岩井三四二の「逆ろうて候」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

戦国時代に活躍した斎藤家五奉行の一人、日根野備中守弘就を主人公とした小説です。本書は「浪々を選びて候」を文庫化に当たって「逆ろうて候」に改題したもの。

「浪々を選びて候」だと、ちょいと風流な感じがしないでもないので、「逆ろうて候」に改題して良かったと思います。

日根野備中守弘就は反骨心が強いです。強すぎて、仕えた主や上役にことごとく反抗します。そして、その度に浪人となってしまいます。

最初は信長に対する敵愾心からの反抗でした。斎藤家にいた時も、信長を討つ絶好のチャンスを逃しそうになると、上役にくってかかります。結果として斎藤家は信長に滅ぼされてしまいます。

打倒信長を掲げ、今川へ仕官するものの、ここでも煮え切らない主や上役にいらだちを隠せません。そうこうしているうちに、今川も滅びてしまいます。続く浅井家も同じでした。さらには、伊勢長島の本願寺勢力も同様でした。

その間に、信長は天下人へと上りつめていきます。ついに、日根野備中守弘就は信長に膝を屈しなければならなくなりました。

信長に屈して、妻の兄からいわれたことが胸に突き刺さります。「わぬし、おのれを格別の者と思うておるやろ」「美濃一国を義龍どのにさし上げたのは、おのれやと。合戦に負けたこともなく、汚い欲にも負けぬ。公事ともなれば一献料に左右されず、公平な沙汰をくだす。おのれほど出来た者はおらぬと、そう思うておるやろ」

反骨心が強いとは、あるいはこうした心理があるのかもしれません。たしかに、清廉潔白であろうとする、もしくは正しいことを言い続けることは立派なのでしょう。ですが、そうした日根野備中守弘就を描いた本書は、読み終えると、ある種の惨めさを感じます。

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内容/あらすじ/ネタバレ

日根野備中守弘就は今度こそ信長を逃さないと考えていた。日根野備中守弘就は三十八歳の武者ざかり。美濃の斎藤家五奉行のひとりである。

絶好の機会だ。だが、大将の長井隼人佑は煮え切らなかった。結局今回も信長を討つ機会を逃した。

弘就は信長が嫌いである。義龍の死で信長に強い疑念を持っているのもその理由の一つである。

それにしても、美濃斎藤家と尾張織田家の勢力に差がついたものだと思う。だが、合戦ということに関しては美濃方は織田方に負けたことがなかった。にもかかわらず、信長の勢力が増してきており、斎藤家は追いつめられようとしていた。

それにしても信長はしつこい。負けても負けても美濃へ兵を繰り出してくる…。

木曽川を大軍勢が渡っているという。何かの見間違いだろう。そう思っていたが、軍勢は信長の軍だった。今度はいつもと何かが違う。そうこうしているうちに、あっという間に稲葉山城まで迫ってきた。速すぎる。しかもあろうことか、美濃の奉行の内、竹腰、氏家、安藤らが寝返った。

なすすべもなく、敗北した。

信長に仕えることを潔しとしない弘就は一族郎党を率いて浪人することになった。いつか信長を討つ。

弘就らは今川家の朝比奈備中守の所に身を寄せた。今川家の重臣だ。

弘就は美濃から着たということで、家中の一部のものは織田の間者ではないかと疑っていた。今川氏真の寵愛を集めている大原肥前守もそうした一人だった。

この大原肥前守は傲慢で、弘就を召し抱えるのに、腕試しをするという。一騎がけの武者ならいざしらず、美濃で五千貫の禄を食んでいた弘就に対して失礼を通り越して侮辱である。これを堪え忍んで仕官がなった。だが、禄は以前の五十分の一になってしまった。

この一年の間に信長は尾張美濃に加え、伊勢半国、近江半国、山城、摂津の大領主となっていた。弘就は自分との差に愕然とする思いだった。

武田が駿河遠征の軍をおこしたのは永禄十一年(一五六八)。手柄を立てたい弘就としては待ちに待った戦だ。だが、今川軍は戦う前から総崩れとなっていた。示し合わせたように西からは徳川軍が攻め込んできていた。

今川軍は負けた。

それから一年。信長が東西から挟まれて窮地に立っているという。弘就は浅井家に仕官していた。が、浅井家もこれまで仕えた家同様に、煮え切らないものがあり、信長に次第に追いつめられていた。

こうした中で弘就は浅井家の家臣・浅井十郎と対立していた。やがてこれが元で浪人する羽目となる。この浪人にあたって、弟たちが従おうとしない。日根野家は離散する形となった。

弘就は伊勢長島にいた。本願寺の末寺、願証寺が支配する長島に来て二年になる。ここも信長と対立していた。

信長の軍勢が城を囲んで二十日すぎた。兵糧が足りなくなっていた。このままでは飢え死にしてしまう。弘就はこの城から一つだけ出る策があることを知っていた。それを実行するしかない。

長島で捕らえられた弘就が信長の馬廻り衆となってから八年あまりが過ぎていた。今信長は京へ来ている。弘就も京へ来ていた。だが、ここで思わぬ出来事が起きようとしていた…。

本書について

岩井三四二
逆ろうて候
講談社文庫 約四六五頁
戦国時代

目次

信長
稲葉山
仕官懸命
武田と徳川
籠城
シンギノヤナ
側女
離散
長島
干し殺し
京の夏
関ヶ原

登場人物

日根野備中守弘就
菊…妻
徳太郎…嫡男
弥吉郎…叔父
日根野弥次右衛門…弟
五右衛門…弟
六郎左衛門…弟
坂田半右衛門…家人
初音
金森五郎八…菊の兄
長井隼人佑
福島四郎左衛門…伊勢神宮の御師
今川氏真
朝比奈備中守
大原肥前守
三浦右衛門佐
小倉内蔵助
浅井十郎
伊藤平右衛門
円空

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