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佐伯泰英の「密命 第18巻 遺髪 密命・加賀の変」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ十八弾。金杉清之助宗忠は加賀金沢藩の前田家の所に着いた。落ち着く先の道場は富田(とだ)道場。冨田流は小太刀が有名な流派である。

富田流の祖は越前朝倉家の富田九郎左衛門長家である。中条流の別れで、九郎左衛門の子の治部左衛門景家に相伝される。景家には二子あり、兄が五郎左衛門勢源、弟が治部左衛門景政で、弟が相続する。兄の勢源が小太刀の達人として知られる。中条流は中条兵庫頭長秀を祖とする流派。

相続した景政が前田利家に仕え、門人の山崎与六郎が景政の娘と結婚し、富田姓を名乗り、冨田流を継ぐ。後に与六郎は富田越後守重政となり、名人越後と呼ばれることとなる。

戦国期に生まれた流派のため、薙刀や槍、棒術、定寸の打刀、大太刀なども含んでいたという。

だが、その名を轟かせるのは小太刀であり、小太刀の名人だった富田勢源は一尺二寸(約36cm)の薪で、真剣を持った剣術家を打ち倒したといわれている。

流派からは鐘捲自斎、伊藤一刀斎景久などが出ている。

こうした有名な流派のある金沢に入ったので、長逗留するのかと思いきや、数日で追われるように出ていく羽目になる。

この時の金沢藩は財政の立て直しが始まったばかり。その陣頭指揮をとっているのが大槻伝蔵朝元である。後に「加賀騒動」と呼ばれる御家騒動の主人公となる人物である。清之助が金沢に入った時点で、かなり険悪な状況となっている。

この大槻伝蔵が清之助は公儀の隠密ではないかと勘ぐり、清之助を襲うのだ。藩内のいざこざに巻き込まれないためにも、清之助はさっさと金沢城下を去るしかないのだ。

ところで、大槻伝蔵は悪役としてのイメージが強いようだが、これは作られた悪役であり、そもそもでっちあげであるという見方がある。伝蔵に悪役のレッテルを貼ったのは前田土佐守直躬であるとか…。

詳細は海音寺潮五郎氏の「列藩騒動録」に書かれている。

さて、本書には「居眠り磐音江戸双紙」シリーズの第六巻「雨降ノ山」と似たシーンが書かれている。

金杉清之助という若者の心根の優しさを表現している場面である。

清之助は金沢を離れて、次はどこへ向かうのだろうか?

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内容/あらすじ/ネタバレ

南八丁堀の花火の房之助の家で静香姐さんの怒鳴り声が響いている。纏のかたちが決まらないという鍾馗の昇平の悩みを聞いたみわが発案して稽古をしているのだ。だが、教え上手との評判の静香も手を焼くほどの昇平の動きだった。

徳川幕府三百諸侯の中で、一番大名は加賀金沢藩の前田家が保持してきた。持分禄高百二万五千石。金杉清之助が金沢を訪れた享保十年(一七二五)夏は、六代藩主に吉徳が就いたばかりの時期だった。

清之助は藩道場として自他ともに認める富田清源道場を訪ねた。門人に清之助を剣術大試合で見た入来義高がいたおかげですんなりと道場に招き入れられた。そして、清之助を案内する若い鹿野為治郎とはすぐにうち解けた。

道場では門弟たちが享保剣術大試合の次席で、将軍吉宗から宗の一字を許され、金杉清之助宗忠と改名した若武者の登場を今か今かと待ち受けていた。

道場主の富田織部清源に挨拶をすませ、修行を願い出ると、腕前を知る必要があるので、打ち合い稽古をすることになった。

清之助は道場御長屋に滞在することになった。長屋には江戸藩邸で育った若者が住んでおり、すぐにうち解けた。

清之助は先の戦いで研ぎが必要となった刀を持ち、鹿野為治郎に案内されて研ぎ師の所へ向かった。途中、大槻伝蔵朝元の屋敷前を通った。
研ぎ師の段七は代わりの差し料として朱塗りの備前盛光を清之助に与えた。

金沢藩の財政は逼迫しており、その立て直しに藩主吉徳から抜擢されたのが若干二十三歳の大槻朝元であった。御居間坊主からの出世であり、万石以上の八家年寄衆から見れば虫けら同然の身分であるが、大槻は重臣らに相談することなく立て直しに邁進しているという。

その大槻の直属の役人として新横目と呼ばれる連中が幅をきかせていた。

清之助を歓迎する会が盛大に催された。八家の重臣らも顔を見せている。その歓迎会もひらけ、師範の入来を含めて十数人の若者だけとなり、気兼ねなく飲み直すこととなった。

飲み屋で呑んでいると、大槻配下の新横目の連中が現われた。そして清之助に絡んできた。彼らはすでに清之助を承知していたのだ。

その帰り、清之助の前に心形刀流の関左兵衛と名乗る男が立ちはだかった。清之助の暗殺を十両で受けたという。古女房の永代供養料だ。そして、万が一たおれた時は、それを旧城下高岡の瑞龍寺に届けてくれという。

清之助は関左兵衛の遺髪と十両を持ち、高岡の瑞龍寺に行くことにした。

その前に、大槻伝蔵が清之助の前に現われ、清之助に詰問した。清之助が吉宗の命を持って金沢に潜入したという者がいるため、その真偽を確かめに来たのだ。

この後、清之助は鹿野為治郎と瑞龍寺を目指すこととなった。途中で、若狭小浜藩の酒井忠音の密偵である南次郎とおたかに出会う。二人は何の目的があって金沢に忍び込んでいるのか。

高岡に着くまでに、清之助らは大槻伝蔵の配下らに襲われていた。高岡に着き、なぜ大槻伝蔵が清之助を始末しようとしているのかが分かった。

そして、瑞龍寺に着くと、関左兵衛の妻お玉はまだ生きていることが判明した…。

本書について

佐伯泰英
遺髪 密命・加賀の変(密命18)
祥伝社文庫 約三四〇頁
江戸時代

目次

序章
第一章 富田清源道場
第二章 大橋の待ち人
第三章 鰤大根
第四章 夏白菊
第五章 棒と纏

登場人物

富田織部清源…道場主
入来義高…師範
実村理三郎…師範
鹿野為治郎
市場寅之助
清水金次郎
池上伸辰
本田市太郎
奥村寿太夫…年寄衆八家奥村家の隠居
おひょう
木綿…おひょうの娘
能登段七…研ぎ師
大槻伝蔵朝元
村上嶽雄…新横目
かすみ…村上嶽雄の妹
相馬鬼太郎
榊原勝麻呂
蒲生地之助
蒲生宙八
関左兵衛
お玉…左兵衛の妻
南次郎
おたか
早右衛門…射水屋主
慈陽…瑞龍寺管主
東願…僧侶