
本書について
池波正太郎
剣客商売 勝負
新潮文庫 約三一〇頁
短編集
江戸時代 田沼時代
目次
剣の師弟
勝負
初孫命名
その日の三冬
時雨蕎麦
助太刀
小判二十両
登場人物
剣の師弟
黒田精太郎
藤川の仙助
津国屋庄兵衛…大坂の旅籠の主人
巣鴨の藤兵衛
貝野の太平次
勝負
谷鎌之助
村田屋徳兵衛
初孫命名
松﨑助右衛門…小兵衛の兄弟子
庄五郎…老僕
おふく…庄五郎の姪
仁助…おふくの息子
その日の三冬
岩田勘助
時雨蕎麦
川上角五郎…御家人
山田久蔵…御家人
京桝屋与助
お崎…京桝屋与助の義母
助太刀
林牛之助…浪人
中島伊織
酒井忠兵衛…剣客
伊平…居酒屋の亭主
小判二十両
小野田万蔵
藤方屋宗兵衛