記事内に広告が含まれています。

皆川博子の「妖櫻記」を読んだ感想とあらすじ

この記事は約5分で読めます。
スポンサーリンク

覚書/感想/コメント

応仁の乱直前の室町時代を舞台にした伝奇小説。登場人物の行動や思考にチャチャを入れたり、説明のために、外来語をためらいもなく使用する点は、読み聴かすことに力を入れている講談と似ている感じがしないでもない。その一方で、幻妖で耽美な雰囲気は泉鏡花の世界の様でもある。

そもそも、「桜姫もの」といわれるものが江戸浄瑠璃の成立時期からあったそうだ。時代背景や筋書きが若干違うなど、様々な話があるようだが、概ねは同じで、「桜姫もの」とか「桜姫・清玄もの」と呼ばれている。

こうした浄瑠璃の「桜姫もの」が、山東京伝によって「桜姫全伝曙草紙」となり、四世鶴屋南北の歌舞伎「桜姫東文章」へとつながっていく。そして、平成の時代にこれを蘇らせたのが本書である。

幻妖で耽美な世界を作り上げるのには美男・美女というのがつきものだ。というより欠かすことができない。おそらくオカルトチックな設定の世界で、主人公が美男・美女でなければ、単なるホラーになってしまうからだろう。そこには「妖しさ」がない。

「美男・美女」というのが登場することで初めて「妖しさ」が加わるらしい。呪う方も呪われる方も。呪う方が美男・美女であれば、清冽な「妖しさ」を与えるだろう。呪われる方が美男・美女であれば、薄幸な「妖しさ」を与えるだろう。「妖しい」というのは、一種の美なのかもしれない。

本書には「妖しさ」が充分にある。それは、阿麻丸であり、野分、桜姫、兵藤太、小萩、玉琴であったりする。
さて、各章の題名となっている嘉吉の乱、禁闕の変、長禄の変は史実である。これに山東京伝「桜姫全伝曙草紙」の登場人物を史実の世界に引きずり込んだのが本作。

野分、玉琴、兵藤太、桜姫、清玄、小萩、山吹、常照、蝦蟇丸などの登場人物は山東京伝からのものである。だが、それぞれの性格や役割などは大きくずれているらしい。

蝦蟇丸に関しては、本書では相異なる人物にその役割を担わせている。

阿麻丸と百合王だ。阿麻丸は眉目秀麗な若者だが、自分の意思というものがない。一方で、百合王は醜悪な外観で、性格も残忍。正反対の二人だが、実は互いを補う形で登場している。ジギルとハイドのようなものと言ってもいいかもしれない。

スポンサーリンク

内容/あらすじ/ネタバレ

赤松満祐の屋形の一隅に野分は別棟を与えられていた。野分は右大臣三条公冬の妾腹の子である。最近、寵愛が玉琴に移り、懐妊し、しかも臨月だった。野分は諜者の兵藤太に玉琴を連れ去ってくるように命じていた…。

赤松満祐は息子の彦次郎教康に、籤引で将軍となった義教を招かせた。そして、機を見計らって刺し殺した。

その頃、別の所でも殺戮が行われようとしていた。

兵藤太は東国で野伏りの間にいた時、立川流の行者が、死んだ母親の胎内から取り出された赤子を蘇生させたのを目撃したことがあった。

兵藤太はそうした立川流の行者の一人がいることを知っており、玉琴のお腹にいた赤子を生き返らせてくれと頼み、去っていった。

京では赤松満祐追討の準備が進められていた。そして追いつめられ落城間近となっていた。その頃、玉川宮の所に楠次郎正秀があらわれた。

事敗れ、宮のいずれかを吉野に迎えねばならないというのだ。迎えるのは若い良成と決まった。

阿麻丸はこの機を逃すまじと考えた。楠次郎正秀に修験道を会得したいと申し出た。祖父の玉川宮をはじめ一同唖然とした。

野分は兵藤太に連れられ、命からがら実家の三条公冬邸にたどり着いた。その時には野分は妊娠していた。

兵藤太はこのことを知り驚いていた。どちらの子だ。赤松満祐の子なのか、それとも、行きずりで野分が誘った少年の子なのか…。生まれたのは姫だった。桜姫と名付けられた。

兵藤太には気がかりなことがあった。もしや、玉琴の子供が生きていれば、その内二人が争うのではないかと。心配になった兵藤太は行者のいた寺を訪ねた。だが、そこは焼け落ち、人のいる気配はなかった…。

そして、あろうことか、葬っていた玉琴の骨が減り始めていた。また、一つ減っていた…。

阿麻丸は楠次郎正秀に連れられて、吉野へと向かっていた。そして、修験者によって修行が始まった。修行は苛烈を究めたが、阿麻丸は徐々に己の肉体と心が強くなっていくのを実感するようになっていた。

京では赤松満祐が生きているという噂が流れていた。

阿麻丸は京へ戻ることになった。野伏りを率いて陽動作戦をするためだ。これは楠次郎正秀の作戦による。この間に神器を奪取するというのだ。

作戦は一応の成果を見せたが、大局においては失敗に終わった。それは裏切りにあったからである。

兵藤太は清水寺に赤子の桜姫を連れて詣でた時、姫を一匹の猿が襲いかかった時のことを思い出していた。その猿を襲うようにけしかけたのは、玉琴の子ではなかったか。

その後、活傀儡が野分の前に姿を現わすなど、変事が起きた。まず、この活傀儡を探し出さなければならない。

この野分達が住んでいるところに、瀕死の阿麻丸が転がり込んできた。そして、ある程度動けるようになると阿麻丸は野分の前から姿を消した。

それを知った野分は桜姫を捨てて、阿麻丸を追いかけた。同行するのは兵藤太だ。二人は吉野へと向かった…。

十年が経った。桜姫は十二になった。この桜姫と玉琴の子・清玄が出会った。互いにそれとは知らない。

阿麻丸を追っていた野分は、この十年の間、目覚めることがなかった。兵藤太は玉琴と戦いをしているのだろうと考えた。そして、戦いに打ち勝った野分が目を覚ました。

だが、野分はまさかそのようなことがあろうとは考えておらず、なぜ、一日にして様々なことが変ったのか理解できないでいた。

阿麻丸は野伏りまがいの生活をしていたが、ある時、桜姫と再会を果たすことになった。

本書について

皆川博子
妖櫻記
文春文庫 計約九〇〇頁
室町時代

目次

嘉吉の乱
禁闕の変
長禄の変

登場人物

阿麻丸
百合王
野分
桜姫…野分の娘
兵藤太
山吹
乳母
小萩
松虫…小萩の娘
玉琴
清玄
楠次郎正秀
くぼ丸
常照
赤松満祐
畠山持国
山名持豊
細川勝元
赤松時勝
石見太郎左衛門尉雅助
三条公冬…野分の父
三条実量…野分の兄
玉川宮…阿麻丸の祖父
迪成…阿麻丸の父
小倉宮…玉川宮の従兄弟
日野有光
日野卿子
良成…小倉宮の息子
武野
朱丸
小川弘光
小谷与次