山本博文の「江戸の組織人」を読んだ感想と内容

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覚書/感想/コメント

さまざまな角度から江戸時代の武士組織を見てみようという概説本。

こうした概説本は定期的に読み直すのがいいと思う。読むたびに新しい発見があるはずである。

「はじめに」でも書かれているが、江戸時代は大きく分けて武士とそれ以外の百姓・町人らの二つの身分しかなかった。

この内、武士の身分階級についていえば、上士、平士、下士の三つに分かれる。上士は家老・組頭などの家柄、平士は知行取りの武士のうち、上士を除いたもの、下士は徒士や物書などである。こうした身分の違いはさまざまな点にあらわれ、上士と平士は決して下士とは縁組することがなかった。

旗本の家格を見てみよう。

最も優遇されたのが、「両番家筋」(書院番と小姓組番)の者で、次いで「大番家筋」が優遇された。この下に、新番、小十人組などの「五番方」があり、役職につかない「小普請」がいた。まずは、この軍事組織である「番」に入ることが勤務の始まりであった。
 ↓番入り後
布衣役になることが目標となる。いわば管理職になるということである。単なる番士であれば、家格だけでなれるが、布衣役は様々な要素を見られて及第した者だけがなれた。
 ↓次は
布衣役の次には諸大夫が目標となる。遠国奉行などの役職がこれに当たる。格式でいえば一般の大名と同じになる。これには目付からの栄転が多かった。

では家格だけで出世の道が決まっていたかというとそういうわけでもなく、「御徒」などにも出世の道が開かれていた。

閑話休題。

「槍」と「鑓」は読みは同じだが、鑓が武士の使うもので、槍が足軽の使うもので、格によって表記が異なる。そして、拵えも違ったそうだ。

町奉行所についてみてみる。

江戸は最盛期は百万人を超える人口を抱えていた。半分が町人である。この治安警備に当たっていたのが南北の町奉行所である。南町奉行所は数寄屋橋門内、北町奉行所は呉服橋門内にあった。

商業に関する訴えは、呉服・木綿・薬種問屋は舘家の掛かりで南町奉行所、書物・酒・廻船・材木問屋は樽家の掛かりで北町奉行所が扱った。舘、樽は町年寄りで、他に喜多村があり、この三家が世襲で勤めた。

トップの町奉行は、現在でいえば、東京都知事・東京地方裁判所裁判長・警視総監を兼ねている。町奉行は旗本が就く役職の中で最高のものであり、評定所の審議では意見が最も尊重されたという。

この下に与力が南北にそれぞれ二十五人、同心がそれぞれ百名いた。合計して三百名に満たない人員で江戸の治安に当たっていたのである。

江戸時代の牢獄は小伝馬町にあった。牢屋敷とも呼ばれる。責任者は石出帯刀である。世襲で、名前も襲名する。なので、牢屋敷の責任者の名は変わることがない。

斬首される場所があり、そこを「土壇場」という。「土壇場で助かる」の土壇場である。

幕府の最高裁判所に相当するのが「評定所」である。寺社奉行、町奉行、勘定奉行の三奉行で構成される。

大事件の場合には、これに大目付、目付が加わって「五手掛」といわれる審議を行った。

遠国奉行には序列があった。

長崎奉行→京都町奉行・大坂町奉行→山田奉行→日光奉行→奈良奉行→駿府奉行→浦賀奉行→佐渡奉行→新潟奉行

この遠国奉行には御庭番からもなることがあった。御庭番はそうした格のある旗本なのである。

【詳細な目次】
はじめに
第一章 武士という名の組織人
 家筋の違いは身分の違い
 番における勤務の苦労
 布衣役になるために
 諸大夫役栄転のためには
 人材登用の道が開かれていた御徒
第二章 大江戸治安機関の組織人
 町奉行所の組織
 町奉行の地位の重さと多忙な業務
 町奉行見学と「七不思議」
 町奉行と与力・同心
 町奉行所与力の給料と役得
 町奉行所の慣行と利権
 目明しの弊害
 辻番は武家屋敷の警備施設
 町奉行所の裁判
 安政大地震と町奉行所
 鼠小僧次郎吉の逮捕
 小伝馬町牢屋敷の制度
 火付盗賊改
 長谷川平蔵が創設した人足寄場
第三章 財政・出先機関の組織人
 勘定所の流弊
 評定所は幕府の最高裁判所
 栄達するものが輩出した評定所留役
 遠国奉行の序列と仕事
第四章 江戸城内の組織人
 老中の経費
 陰の老中、奥右筆筆頭
 小姓の仕事と昇進
 将軍の側に使える役職
 旗本のエリート、目付の職掌
 将軍の目や耳となった御庭番
 御庭番の日常業務
 坊主衆の城内での役割
 御用頼表坊主の横暴
 江戸城台所の悪弊
 出向した大奥女中の気位の高さ
 大奥に勤める男子役人
 大奥で事件が起こった時の処理
第五章 処遇と処世の組織論
 将軍家と天皇家との縁組
 出向した旗本の処遇
 甲府勤番は不良旗本の溜まり場
 役職につかない幕臣の上納金
 勤向格別の者への手当金
 組織を守るための手段
 組織改革と慣行
 内部告発の是非
 いじめがもたらした重大事件
第六章 組織人としての田沼意次―出世と組織の関係を考える―

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本書について

江戸の組織人
山本博文
新潮文庫 約三〇〇頁
解説書

目次

第一章 武士という名の組織人
第二章 大江戸治安機関の組織人
第三章 財政・出先機関の組織人
第四章 江戸城内の組織人
第五章 処遇と処世の組織論
第六章 組織人としての田沼意次

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