佐藤賢一氏は、歴史に造詣の深い作家ですが、それもそのはず、大学院の博士課程まで行っているのです。
ですから、学究の徒としての緻密さを備えた内容になっています。
さらに通常の新書と異なるのは、作者が直木三十五賞作家である点で、文章が当然上手です。
学者の書いた他の新書と読み比べれば分かりますが、違いは歴然としています。
さて、本書は佐藤賢一氏が既に小説の題材にしている「赤目のジャック」「双頭の鷲」「傭兵ピエール」の舞台となった、英仏百年戦争を解説したものです。
一三三七年から一四五三年にかけて行われた、通称英仏百年戦争は、本来英仏間の戦いでもなく、百年の戦でもありません。
現在の学校の授業では習わないのかも知れませんが、この点を踏まえて読むとよく分かるようになります。
そして、この時代を舞台にしたそれぞれの小説も一層面白く読めると思います。
この、百年戦争には黒太子エドワード、ジャンヌダルクといった英雄が登場しました。
ある意味魅力的な時代です。ですから小説の題材にもしているのでしょう。
ちなみに「赤目のジャック」はジャックリーの乱を舞台にしています。
「双頭の鷲」には黒太子エドワードが登場しますが、むしろ主役は元帥ベルトラン・デュ・ゲクランとシャルル五世です。
「傭兵ピエール」ではジャンヌダルクを扱っています。
それぞれの小説の時代背景と、歴史の流れにおけるそれぞれの位置づけがどうなっているのかを概観するには最適な本です。
本書について
佐藤賢一
英仏百年戦争
集英社新書 約190頁
目次
序、シェークスピア症候群
前史
一、それはノルマン朝の成立か
二、それはプランタジネット朝の成立か
三、第一次百年戦争
本史
一、エドワード三世
二、プランタジネットの逆襲
三、王家存亡の危機
四、シャルル五世
五、幕間の悲喜劇
六、英仏二重王国の夢
七、救世主
八、最終決戦
後史
一、フランス王の天下統一
二、薔薇戦争
結、かくて英仏百年戦争になる