覚書/感想/コメント
「はじめに」に述べられているが、著者が天璋院に出会ったのは宮尾登美子氏の「天璋院篤姫」によってだったという。
2008年度のNHK大河ドラマは「篤姫」であった。宮尾登美子氏の「天璋院篤姫」が原作である。本書はその解説本のひとつとしてとらえてよい。
小説「天璋院篤姫」が刊行された昭和五十九年当時は、大奥の研究が停滞期にあった頃で、明治期に出版された「旧事諮問録」「千代田城大奥」といった聞書きと、三田村鳶魚の「御殿女中」が大奥研究のバイブルであり、研究はその域を出ないとされていた時分だったようだ。
研究が進むのは、女性が残した書状や日記、分限帳、奥日記などによってであり、平成になってからだという。意外だが、大奥の研究が進んで、その様子がよく分かるようになってきたのはつい最近ということになる。
大奥の研究というのも、社会史・民俗史などの研究の発展とともに新たな局面を迎えたということなのだろう。
ここで、著者は小説「天璋院篤姫」に描かれている天璋院は、婚家に尽くしてその慣習に従った女性であり、それは「婦徳」の概念がひとつの軸になっているという。それとは対照的なのが和宮である。
確かに小説ではそのように描かれている。だが、著者は「あとがき」で、小説で描かれたのは偶像であったと述べている。天璋院は自己主張のはっきりした性格で、自分の判断で行動するタイプだった。上昇志向が強く、見栄っ張りであったと述べている。
どちらの天璋院像が本人に近かったのかは分からないが、大きなヒントは、本書に載せられている天璋院の肖像画であろうか。
なお、本書で中核にすえたのは、奥向の役割という観点であるという。
*詳細な目次は次の通り
はじめに
序章 天璋院とは
天璋院様/島津家と近衛家/将軍家の支柱に/性格・体格と人物評/天璋院をめぐる人びと/
第1章 大奥の世界
大奥とは/江戸城大奥の構造/歴代御台所/御台所の立場/近衛家からの御台所/幕府女中の職制と人数/奥向と表向
第2章 薩摩藩と将軍家
薩摩藩の奥向/竹姫と島津継豊の縁組み/竹姫の奥向外交/広大院と一一代将軍家斉との縁組み/島津家の家格向上と一門の繁栄
第3章 篤姫から天璋院へ
将軍家定と開国/姉小路の家定正室さがし/分家から島津斉彬の実子に/家定正室をめぐる利権/広大院付女中の役割/鹿児島から江戸へ/婚礼準備/婚礼儀式/家定生母・本寿院/天璋院付女中/つぼねの使命/将軍継嗣問題/家定と斉彬の死
第4章 天璋院と和宮
和宮降嫁/御所風と武家風/二丸引移り騒動/天璋院、二丸へ転居/慶応元年の二丸御殿/健康管理と奥医師/島津家からの献上品/奥女中になった名主の娘/薩摩藩右筆の仕事/島津家の人脈/島津家と江戸城大奥/参勤交代制度の緩和/渋谷屋敷引き払い/小の島とお遊羅/家茂の上洛と天璋院の心配/将軍のいない江戸城
終章 江戸開城とその後
徳川宗家存続へ二人の女性の尽力/江戸城明け渡し/一橋邸から千駄ヶ谷邸へ/勝海舟と天璋院/和宮終焉の地を訪ねる/天璋院の肖像画
あとがき
参考文献
略年譜
索引
本書について
幕末の大奥 天璋院と薩摩藩
畑尚子
岩波新書 約二一〇頁
解説書
目次
はじめに
序章 天璋院とは
第1章 大奥の世界
第2章 薩摩藩と将軍家
第3章 篤姫から天璋院へ
第4章 天璋院と和宮
終章 江戸開城とその後
あとがき
参考文献
略年譜
索引