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米村圭伍の「退屈姫君 第4巻 これでおしまい」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

「ふわーあ。…ああ、このままでは退屈で死んでしまいそう。何か楽しいことが起きないかしら」

いつものように退屈をもてあましているめだか姫。今回は猪鹿蝶シスターズの失踪をきっかけに屋敷の外に飛び出す。そして巻き込まれるのは新種の「菊」を巡る事件である。

この事件の裏には田沼意次親子の深遠な野望が潜んでいた…。と、いつものように田沼親子が敵役として登場。

今回は「菊」を取り上げているので、この当時の栽培方法などが詳しく書かれている。この当時、花が受粉によって結実して種が出来るという知識がなかったそうだ。

そのため、花の雌しべに別品種の雄しべを押しつけて受粉させ、新品種を生み出す人工授粉の技術がなかった。

新種の菊は、極めて稀な突然変異を待つか、蜂などの虫による交配が生ずる偶然によってのみ出来るというものだったらしい。

さて、本作で「退屈姫君」シリーズはお終いになるので、ここで「退屈姫君」シリーズと、他の作品との流れを整理する。

風流冷飯伝」→「退屈姫君伝」→「退屈姫君 海を渡る」→「退屈姫君 恋に燃える」→「退屈姫君 これでおしまい」(=本書)→「面影小町伝

「面影小町伝」を先に読んでいると、本書の最後で「なるほど、そうつながるのか」と思える箇所があるはずである。

また、本書には「特別付録 それからのみんな」がついており、嬉しいオマケとなっている。

この中で気になるのが、「数馬と一八」「榊原香奈」の項。

「数馬と一八」では、二人が風見藩に戻ったことが書かれている程度。

一方、「榊原香奈」では、香奈が大奥に入り、五十宮倫子の逝去を機に大奥を去って風見藩に戻ったことが書かれている。

香奈は藩内の冷飯食いを婿に迎え、その男が家督を継いだ。夫婦は人目を気にすることなく外出し、四季折々の風物を楽しんだという。夫婦の後ろには、桜井色の羽織に背負った小男が、ひょこひょこ付いて歩いていたという。

…そういうことのようです。

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内容/あらすじ/ネタバレ

明和元年九月の終わり。

諏訪が赤子を宿しました。めだか姫は息をするのも忘れてしまいました。まさか、先んじられるとは。天童小文五がめだか姫の師匠として現われてから三月と経っていません。

めだか姫は諏訪の胎教に付き合わせられることになりました。諏訪は孕んだのがご自身だと思い下さいとめだか姫にいいます。

飛旗数馬と一八が風見藩上屋敷に戻ってきました。

この二人は、めだか姫が置かれている状況を知り、今日行われた菊合わせの話しをします。菊合わせとは菊の品評会のことです。

めだか姫は人の話を聞くだけでは面白くありません。行ってみたいと思いました。

めだか姫の父・西条綱道が突然現われました。天下の一大事が出来したというのです。

それを聞いためだか姫は、すてきすてき!と叫びます。

実は、猪姫、鹿姫、蝶姫の三姉妹が行方しれずになったというのです。行方が分からなくなったのは、上野池之端、植辰が開いた菊合わせの会場です。めだか姫は猪鹿蝶三姉妹の失踪を口実に、菊合わせの見物に出かける魂胆です。

さらに、綱道は三姉妹の嫁ぎ先が決まったのだと言います。そして、その嫁ぎ先の監視が厳しいことも明かしました。嫁ぎ先にしてみれば猪鹿蝶三姉妹の不行跡を確かめて縁談を断ろうとしているのです。

お仙は諏訪にトンボ玉で買収されていました。渡来民の末裔である熊野忍びはトンボ玉に魔力があると信じています。諏訪から貰ったトンボ玉は玄武の玉というのだそうです。他に青龍の玉、朱雀の玉、白虎の玉があります。すなわち四神獣の眼球を模した玉なのです。

お仙はこれを知り、手の平の玄武の玉をまじまじと見つめます。

めだか姫は池之端仲町に向かいました。ちょうど中菊の部、花競べの審査結果が出る所です。

二等の発表が行われた時に叫んだ若侍がいます。田沼意知です。自分の菊が二等など納得出来ないというのです。

ですが、一等の天之位に輝いた雪見桜は遙かに素晴らしいものでした。江戸菊とよぶに相応しいものです。これを作ったのは名無之権兵衛という者でした。名無之権兵衛とはいかに。

菊合わせを見終えるとすることがなくなります。めだか姫は仕方なく猪鹿蝶三姉妹を探すことにします。お仙はめだか姫の手を引っ張ってせかします。

この後すぐに中澤真吾という小普請組の御家人に出会います。この者こそが雪見桜を作った名無之権兵衛でした。

中澤真吾は弟の小兵太、友の小野忠治郎、矢橋卓蔵に手伝って貰いながら菊作りをしています。

真吾はめだか姫に雪見桜の特徴を説明しました。それは花弁が芸をするというものです。左へ左へ、芸が進み、花弁がよじれていくのです。

見事な菊を前に、めだか姫は真吾にさぞや高値で売れるでしょうと言いました。ですが、そう簡単にはいかないと真吾は言います。いったん市場に出回ってしまうと値崩れが起きるというのです。

そこで真吾が思いついたのが、菊好きの大名に売ることです。そのためにめだか姫に声をかけたのでした。

お仙が熱心に猪鹿蝶三姉妹を捜しているのを一八は妙だと思っています。

そのお仙が三姉妹を発見したのは、浮船という出会茶屋でした。お仙は三姉妹が独身生活と訣別するに当っての最後の楽しみを奪わないかわりに、トンボ玉を欲しいといいました。お仙が三姉妹の捜索に熱心だったのは四神獣のトンボ玉が欲しかったからなのです。

雪見桜を見た西条綱道は将軍・徳川家治を招いて観菊の宴を催そうと考えました。そのために全ての雪見桜を買うと言います。

こうなってしまっては雪見桜を作ったものが誰なのか永遠に分からなくなってしまいます。そこで、もう一度だけ菊合わせに出品することにしました。雅号は名無之権兵衛ではなく、江戸ものであることがすぐに分かる雅号にすることにしました。

雅号を考えたのは矢橋卓蔵である。卓蔵は謎かけや言葉遊びが大好きなのです。その卓蔵が取り憑かれているのが、手習い歌です。

新しい雅号は「湯島河豚町、後家於勝」です。

西条綱道が、天下の一大事じゃ、と飛び込んできました。吹上御庭で菊合わせが行われることになったというのです。綱道はこれに雪見桜を出そうと考えています。

ですが、その雪見桜がある中澤家が何者かに襲われていたのです。咲いていた雪見桜は全て駄目になりましたが、不思議なことに雪見桜は一鉢も盗まれていません。

めだか姫は何故この様な暴虐が行われたのか分かりました。

中澤小兵太は兄・真吾に内緒で雪見桜を五株、挿し芽していました。それを人に預けていたのです。それを聞いた真吾は怒りを爆発させましたが、この場合、不幸中の幸いというべきものです。

これを小兵太に相談してきたのは矢橋卓蔵でした。そして預け先を知っているのは卓蔵しかいません。ですが、襲われた時に卓蔵は頭を強く打って意識が戻りません。

矢橋卓蔵はまめな人物で日記を残しています。その該当箇所を見ると、肝心な所が墨で消してあります。ですが、はさんであった栞になにやら謎を解く鍵にような言葉が書いてあります。

「トホラヨ マメチホ メチヌシ」

暗号のようです。

めだか姫と小兵太が謎解きに挑みますが、寺名の弥勒寺というのが分かったのが精一杯です。肝心の地名が解けません。

更に解く鍵があるはずです。それは矢橋卓蔵の作った手習い歌に他ありません。小兵太はそれを一生懸命に思い出そうとしますが、全てが出てきません。

万策尽きたかに思えた時、榊原香奈が現われました。そして香奈が謎を一人で解くといいます。

吹上御庭での菊合わせが始まるまでの時間がありません。少しでも時間を稼ぐために、めだか姫はお仙に家治への伝言を頼みました。

そのお仙を江戸城を守る熊野忍びが待ちかまえていました。待ちかまえていたのは多由也。熊野忍びの内、最も体術に優れたものに与えられる称号です。そして多由也は江戸組の頭領でもあります。多由也は三人の手練れを伏せていると言いました。

果たして、お仙は家治に伝言をつたえられるのでしょうか?そして吹上御庭での菊合わせの行方はどうなるのでしょうか?

本書について

米村圭伍
退屈姫君4 これでおしまい
新潮文庫 約四一〇頁

目次

おしまいのはじまり
第一回 諏訪はらみ姫はむくれて立て籠り
第二回 姫燃ゆるこれぞ天下の一大事
第三回 花競べ負けて若君とち狂い
第四回 三姉妹嫁入り前のかくれんぼ
第五回 呼子の音光る白刃散る菊花
第六回 暗号や菊はいずこにいろは歌
第七回 あめふればゐせきをこゆるみづわけて
第八回 くの一の瞳に宿る四神獣
第九回 大奥に響く銃声お仙死す
ほんとうにおしまい

登場人物

めだか姫
お仙…茶汲み娘、くの一
諏訪…老女
天童小文五…将棋の師匠
飛旗数馬…冷飯
一八…幇間、お仙の兄
榊原香奈…榊原拓磨の姉
時羽直光…時羽直重の弟
田沼意次…御側衆筆頭
田沼意知…田沼意次の倅
三浦庄二…田沼家用人
徳川家治…十代将軍
五十宮倫子
万寿姫
倉地政之助…御庭番
西条綱道…めだか姫の父
猪姫
鹿姫
蝶姫
植辰
塗利屋滑太郎
中澤真吾
豊世…真吾の妻
中澤小兵太…真吾の弟
小野忠治郎
矢橋卓蔵
多由也
百貫の力丸
妙見の新八
崔英愛