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山田風太郎の「忍法忠臣蔵」を読んだ感想とあらすじ

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忠臣蔵を題材にした忍法帖。

いかにして赤穂浪士の人数が減っていったのかを史実に沿って、それに忍法を絡めて展開していきます。

相変わらず、奇想天外でありながら、史実をそれほどゆがめずに進めていく展開能力は鬼才の一言に尽きます。

今回の忍術対決は上杉の忍者対伊賀忍者。

伊賀者とは、天正の時代に伊賀の豪族服部半蔵が徳川家に召し抱えられたときに、一緒に連れてきた二百人の忍者の末裔です。

主人公はそうした伊賀者でありながら、太平の世の中にあっては風変りともいえる本格的な忍術修行をした無明綱太郎。

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内容/あらすじ/ネタバレ

江戸城大奥御広屋敷伊賀者の無明綱太郎は変な奴であった。伯父の伝左衛門もそうと認めざるを得なかった。

綱太郎は伊賀の鍔隠れという谷に十七の年に忍法の修行に出て戻ってきたのだ。どのような修行をしたのかは、にやにやして、はかばかしい返事をしないのでわからない。

ある日、無明綱太郎がのこのこと御広屋敷膳所にあらわれた。そして紙の包丁で魚をさばき、料理人たちの胆をつぶさせた。これも忍術だという。

綱太郎が恋をした。

相手が悪かった。「下の御錠口」をつとめるお使い番の女中だった。名を「ゆう」といった。ゆうの父親は膳所の爼銀兵衛だ。

伯父の伝兵衛は花嫁にすることを反対した。伊賀者とはいえ服部以来譜代の一門。身分が合わないというのだ。だが、承諾させた。

ゆうがどこでどうお目にとまったのか…。将軍の目にとまった。

ゆうは大奥に奉公する者の務めとして、将軍の仰せに背けないといった。綱太郎を捨てるというのだ。

無明はその言葉に、信じられない仕返しで報いた。紙の包丁の時に見せた技を、ゆうに施し、将軍の目の前で披露したのだ。

綱太郎はお城に用はないと江戸城を去った。元禄十四年三月十四日。

宇都宮近く。七、八人の武士が殺気を放ちながら追っていた。

無明綱太郎は自分を追っているのだと思っていた。だが、追っていたのは二人の虚無僧だった。

驚いたことに虚無僧は二人とも女だった。追っ手は上杉家のものだという。

一人は織江。上杉家国家老の千坂兵部の娘。そしてもう一人は女中の卯月であった。織江はあろうことか死んだ「ゆう」にそっくりであった。

綱太郎は二人とともに米沢まで同行することにした。

三月十四日。江戸城で大事件が起きた。あの刃傷の相手吉良上野介の実子が上杉十五万石の当主綱憲である。

千坂兵部は綱太郎のことを調べ上げたらしい。大奥での事件も知っていた。しかも綱太郎が忠義が嫌いで、女嫌いなのも好都合だった。

千坂兵部は公儀の敵となるという。吉良上野介を赤穂浪士から護るというのだ。公儀は吉良上野介が赤穂浪士に討たれることを望んでいる。上杉家として護るのだという。

そう言って、兵部は赤穂浪士六十一名の連判状を綱太郎に渡した。そして、赤穂浪士の志をさまたげてもらいたいと頼んだ。討ってはだめなのだ。

江戸の藩邸では能登組の忍者を暗殺に差し向けている。忍者は十人。瓜連兵三郎、浪打丈之進、鴉谷笑兵衛、万軍記、白糸錠閑、鍬形半之丞、折壁弁之助、月ノ和求馬、女坂半内、穴目銭十郎。

赤穂浪士の志をつぶす。そのためには男がひきずりこまれずにはいられない堕地獄がある。色道、肉欲の罠、女色の地獄である。

千坂兵部が用意したのは能登の女忍者である。お琴、お弓、お桐、お粱、お杉、鞆絵である。

依頼は4つ。赤穂浪士の首領を探し出すこと。赤穂浪士を刺客どもから護ること。女忍者と結び付けて復讐の志をなくさせること。そして、女忍者たちが、浪士と恋に落ちるようなことがあれば、討ち果たすこと。であった。

赤穂浪士の奥野将監は不破数右衛門が火の玉のような熱血児であることを知っている。二人が口論しているさまを瓜連兵三郎が見ていた。

二人を斃そうとしたとき、能登の女忍者・お琴が立ちはだかった。そして加勢した無明綱太郎。

奥野将監が目を覚ました。自分の身に起きたことが半分もわかっていない。

お琴と名乗る女が、助けてほしいという。

奥野将監はお琴を伴い、同じく目を覚ました不破数右衛門とともに浪宅に向かった。

数日たち、不破数右衛門はお琴が尋常でないことを知り、将監に逃がせとすすめた。それは本能的に心に危険を覚えたからだ。

だが、奥野将監はまんまとお琴の術中にはまってしまった。それは不破数右衛門も同様であった。

進藤源四郎が駕籠に乗っていると、突如として乗ってきた女がいた。忍者に追われているというのだ。

女はお弓と名乗った。お弓は甲賀宗家の家だという。高弟の一人・浪打丈之進によって父が殺され、弟子の鍬形半之丞とともに追いかけ見つけたが、逆襲を受けているのだという。

お弓の前に進藤源四郎は崩れた。

お弓は忍法歓喜天を使い、己と源四郎を入れ替えた。これを使うことにより、お弓は源四郎に、源四郎はお弓になるのだ。

十月十五日、山科西ノ山村にある大石内蔵助邸に同志二十数名が集まった。この場で進藤源四郎は内蔵助を批判した。

帰り道、矢頭右衛門七が待てと声をかけた。先ほどの件、許せないというのだ。

実は、進藤源四郎はお弓が入れ替わった姿だった…。

元禄十四年十月二十日。大石内蔵助一行が東海道を下って行った。それを八人の山伏が追っている。能登組の忍者たちだ。

内蔵助は江戸の同志たちをなだめるための旅であったが、抗しきれず、明年三月まで待ってくれとの期限を設けた。

大石内蔵助の前に忍者が現れた。ほかの同志は、現実に忍者を見るまではこれほど妖怪じみたものとは思っていなかった。

後日、また忍者が現れた。それはなじみの太夫・薄墨に化けた女だった。女忍者はお桐。内蔵助を不義士に堕すためだと宣言した。

お桐は内蔵助に本当に仇討ちをするつもりなのかと聞いた。内蔵助はわからないと答えた…。

高田郡兵衛は仇討の延期を聞いて怒っていた。

その郡兵衛の前に妖怪が現れ、飲み込まれてしまった。郡兵衛は飲み込まれたものの中で赤子の様な状態になっていた。それは夢とも現ともわからぬ状態であった。郡兵衛も崩れた。

田中貞四郎が高田郡兵衛の離脱に腹を立て、誅しに行こうとしているとき、万軍記が現れた。

この後、郡兵衛を成敗する気力をなくした貞四郎は沢井五兵衛宅を訪ねた。お通を見たかったのだ。

だが、お通は吉良邸の様子を探らせるため、五兵衛が女中奉公をさせることになっていた。

そして、あろうことか敵討ちの悲願に互いの純潔の誓いを立てた恋人が、敵の息子の寵を受けるという。恋人の兄はそれを喜び、何事にも勝る手柄だというのだ…。

浅野内匠頭の弟浅野大学に対する処分が出たのは、その夏のことだった。閉門、知行召し上げ、宗家浅野安芸守にお預けである。

浅野家の再興に望みをかけていた大石内蔵助らの夢は破れたのだった。

毛利小平太の前に鞆絵が現れた。

鞆絵は小平太に浪士たちの妻、娘、妹の行く末を見せた。あまりにも恐ろしい現実であった。小平太はいかに自分たちが武士道をたてようと、女たちにつぐなうことのできない罪を犯したことが分かった。

小平太は大石内蔵助の前に立ちはだかり、この事実を告げた。そして、内蔵助は殺して気が済むのなら、殺されようといった。だが、女たちの思いは別だったのである…。

千坂兵部が米沢から出府してきたのは十一月の半ばであった。娘の織江を伴ってのことだった。

江戸屋敷でこれまでの首尾を無明綱太郎から聞いた。女忍者六人はすべて落命していた。その結果、残った浪士は四十七人。

元禄十五年十二月十四日。上杉の上屋敷では千坂兵部が主君に覚悟を迫っていた。覚悟とは、吉良上野介は赤穂浪士に討たれてしまうことに、手を出すなということであった。

上杉綱憲は唖然とした。父を見殺しにしろというのか…。

千坂兵部はそれが将軍家と民の心であるのだから、と語る。そして、兵部は娘・織江に綱憲の心を慰めてこいと命じた。

織江はかなしげな表情で無明綱太郎に面した。ゆかねばならぬ。上杉家に奉公する身として、父の言葉には背けない。忠の一字はまもらねばならない。

忠…。無明綱太郎の目にしだいに炎がもえあがった…。

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本書について

山田風太郎
忍法忠臣蔵
講談社文庫 約三一〇頁

目次

大奥の伊賀者
死花献上
女と忠義の嫌いな男
義士堕天行
蜘蛛の糸巻
将監崩れ
浮舟の駕籠
源四郎崩れ
歓喜天
源五左崩れ
竹取物語
内蔵助崩れ
一ノ胴
郡兵衛崩れ
食虫花
貞四郎崩れ
修羅車
小平太崩れ
内蔵助・兵部参着
金剛網
無明・有明

登場人物

無明綱太郎
無明伝左衛門…伯父
ゆう
織江…千坂兵部の娘
卯月…織江の女中
千坂兵部
吉良上野介
上杉綱憲
(能登組)
瓜連兵三郎
浪打丈之進
鴉谷笑兵衛
万軍記
白糸錠閑
鍬形半之丞
折壁弁之助
月ノ和求馬
女坂半内
穴目銭十郎
(能登の女忍者)
お琴
お弓
お桐
お粱
お杉
鞆絵
(赤穂浪士)
大石内蔵助
堀部安兵衛
奥野将監
不破数右衛門
進藤源四郎
矢頭右衛門七
高田郡兵衛
田中貞四郎
毛利小平太
沢井五兵衛
お通

忠臣蔵・赤穂浪士もの

忠臣蔵ゆかりの地