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菊地秀行の「幽剣抄 第1巻」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

摩訶不思議なこの世のものとは別の「何か」を主題において書かれている短編集。

九つからなる短編集であるが、五つの短編と、間をつなぐ四つの掌編小説からなっていると考えた方がいいかもしれない。

ホラーというよりは幽玄な世界観を見せてくれる小説である。

とはいえ、人の怖さの一側面をのぞかせてもくれる。それは、その人間の生き方から来る怨念がそうさせているのだろう。

たとえば、「這いずり」の中のセリフ。

『―おれは地を這いずるようにして生きてきた。莫迦な上役に頭を下げて帳簿を見てもらい、小さな墨の痕がけしからんと、すべて書き直しを命じられたこともある。(中略)』

人はこうした卑屈な気持ちを少なからず抱えているものである。それを無視して人と接すると…。

さて、この幽剣抄は好評につきシリーズ化されている。

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内容/あらすじ/ネタバレ

影女房

徒目付大堀進之助はもと同僚の榊原久馬を訪ねた。久馬は伯耆流抜刀術の天才であるが、それが災いして禄を失っている。まして久馬は二十四歳の若さでありながら老人並みに偏屈である。

この久馬にも以前は嫁がいた。嫁は平凡な娘だったが、病を得て亡くなった。それが、半月ほど前から榊原の家には女がいるらしいという噂が広まった。進之助が訪ねたのはこの一件を明らかにするためである。

家に女がいるのは間違いない。

進之助が去るのを確認して久馬は小夜を呼んだ。

大川べりに出るという噂のあった女の幽霊が、榊原の家にいるという噂が出た。

今度は上士からの命により大堀進之助は久馬を訪ねた。久馬はあきらめたかのように認めた。

小夜がいつくようになったのは、無残に切り捨てた男を見つけ出し、断罪するためである。

その後の調べで小夜を斬ったのは次期中老職が確実と言われている垂水嘉門であった。

だが、今の久馬の抜刀術で嘉門に勝てるか…。

小夜は世話好きだった。やがて久馬に女がいるという噂を聞きつけて実家の母が飛んできた。新旧二人の女の張り合いが始まった。

そして、ついに呼び出しがあった…。

茂助に関わる談合

湯島天神近くに住む直参館林甚左衛門の家に甥の喜三郎がやってきた。

以前に世話をした若党の茂助はどこで雇ったかというのだ。なぜだと聞くと、あれは人間ではないという。そしてこの半月に生じたあれこれを語りはじめた。

その茂助に暇を出したという。訪ねてきたのは茂助の実家を聞き、始末するというのだ。

当の茂助は別の場所にいるという…。

這いずり

藩の勘定方を務める地次源兵衛ほど偏屈な男はいないだろう。偏屈の度が過ぎ、朋輩から嫌悪されていた。

評判の悪さから素行調査の依頼があったほどである。それに当たったのは目付の羽田信作だった。

結果、人間嫌いであると結論付けられた。

源兵衛に黒い噂がある。調べると本当だった。

源兵衛は頑強に抵抗した。そこで討手が五名選ばれた。羽田信作もいた。

源兵衛を斬った。だが、その遺骸が見つからない。

羽田は鬱々として楽しまなかった。というのも、かつて源兵衛から酒を誘われたことがあったからだ。そして、同じたぐいの人間だと言われたことがある。

地次源兵衛の廃屋に出る、という。再びかつての討手が呼ばれた。

この廃屋ですでに犠牲者が出ている。一瞬にして二人の男の足を骨ごと断ったという。

千鳥足

大辻玄三郎は秋田の某藩に勤めている。その玄三郎が千鳥ヶ淵を一人歩くことになった。

千鳥ヶ淵の怪は玄三郎も知悉している。伝説と化していた話が本当に起きたのだ。そして今までにすでに三名の武士が同じ状況で黒い水に姿を消し、浮かび上がってこなかった…。

帰ってきた十三郎

宵宮良介のところに義姉になる高橋世津がやってきた。良介は驚いた。お願いがあるという。

進藤十三郎という男を斬ってほしいという。

三年前、進藤十三郎は江戸へ向かって立ち、江戸に着かなかった。途中で忽然と消えたのだ。それが突然帰ってきたというのだ。

世津は十三郎が生きている人間ではないという。

良介は斬った感覚から、十三郎が人間だと確信した。

良介はある男にある調べ物を依頼した。

子預け

五郎太が帰ってくると、妻が爆発寸前である。今日の午後に五郎太の子であると見知らぬ妻女が子を置いて行ったという。無関係であるが、仕方がない。

悪夢を見た。以後それを見続ける。子供は光正と名づけた。

半年後、五郎太は光正は人間の子ではないと断言した。斬ると思っていたところ、例の妻女が子を引き取りに来た…。

似たもの同士

才助が一晩で十両になる仕事を陣吾行久に持ってきた。かつて助けたことがあって才助は陣吾を信頼している。とくにその剣の腕だ。

だが、陣吾は剣の腕はからっきしであるという。

浅見東介という男が陣吾に声をかけてきた。それがある家まで来てほしいという。

入ってきたのは二人の女だった。

浅見の妻早苗と長唄の師匠をしているおしぎだと名乗った。早苗は浅見が生まれながらにして不気味で罪深い性癖を持っているのだという。

そして二人のうちどちらかが斬られる前に、浅見を斬ってほしいという。

現れた浅見は姿かたちは同じなれど、陣吾の知っている人物とは異なるようである。一体どういうことなのか?

稽古相手

二十年前の事件は尋常なものではなかった。

夏の盛りに初めて訪ねた上野の山で見ず知らずの他藩の人といきなり斬り合いを始め、どちらも死んでしまった。

ところが相手もまるで積年の恨みを晴らさんばかりの勢いで抜刀したのだ。

主は一人で稽古をしていたが、ある時よい稽古相手が見つかったと言い始めた。それがすべての始まりだった…

宿場の武士

お里は旅籠の裏で水森大助を見た。

この旅籠の裏庭にはいわくつきの武士がいる。その武士を見てはならないことになっていた。その武士を水森は何者かと聞いてきた。

その侍は普通の人ではない。この旅籠で長いこと奉公をしている者は、その奉公をし始めたころから侍がやってきていると語っている。

侍はどう見ても三十代はじめだ。四十年も前から通ってこられるはずがない。だが、このことを主の彦兵衛も、そしてその前の主人も、その前も…知っているに違いない。

侍のいる離れに水森が入ろうとする。それを彦兵衛が止めた。

だが、水森は侍に話しかけることをできた。そして、そこから聞かされたのは…。

本書について

菊地秀行
幽剣抄1
角川文庫 約三一五頁

目次

影女房
茂助に関わる談合
這いずり
千鳥足
帰ってきた十三郎
子預け
似たもの同士
稽古相手
宿場の武士

登場人物

影女房
 榊原久馬
 小夜
 大堀進之助
 和平
 垂水嘉門

茂助に関わる談合
 館林甚左衛門
 喜三郎
 茂助

這いずり
 地次源兵衛
 羽田信作
 八重
 お蔦

千鳥足
 大辻玄三郎

帰ってきた十三郎
 宵宮良介
 高橋世津
 進藤十三郎

子預け
 五郎太

似たもの同士
 陣吾行久
 才助
 浅見東介
 早苗
 おしぎ
 飯塚草平

稽古相手
 山際

宿場の武士
 お里
 水森大助
 彦兵衛