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山本兼一の「白鷹伝-戦国秘録」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

浅井久政、長政親子、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と仕えた天下一の鷹匠・小林家鷹(家次)を描いた作品。

「白鷹伝」から始まり「火天の城」「雷神の筒」と続く「信長テクノクラート三部作」の一作品。テクノクラートとは、政治経済や科学技術について高度の専門的知識をもつ行政官、管理者をいい、技術官僚などがそれにあたる。

本書の場合のテクノクラートは鷹匠ということになる。

鷹匠自体が歴史小説や時代小説で取り上げられることが少ない。その上、主人公となるとさらに少ない。さらにさらに、短編ならいざ知らず、長編などほぼ皆無だろう。

そういう意味でレアな題材なのだが、これがかなり面白い。

面白くするための工夫もされている。馴染みのない鷹匠というものを知るために、諏訪流十七代鷹師・田籠善次郎氏が描いた挿絵が本文に掲載され、これが読む時に非常に役立つ。

通常本文の挿絵などは大して意味がないが、本書の場合、これがあるのとないのとでは天地ほどの開きがあるように思える。とても有効な挿絵の使い方だと思う。

鷹匠といったテクノクラートは歴史の表面に表れることは少ない。

特に戦国時代などは大名や武将らが注目され、それを支える官僚組織のようなものまでは注目されないのが当たり前である。

だが、大名や武将らはこうした下支えする人々の上に成り立っているのであり、彼ら一人ですべてを成し遂げているわけではない。

そうした圧倒的に多数の下支えの人々に焦点を当てる小説というのも、また一つのこれからの道であると思う。

本書はまさにそうした新しい試みをしている小説であり、鷹匠の視点を通じて、今までの歴史小説では描けなかった戦国時代というものを描けているように思える。

鷹匠という視点から書かれている小説なので、戦国時代の小説にもかかわらず戦闘シーンや、権謀実数の権力闘争などの記述が少ない。

もちろんあるのだが、それ以上に、鷹と向き合う鷹匠の生き様が清々しく描かれている。

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内容/あらすじ/ネタバレ

小谷城が五万の織田軍に囲まれている。浅井の城に残っているのはわずか千余人。

浅井家の鷹匠・小林家次は城で死を覚悟していた。これまで家次は鷹とともに生きてきた。浅井久政、長政二代に仕え、小谷城でたくさんの鷹を飼った。

この籠城戦の中で、家次は白鷹を見かける。家次は瞳が乾くほどに鷹を見つめた。まちがいない、あの鷹だ。「からくつわ」だ。字にすれば唐の轡となる。

家次はからくつわを追いかけた。いつの日か、おまえを拳に据えて狩りがしたい。せつない恋にも似ていた。

家次を浅井長政が呼んだ。お市と三人の娘を織田の陣まで届けてくれという。確かに、この任務には家次は適任だった。

一方で気になることがあった。それは倅の元長と韃靼国使のエルヒー・メルゲンのことである。二人は昨日慌ただしく京へ向かった。その二人が無事京に着いているかである。

家次がお市らを送り届けて程なく小谷城は落城した。

家次は織田信長に会った。すると、信長も戦の中でからくつわを見かけ、追いかけたのだという。二人は草原を挟んで同じ白鷹を見ていたことになる。信長は見事な白鷹だったといった。家次は自分が誉められたように嬉しかった。

その白鷹を捕まえられるかと信長は聞く。当たり前だと家次は答えた。こうして家次は信長に仕えることになった。

エルヒー・メルゲンと小林元長は危難を乗り越え、京へたどり着いた。向かう先はかつての関白近衛前久である。前久も鷹狩りが好きで、小林家次を幾度となく引き抜こうとしていた。そのよしみもあって元長はたずねたのだ。

メルゲンも韃靼では鷹匠だった。鷹好きの二人が話をしている内に遠慮がなくなった。そして、メルゲンは本題に入った。

家次はとうとうからくつわを捉えることに成功した。巣立って間もない幼鳥だったが、胸の肉色が豊かであり狩りの天稟に恵まれているのは明らかだった。仕込み甲斐がありそうだ。仕込みは順当に進んだ。

一方、メルゲンは日本で一番の力をある者を信長であると見定め、信長に会っていた。そこで近衛前久に話したのと同様のことを話した。そしてメルゲンは信長の客分のようなものになり、家次と再会した。

家次はからくつわの仕込みが終わると、岐阜へ移った。織田家には鷹匠組が五組ある。家次の組が新たに加わり、六組となる。

この組頭の一人に吉田家久がいた。家次と同じ師匠で放鷹術を学んだ兄弟子である。だが、油断のならない男である。さっそく、吉田家久がからくつわを見て、これは本当のからくつわでないと文句をつけた。

岐阜に来て、信長から鷹の一字をもらい、家次は家鷹と名を変えた。

家鷹はある日吉田家久に呼ばれて、もり立ててもらいたいといわれた。吉田家久こそ日本一の鷹匠であるといってもらいたいというのだ。虫ずが走る思いがした。

この吉田家久が奥州へ出かけ、鷹を持ち帰ってきた。いい鷹ばかりで、正確の狷介さとは裏腹に吉田家久の眼力は確かであった。

月日が流れた。家鷹は徳川家康の願いにより、浜松に行くことになった。小栗久次配下の鷹匠たちは実直で木訥だった。ここでの指導は家鷹にもいい経験となった。

その家鷹が家康の所に行っている間、からくつわの体に異変が起きていた。一日ではっきりと体調がかわった。毒を食らわされたようだ。

本書について

山本兼一
白鷹伝 戦国秘録
祥伝社文庫 約四六五頁
戦国時代

目次

からくつわ
網懸け
詰め
体震い
初鳥飼
箔濃
塒入
鶴取
病鷹
富士
鷹柱

登場人物

小林家次(家鷹)
小林元長…倅
佐原清六…弟子
エルヒー・メルゲン…韃靼国使
伽羅…千宗易の娘
吉田多右衛門家久
からくつわ…鷹
雲井丸…鷹
織田信長
お市
茶々
羽柴(豊臣)秀吉
徳川家康
本多政信…鷹匠
小栗久次…鷹匠
正親町天皇
近衛前久
千宗易(利休)
禰津松鴎軒…家次の師匠
アイシンギョロ・ヌルハチ