山本一力の「欅しぐれ」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

八尺を超える大男で禿頭の猪之吉。それが見るからに渡世人の様な格好をしていれば、普通は近寄らないだろう。

だが、桔梗屋太兵衛は猪之吉の振る舞いなどを見て信ずるに足る人だと思ったのだ。それは、長年の商売で培った人を見る目が、猪之吉は信ずるに足る人だと教えてくれたのだ。

そして、余命幾ばくもないことを強く知っていた太兵衛は、自分が逝った後の桔梗屋を後見してくれと猪之吉に頼む。

通常あり得ない。いくら信じるに足る人だとはいえ、住む世界が違いすぎる。猪之吉は賭場を仕切る貸元だ。堅気ではない。

だが、それでも太兵衛は猪之吉を信じ、猪之吉も太兵衛の信頼に見事にこたえる。

こうして、短いつきあいながら、深いところで互いを信頼しあう友情をはぐくんできた二人の男が、片方は死に、生き残った一人は死んだ男の遺志をしっかりと守っていく。

この強い友情で結ばれた二人が立ち向かうのは、桔梗屋を潰そうとしている騙り屋である。

この騙り屋との対決は、太兵衛が亡くなってから本格化する。

本書では、早い段階でこの騙り屋とその裏で糸を引いている人物、その目的が語られる。

だから物語は、この騙り屋と猪之吉との対決がどのように進んでいくのかを追っていけばいいのである。

ただ、猪之吉と騙り屋の対決の過程はそれなりに面白いが、終わり方が今ひとつシャンとしない。

これは、続きがあるということなのだろうか?

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内容/あらすじ/ネタバレ

天保二年(一八三一)三月の昼下がり。

柴山光斎筆道稽古場で、いきなり咳き込んだ太兵衛は筆を手にしたまま紙の上に突っ伏した。右手に握った筆が横に流れ、隣の半紙を汚した。隣にいたのは禿頭の男で、根縦縞のあわせを、襦袢なしの素肌に着ていた。見るからに渡世人のような着付けであった。

その稽古の帰り、太兵衛は禿頭の男を酒に誘い、桔梗屋太兵衛だと名乗った。男は霊厳寺の猪之吉だと名乗った。

猪之吉は大店の主である太兵衛が自分のような賭場を仕切る貸元に軽々しく身分を明かすのはどうかと思うと忠告するが、太兵衛は、ひとの目利きにはそれなりの覚えがあると意に介さない。

この日以後、二人は住む世界は違えど、五分のつきあいをする仲になった。

猪之吉の賭場で不審な客があった。手代風情が十両の金を使い、さらには紙切れから日本橋三井屋の為替切手を出したというのだ。振出人は桔梗屋だという。桔梗屋と聞いて猪之吉の顔つきがわずかに動いた。

そして、その客は二百両の為替切手を駒にかえ、ほとんど遊ばなかったという。どうも、切手の両替が目当てのようだ。

三月に出会って以来、太兵衛と猪之吉は毎月十日に杯を交わしていた。太兵衛が強く望んだことだ。

八月。猪之吉は一人思案を巡らせていた。猪之吉が手にしているのは、三井両替店の為替切手である。この為替切手にはどうやら太兵衛の心痛の根本があるらしい。

猪之吉は太兵衛を呼び、この為替切手をみせた。すると、太兵衛は出回り始めたかと深い溜め息をついた。桔梗屋では白紙切手が手代により百枚持ち出されていたのだ。

そして、脅し文が届いているともいう。桔梗屋の店と屋敷を居抜きで売り渡せという。応じなければ切手をばらまくというのだ。

桔梗屋には以前からしつこく土地を売れといってきている者がいた。油問屋の鎌倉屋だ。おそらく、この鎌倉屋が裏で糸を引いているのだろうと太兵衛はいった。

悉皆屋の徳田屋の半纏を着た手代風の男が桔梗屋を訪ねてきた。

手代の男は南品川で頼母子講を差配している岡田屋茂座衛門というひとから二千足の雪駄の誂えをしてもらえないかと頼まれたという。千両の商いである。桔梗屋ではこの大商いに湧いた。

治作は紙屑屋が生業だ。が、これは本当の生業を隠すための隠れ蓑で、本業は騙り屋だ。治作はこれまでの首尾を手下たちに確かめた。

いま治作が請負っているのは桔梗屋を潰すことである。頼んできたのは鎌倉屋鉦左衛門だ。

九月。太兵衛と猪之吉がいつものように杯を交わしている時、太兵衛は自分が逝った時には桔梗屋の後見を頼むと猪之吉に願った。太兵衛は十一月までもたないだろうと言う。体がだいぶ悪いのだ。

太兵衛は頭取番頭の誠之助は言うことを聞くだろうと言うが、猪之吉はそんなに甘くないと言い切る。

そこで、太兵衛は誠之助にことの次第を話すと、果たして反発された。だが、そこに猪之吉があらわれ、その後、誠之助自身も信じられなかったことだが、猪之吉によろしくお願いしますと頭を下げていた。

これで、桔梗屋に仕掛けてきた一味がどんな連中だか分からないが、猪之吉は受けて立つことにした。

十月。太兵衛が亡くなった。

本書について

山本一力
欅しぐれ
朝日文庫 約三六五頁

目次

欅しぐれ

登場人物

猪之吉
与三郎…代貸
厳助
玄祥…浚い屋
桔梗屋太兵衛…履物問屋主
しず…内儀
誠之助…頭取番頭
雄二郎…二番番頭
正三郎…三番番頭
柳屋庄之助…鼈甲問屋
咲哉…芸者
柴山光斎…筆道稽古場主
善助…読売屋
大野白秋…絵師
岡添玄沢…医師
村越屋新兵衛…桔梗屋親戚
河野屋五右衛門…桔梗屋親戚
治作…紙屑屋
安之助…代貸格
与一郎
天龍
おひさ
芳蔵…目明し
利吉
すがめの八郎…探り屋
銑太郎
鎌倉屋鉦左衛門…油問屋
岡田屋茂座衛門
信三…乾物問屋の三男

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