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山岡荘八の「坂本龍馬」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

坂本龍馬が十九歳から二十六歳までを描く。出来事でいえば、ペリーが来日して黒船騒ぎが起きた年から、井伊直弼が暗殺される桜田門外の変までの期間である。

いわゆる「志士」としての活躍が始まる直前までの期間しか描いていないのだが、逆に、志士として目覚めるまでの過程を描いた作品として捉えることができる。

坂本龍馬は「志士」として捉えてはいけないのかもしれない。それは本作の中でも語られるように、「志士」たちが攘夷を叫び勤皇を叫んでいる中でも、龍馬は河田小龍から教わった富国の策を心の中に温め続けていたからだ。

当時の一般的な「志士」たちの考えとはかけ離れた所に龍馬の思惑はあり続けた。だから、「志士」として捉えるのはいけないのかもしれない。

この一般的な「志士」を代表しているのが、本作では梅田梅太郎(白梅寒咲)である。実在の人物かどうかはわからないが、恐らくは架空の人物だろう。

有名な人物を作中で取り上げてしまうと、坂本龍馬の姿というのがぼやけかねないので、あえて架空の人物を創作したのではないかと思っている。そして、この架空の人物に、一般的な「志士」像を重ねあわせたのではないだろうか。

これによって、坂本龍馬という人物と「志士」とを対比させたのではないかと考えるのだ。

坂本龍馬は梅田梅太郎という人物と出会い、時々によって交わることによって、己の進む道をハッキリと見定めるようになっていく。

そして、見定めがついた所で物語は終わってしまう。

ちなみに、この物語の翌年、文久元年(一八六一)に土佐では武市半平太(武市瑞山)を中心に土佐勤王党が結成される。文久二年(一八六二)には沢村惣之丞とともに脱藩。

ここから本格的な坂本龍馬の活躍が始まるが、慶応三年(一八六七)に中岡慎太郎と共に暗殺された。

登場人物について若干の補足。

小千葉こと千葉貞吉は通常「定吉」と書く。また、娘の千賀は「さな子」もしくは「佐那子」と呼ばれることの方が多い。息子の重太郎はそのままである。

河田小龍は「川田」と書くこともあるようである。

最後に。いわずもがなのことではあるが、現在の坂本龍馬像を創り出し、もはや作家によっても学者によっても、その龍馬像を超えるのが不可能ならしめた金字塔がある。司馬遼太郎氏の「竜馬がゆく」である。一読されることをおすすめする。

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内容/あらすじ/ネタバレ

嘉永六年(一八五三)の夏。坂本龍馬は千葉重太郎とその妹・千賀と天王祭を見に来ていた。この春、十九歳になった龍馬は土佐から出てきて鍛冶橋外の桶町にある北辰一刀流の千葉貞吉の道場に弟子入りした。

龍馬の目には江戸は老いも若きも人生の第一義を見失って、末梢の悦楽だけを追いかけているようにしか見えなかった。

この日の前々日、米国の水師提督ペルリが四隻の軍艦を率いて浦賀にやってきていた。それが江戸に伝わり、黒船騒ぎとなっていた。

龍馬は重太郎を呼びに出かけた。いつものように小芳と戯れていると思っていたのだが、六人ほどの男が集まり真剣な表情で密談していた。
その夜、江戸は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。

重太郎がいうには、もう幕府を倒さなければ国難に立ち向かえないという声があがっているという。朝廷を中心に新しい日本を作ろうという動きがあるのだそうだ。

重太郎は素朴な剣客志望者にわからせるように話した。これを聞き、龍馬は肝心の天朝さまはどうなのかと問うた。

重太郎は龍馬がなにやら薄気味悪い妖刀に似た頭脳を持っているという気がした。

ペルリは来年またやってくると言い残して去っていった。

龍馬は千賀の体臭が姉の乙女を思い出させるのが不思議であった。その乙女が岡上新輔という医者に嫁いだという知らせが届いた。龍馬は新輔を好かなかった。

千葉貞吉の道場からほど近い所に松蔭吉田寅次郎がいた。吉田寅次郎は海外渡航を決心していた。佐久間象山の影響によるし、時勢が彼を無理矢理前へと押しまくっていた。

龍馬の兄弟弟子である梅田梅太郎が道場を破門された。これを知って悲しんだのは千賀だ。千賀は梅太郎を慕っていた。

その梅田に龍馬がばったりと出会った。梅田は軍用金を強盗して歩いているらしい。こうした話をしている時に、梅田は近寄ってきた同心を斬ってしまう。

安政元年。再びペルリがやってきた。十二代将軍家慶が亡くなり、十三代将軍に家定がついたばかりだった。国難に先駆けようとした吉田寅次郎の密航の企ては失敗に終わっていた。

こうした危機の中、高知で地震が起きたと聞き、坂本龍馬は高知へ戻った。出迎えてくれたのは義兄の岡上新輔だった。

新輔は龍馬を河田小龍に会わせてみることにした。この小龍から龍馬は意外な方法の攘夷を聞く。それは富国の策というもので、大きな汽船を買って貿易をやり、利益を産ませる。

一方で国富を増しながら一方で国防にあたっていけば、夷人は日本を簡単に侵略しようとは思わなくなる。

龍馬は素晴らしい考えだと思った。二十一歳の龍馬の全身を荒々しく揺さぶりはじめていた。

一方で、土佐では上士と下士の間にただならぬ雰囲気が漂いはじめていた。やがて一つの大事を引き起こす。

梅田梅太郎は白金の寺の本堂下で寝ていた。今は白梅寒咲と名乗っている。梅太郎はここで鮫五郎という盗人と知り合った。鮫五郎を天下の志士と称させるため、新井鮫五郎と名乗らせることにした。

梅太郎は鮫五郎と一緒に千葉貞吉道場に押込むつもりでいた。だが、ここに土佐から帰ってきていた坂本龍馬がいた。

千葉貞吉は龍馬を師範代とすることにした。桃井道場では武市半平太を塾頭にする気でいることを知り、自分のところにいる坂本龍馬も武市半平太に劣らない人間だと思ったからである。

重太郎は龍馬を誘って、各道場の塾頭あたりと会わせたいといった。桂小五郎に武市半平太である。

老中・阿部正弘の心を苦しめていたのは尊皇と攘夷の二つの思想が表面で結びあわされることであった。これが一つとなり尊皇攘夷となると、すなわち反幕府そのものの内容を持ってくる。しかも尊皇を言いだした水戸家が攘夷の急先鋒になろうとは…。この阿部正弘が急死した。

梅田竹乃という女性が訪ねてきた。梅田梅太郎の妹である。竹乃は龍馬に兄の行方を知らないかと聞いた。龍馬は知るよしもない。

この竹乃が兄の居所がわかったと言ってきた。共に行こうと龍馬が言ったものの、竹乃は何者かに攫われるようにして消えていた。

攫ったのは新井鮫五郎だ。龍馬は以前から見知っている。それを問いつめたが、逆に鮫五郎が本物の志士になったことを知って驚く。時勢が刻々と移るのと同じように、人間も伸びている。鮫五郎は以前の盗人ではなかった。龍馬は、これはいかんぞ、と思った

安政五年。老中首座の堀田正睦は家臣を呼んだ。通商条約調印の勅許を仰ぎに上洛することになったという。家臣は不安げであるが、いまさら上洛を断念できない。勅許を得るしかないのだ。この勅許問題に後嗣問題が絡み、怪しいもつれを見せだしていた。

そして、勅許を得ることができず、むなしく京を発して帰路についた。

政局は目まぐるしく動き、大老に井伊直弼が就いた。幕府は勅許を待たずに日米条約に調印を決行することになる。

井伊家は南北朝時代から勤皇で聞こえた家柄だ。したがって、井伊家と朝廷の関係は他藩と違ったものがあった。

朝廷によく、幕府にもよい井伊家の当主である直弼は、双方のために献身すべきであると考えていた。

梅田梅太郎は梁川星巌のところから楢崎将作の家へと向かった。出迎えたのは娘の龍子だった。

梅太郎は妹の竹乃を料亭で働かせていた。竹乃は兄に告げたいことが二つあった。一つは近いうちに仲居になること、もう一つは梁川星巌、頼三樹三郎、梅田雲浜などの屋敷に出入りする者の身許を洗うようにある客が命じていたことである。

坂本龍馬が楢崎将作のところにいた。将作は龍馬を変わりすぎた若者と思っていた。それはそうだ、龍馬の心の中には、勤皇の心に徹した上での救世の策があったからだ。

ここにいる間、龍馬は龍子の世話を受けていた。

騒然とした世相の中で、志士たちの動きが活発化していた。やがて井伊直弼は捨て置けぬと判断し、後に大弾圧につながる処置を下した。楢崎将作もこれによって捕まった。

季節は十一月。坂本龍馬は土佐へ戻っていた。龍馬は土佐で武市半平太らと交流を深めていた。だが、近頃の時勢に疎いため、方々で教えを乞うた。と同時に大ぼら吹きと言われるようなことを口にもしていた。

この土佐にも時勢の波が一気に押し寄せる出来事が起きた。それは藩主豊信の隠居問題である。井伊直弼の強圧政治が、佐幕か勤皇かの態度を迫っていたのだ。

土佐に大場友三郎と名乗る浪人がやってきた。龍馬を訪ね、梅田梅太郎のことを聞いた。当の梅田梅太郎が水夫姿で龍馬の前に姿を現した。

龍馬は梅太郎に声をかけた。そして、梅太郎のおかれた立場を知ることになる。

高知に井伊直弼が桜田門外で殺されたという知らせがもたらされた…。

本書について

山岡荘八
坂本龍馬
講談社文庫 約九六〇頁

目次

突風前夜
狼狽八卦
大空の恋
朝の草々
首途の雨
安政元年
一つの暗示
故山の愛
山河風あり
汗血千里
胎動
双龍
火を吹く山
二つの風
女しぐれ
成長問答
潮流分岐
掃部事情
風の中
女柳
孤独の鍛え
血の弾圧
人生観
アザとアゴ
動きの根
流浪
犠牲者
大事と小事

登場人物

坂本龍馬
梅田梅太郎(白梅寒咲)…越後の郷士
新井鮫五郎
梅田竹乃
千葉貞吉…千葉周作の弟
千葉重太郎…貞吉の息子
千賀…貞吉の娘
乙女…坂本龍馬の姉
岡上新輔…乙女の夫
河田小龍
松岡虎八…魚屋
山田広衛
虎五郎
池田寅之進
中平忠一郎
武市半平太
桂小五郎
吉田松陰(吉田寅次郎)
永鳥三平
阿部正弘…老中
堀田正睦…老中
井伊直弼…大老
長野主膳
文吉…目明し
梁川星巌
楢崎将作
龍子…将作の娘
玉路…芸妓
大場友三郎