子母澤寛「勝海舟 大政奉還」第4巻の感想とあらすじは?

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第四巻は薩長同盟がなってから、大政奉還、鳥羽伏見の戦いを経た所辺りまでが舞台となっています。

十五代将軍徳川慶喜が、戦わずして大坂から逃げ帰り、小栗上野介らの主戦論者を廃して、勝麟太郎や大久保一翁といった能吏たちに事後処理を任せる時期です。

いよいよ徳川幕府の幕引きであり、この幕引きを鮮やかにした勝麟太郎の真価がいよいよ発揮されようとしています。

勝海舟(勝麟太郎)には「山師」というイメージをもっている人もいるのではないでしょうか。

麟太郎と同じ時代を生きた人間からも、特に幕臣からそう思われていた節があったようです。

同じく、薩摩や長州の中にもそうしたイメージを持っていた者がいたようです。

その大きなイメージを与えているのが、本書で語られている薩摩との出兵交渉問題や、長州との止戦問題などです。

本書を読めば一目瞭然なのですが、薩摩や長州の交渉相手を結果的に裏切る形になったのは、麟太郎のせいではありません。

すべては二枚舌で事に当たろうとした幕閣のせいなのですが、表に立たされてしまった麟太郎に非難の矛先が回ってしまう結果となっています。

いわゆる梯子を外された格好となり、これが結果として麟太郎のイメージを損ねてしまっている部分があります。

場当たり的にしか事を考えられない者や、小賢しいことを考える者が上司にいると、梯子を外されてしまうのは、今に限ったことではないようです。

小栗上野介を代表とする主戦論者がフランスと手を結び、借金をして薩長と対抗しようと画策している場面が描かれています。

一方の薩長にはイギリスが付く格好になり、いわば英仏の代理戦争的な側面というのが見えてきます。

この構図の中で、麟太郎たちはフランスに食い物にされる心配をしています。

つまりは金で首根っこを押さえられ、身ぐるみをはがされるのではないかという心配です。

結果的にはそうはならなかったものの、一歩間違えると、日本が植民地となっていた現実があったのかも知れません。

それはそうと、金で首根っこを押さえられそうになるというのは、幕末の時期だけでなく、現在にいたるまで常にはらみつづけている問題でもあります。

さて、この巻からしばらく麟太郎との関係が深くなるのが、薩摩の益満休之助です。

西郷吉之助の命により、伊牟田尚平らと江戸へ赴き、江戸市内を混乱させる工作をしています。

この動きに怒った幕府軍が江戸薩摩藩邸を襲撃し、鳥羽伏見の戦いとなります。いわば工作が成功した結果でした。

幕府により逮捕されますが、勝麟太郎が身請けしました。

この後、江戸総攻撃の時に麟太郎から山岡鉄舟を駿府総督府へ送り届けるように頼まれ、山岡鉄舟を西郷吉之助に会わせることとなります。

この益満が死んだのは上野の彰義隊戦のことでした。享年二十八。

もう一人。佐藤与之助。これは以前から登場していますが、ここでおさらいです。

現在の山形県に生まれました。与之助は幼名。佐藤政養(さとうまさよし)の名で知られます。

黒船が来襲した一八五三年に江戸へ出て、西洋流砲術と練兵術を学びました。翌年には勝麟太郎の塾に入り、蘭学、砲術、測量などを学びます。

一八五七年には長崎海軍伝習所に入り、天文、測量、航海術などを学びました。

明治維新後は民部省に出仕。鉄道敷設の責任者となって大阪・神戸を結ぶ鉄道を開通させました。

初代の鉄道助(てつどうのすけ)となった人物です。

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内容/あらすじ/ネタバレ

長州との談判をまとめて帰ってきた勝麟太郎だったが、その報告を閣老たちはろくに聞くことがなかった。これでは何のために行ったのか分からない。

麟太郎は知らなかったのだが、この間に幕府は勅命を仰いでいた。結局の所、麟太郎は一橋公や幕閣に煮え湯を飲まされる形となった。それはまだしもいいと麟太郎は思う。だが、麟太郎を信じた長州の広沢らがあまりにも可哀想だ。人は命より信が大切である。

新選組の土方歳三が訪ねてきた。そこに奧医師の松本良順がやってくる。新選組の近藤勇と松本良順は元治元年からの懇意だ。土方も知っている。

良順は自分の泊まっている旅宿へ行こうといっている。そこの南部精一郎という男がなかなかなのだというのだ。

麟太郎の倅・小鹿が英国へ派遣される留学生の選から漏れた。その事を佐藤与之助は麟太郎から聞いた。幕府は上も下も麟太郎を嫌っているということだ。江戸の敵を、長崎で討つ、女の腐ったようなことだ。

麟太郎が不機嫌になったのは小鹿のことばかりではない。蒲柳の質の次男・四郎の身体の調子がよくないという。

人一倍子煩悩の麟太郎にとって辛いことであった。

松本良順が蘭書をもってきた。フランス人オルトランの万国海津全書である。榎本釜次郎が持ち帰ってきたもので、一橋公への献上品だ。それを献上の前に盗み見る形となる。

麟太郎は実に有り難いと、丁寧に頭を下げた。良順は思わず目を潤ませた。

麟太郎は江戸に戻ることになった。途中で伴鉄太郎と佐々倉桐太郎と遭遇した。二人には連れがいた。清水港の山本長五郎、つまりは清水次郎長だ。

江戸に戻った麟太郎を待っていたのは、息を引き取っていた次男・四郎の姿だった。十三歳だった。

麟太郎は杉享二に小鹿はアメリカにやるといった。

それよりも、いま問題なのは幕府に接近しているフランスである。公使のロセスよりも、それを操っているメルメ・デ・カションという宣教師が曲者だ。この勢力の幕府への食い込み方がただならぬものらしい。

これと結んでいる小栗上野介や栗本瀬兵衛らも、相当以上に切れる人物だけに、勢いがはなはだしい。

一方で、英国が薩長に接近している。目下の所、日本はロセスとパークスの喧嘩に食い物にされている感じだ。

こうしたことを麟太郎は大久保一翁と話していたが、一翁が苦い顔をして、われわれだけでも褌をしっかりと締め直そうといった。

もうすぐ正月という時、一橋慶喜公に将軍宣下があった。十五代将軍徳川慶喜の誕生である。その月、孝明天皇が亡くなった。

正月となり、麟太郎は四十五歳になった。

巷では「えいじゃないか、えいじゃないか」が流行っているという。天地混迷の様相だ。

新徴組の山口三郎が麟太郎を訪ねてきた。これを見た麟太郎は佐藤与之助に、山口は才子だ、新徴組には過ぎた人物だといった。

小鹿をアメリカにやる一件では、杉享二が奔走していた。仙台藩の富田鉄之助が一緒に行けそうなので、富田を幕命による仙台藩からの留学ということに筋立てをして、小鹿と一緒に行かせることにした。

再び新徴組の山口三郎がやってきた。

薩摩藩の柴山良介がやってきた。益満休之助を連れてきた。西郷が寄こした人間だった。西郷は益満を迷惑だろうが命を預かって欲しいという腹のようだ。

その益満は席を温める暇もなく方々へ飛ぶ。今は熱海へ行っている。熱海ではフランスのロセスが湯治に行っている。

英国のパークスが阿蘭陀士官を解雇しろといってきている。阿蘭陀にこの話をつけてくれと麟太郎は頼まれた。薩摩との出兵交渉問題、長州との止戦問題と、苦い経験が山ほどある。真っ平御免だと麟太郎は断った。

だが、ついには引き受けることとなった。それについて条件をつけた。

まず、麟太郎はパークスを訪ねた。

教官問題が解決して以来、海軍所の動きがだいぶ生き生きしてきた。

このころに小鹿がアメリカへ出発した。六月のことだった。

吉岡艮太夫がやってきた。長崎奉行支配組頭から大坂奉行支配組頭となっている。

この艮太夫が目付の原市之進が殺されたと言った。徳川慶喜は懐刀を奪われたようなものだが、大奸物と目していた連中は大喜びだろう。

艮太夫が帰ってから程なくして土方歳三が訪ねてきた。土佐の後藤象二郎が京から国に戻る途中で、薩摩の小松帯刀、大久保一蔵らと会合を開き密談をしたようだと語った。

この後藤象二郎が再び上洛して、薩摩藩を訪ね、大政奉還の建議をしようということになった。

麟太郎は大政奉還を断じた徳川慶喜の英断に涙を流した。よくぞ、よくぞ、断じてくれた。徳川慶喜公は、立派な将軍家だ。

だが、この裏では薩摩の大久保、長州の広沢に討幕の密勅が下っていた。この辺の事情は松本良順が報じてくれた。だが、大政奉還が成った上では、討幕の名分がない。

また、佐藤与之助からたよりがあった。久しぶりに坂本竜馬にあったというのだ。そしてしばらくして、竜馬が中岡慎太郎と一緒に刺客にやられたという知らせが飛び込んできた。

江戸城の二之丸が焼け落ちた。城では付け火だと騒いでいる。天璋院の侍女の中で薩摩屋敷にいる浪士を手引きしたというのだ。天璋院は薩摩の島津斉彬の娘だ。

この後、三田の薩摩藩邸に討込みがあった。

山口三郎が訪ねてきた。片山喜間多が新徴組を脱退したという。片山は麟太郎を殺す気で訪ねたが、麟太郎を見て天下の英傑である、それをとやかく言ったのは大間違いであった、不明を謝して大小を捨てるのだといった。

松本良順が江戸に戻ってきた。良順は御典医から軍医総長になっていた。

良順は、幕府の病には勝安房守という名医がいるのだが、とんと病人に嫌われているといった。麟太郎は、ただ静かに立派に死なせてやりたいと思っている、それが三百年の恩顧を蒙るものの奉公だといった。

松平勘太郎から鳥羽伏見の戦いに関する手紙が届いた。この鳥羽伏見では幕府軍が大敗北を喫している。

さらに、この敗北で将軍家は闇にまぎれて秘かに大坂を去り、江戸に向かっているという。大坂にいた吉岡艮太夫はこれを聞いて茫然とした。

この時、大坂には一万余りの兵がいたにもかかわらずだ。

慶喜は大坂を脱出する時は、改めて軍勢をととのえると周りに言っていたが、実は恭順謹慎すると告げたから閣老は驚いた。一杯食わされて大坂を脱出したことになる。

その慶喜から麟太郎は呼出を受けた。

麟太郎は会うなり、何故帰ってきたのだと叱るような調子で聞いた。これに慶喜は答えない。

やがて慶喜は、この上は頼れるのはその方だという。薩摩の西郷、大久保としかるべく掛け合いをしてくれと頼まれた。

麟太郎はきっちりと肚が定まった。この瞬間、徳川家も薩摩藩もない、ただ日本国という思いしかなかったのだろう。

小栗上野介ら主戦論者が追い払われ、いよいよ勝麟太郎と大久保一翁が天下大変の切り盛りをすることになってきた。

まずの問題は、静寛院の宮の処遇であり、薩摩からの天璋院である。この頃、東征軍が進発しようとしていた。

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本書について

子母澤寛
勝海舟4 大政奉還
新潮文庫 約四九〇頁
江戸時代

目次

時雨月
冬来りて
初霜
海津全書
蛙の子


風立つ
遠鳴

万里
半年紅
桐秋

一塵一劫
転又変

非心力所及
紛々擾々
欠堤
花尊者

鳶輪を描く
獲物
肝っ玉
或説己身

登場人物

勝麟太郎
おたみ(君江)…麟太郎の妻
お夢…長女
お孝…次女
小鹿…長男
四郎…二男
お逸…三女
お信…麟太郎の母
お糸
杉享二(純道)
おきん…杉の嫁
梶お久
梅太郎…お久の子
お仲
お順…佐久間象山の妻、麟太郎の妹
岩次郎…頭
三公
小林隼太
丑松
新門辰五郎
三次郎…わ組
松五郎…東屋の亭主
花柳寿助…芝居の振り付け師
大久保忠寛(一翁)
松本良順…奧医師
南部精一郎
佐藤与之助
木下大内記(伊沢謹吾)
伴鉄太郎
佐々倉桐太郎
矢田堀景蔵
吉岡勇平(後に艮太夫)
清水の次郎長
松平春岳
中根靱負
横井小楠
坂本竜馬
松平勘太郎…大目付→大坂町奉行
小栗上野介忠順…勘定奉行勝手方
徳川(一橋)慶喜…十五代将軍
原市之進…一橋家臣
益満休之助
伊牟田尚平
西郷吉之助
小松帯刀…薩摩藩家老
柴山良介…薩摩藩士
大久保一蔵
広沢兵助…長州藩士
桂小五郎
近藤勇
土方歳三
佐久間恪二郎…佐久間象山の倅
山口三郎…新徴組
片山喜間多…新徴組
ロセス…フランス公使
メルメ・デ・カション…フランス人宣教師
パークス…イギリス人
アーネスト・サトウ…通訳

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