宇江佐真理の「髪結い伊三次捕物余話 第2巻 紫紺のつばめ」を読んだ感想とあらすじ(面白い!)

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覚書/感想/コメント

伊三次には最初から災難続きである。

紫紺のつばめ」でお文と別れてしまい、「ひで」では幼馴染が…。「菜の花の戦ぐ岸辺」では伊三次をかばいきれなかった不破友之進に愛想を尽かす形で別れる。

だが、そうはいっても、お文への思いは変らずにも持ち続け、不破友之進に対しても憎しみの感情はなくなっている。

ただ単に、元の鞘に収まるのを自分の方からは言い出せない性質なのだ。だから、周りの人間がハラハラしながら何とかしようとしてしまうのだろう。

強情なのは、伊三次だけではない。お文も不破友之進も強情である。こうした人間たちが元の鞘に収まるには、きっかけがなければならない。

それが、「鳥瞰図」「摩利支天横丁の月」となるのだ。

上手い構成である。

捕物だけでなく、人情ものも織り交ぜているのは前作同様である。ちなみに、捕物といっても、大捕物の場面は今まで登場していない。だから、従来の捕物帖とはそういう点でも異なる。

本作における、人情ものの作品「ひで」については、文庫のためのあとがきで著者自ら題材となっている出来事を述べている。
新たな登場人物たちも加わり、ますます楽しみなシリーズである。

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内容/あらすじ/ネタバレ

紫紺のつばめ

材木組合の寄り合いの席に呼ばれた文吉ことお文。座も盛り上がり、手締めをして散会すると、伊勢屋忠兵衛が待っているという。伊勢屋忠兵衛からは囲いものにならないかとの誘いがさんざんあり、お文は会うのも嫌だったが、仕方なかった。

だが、会ってみると、伊勢屋忠兵衛は見返りなしでお文の世話をしようという。かわりに、娘の世話をしばらくしてもらいたいという。

近頃、童女のかどわかしが頻繁に発生していた。不破友之進が最も憎む犯罪である。不破は増蔵らと捜査に精を出していた。

一方、伊三次はお文が伊勢屋忠兵衛の世話になっていることを知らないでいた。

ひで

伊三次は空を見上げてため息をついた。厄介な客の仕事をしなければならないからだ。伊勢屋忠兵衛の一件以来、お文とはよりが戻っていない。それも気を重くしていた。

客は大工の棟梁、山屋丁兵衛である。伊三次の死んだ父親とも古くからの知り合いだし、丁兵衛の上の娘の婿となっている市助とは幼馴染の兄に当たる男である。断れるものなら断りたかったが、断れなかった。

その幼馴染の日出吉が山屋の仕事場にいた。日出吉は料理茶屋で板前をしているはずだった。事情を聞いてみると、丁兵衛の下の娘・おみよと所帯を持つことになったのだが、丁兵衛は大工でなければだめだといったので、板前をやめたというのだ。

一からやり直す修行のつらさを分かるだけに、伊三次は丁兵衛の仕打ちに納得がいかなかった。

その日出吉ががっくりと肩を落として歩いている姿を伊三次は見かけ、声をかけた。

この出来事の後に、日出吉が血尿を出して倒れたという。

菜の花の戦ぐ岸辺

神無月。伊三次は小間物問屋「糸惣」の隠居を久しぶりに訪ねた。以前の客である。惣兵衛は背中が丸くなり、心なしか小さくなったような気がする。だが、商売の話となると目が輝いた。根っからの商人である。

その惣兵衛が、昔話を始めた。惣兵衛は柳橋の芸者・菊弥に惚れ込んで、所帯を持とうと思った時期もあったそうだ。結局は、そうはならなかった。だが、そのことを後悔していると告白した。それが惣兵衛を見た最後だった。

惣兵衛が殺された。そしてあろう事か、疑われているのは伊三次である。不破友之進は庇い立てもしてくれない。伊三次がしょっ引かれていく。その話はすぐさまお文のところにも届いた。

鳥瞰図

不破友之進の所に通わなくなって一月が過ぎた。不破との信頼関係が崩れてしまったと思ったからだ。だが、不破に対する憎しみはとうに薄れていた。

そんなときに、不破の妻であるいなみと出会ってしまう。ばつの悪さを感じ、挨拶をして去ろうとしたら、いなみに話があると止められてしまう。話とは伊三次に髪を結ってもらうというものであった。

いなみの髪を結うと、また別の日に同じことをお願いするという。伊三次はいなみから過分の代金を頂いていた。

不破のところで使われている中間の松助が伊三次を訪ねてきた。話を聞くと、いなみの様子がおかしいという。頻繁に実弟の大沢崎十郎と会っているという。それに、いなみの実家が離散する原因となった日向伝左衛門が江戸に出てきているという。

摩利支天横丁の月

おみつがお文の家の女中を初めて四年がたつ。年が明けたので十六になった。おみつは今ではお文を実の姉のように思っている。だが、おみつも年頃となり、母からも縁談を仄めかされたり、言い寄ってくる若い男もいた。その中には「松の湯」の弥八もいる。

おみつは自分のことよりもお文と伊三次のことが心配だった。

江戸に桜の季節が巡るころ。市中の娘が失踪する事件が続いていた。武家の娘が含まれていない点を怪しみ、隠密廻りの緑川平八郎は、ある見当をつけていた。

そうした中、おみつが消えた。

本書について

宇江佐真理
紫紺のつばめ
髪結い伊三次捕物余話2
文春文庫 約二九五頁
江戸時代

目次

紫紺のつばめ
ひで
菜の花の戦ぐ岸辺
鳥瞰図
摩利支天横丁の月

登場人物

伊三次
お文(文吉)…深川芸者
おみつ…お文の女中
不破友之進…北町奉行定廻り同心
いなみ…不破の妻
増蔵…岡っ引き
正吉…下っぴき
伊勢屋忠兵衛…材木仲買商

紫紺のつばめ
 お鯉…「平清」お内儀
 増蔵…岡っ引き
 正吉…下っぴき
 竹蔵

ひで
 日出吉
 山屋丁兵衛
 おみよ
 市助

菜の花の戦ぐ岸辺
 惣兵衛
 おりき
 菊弥
 お紺
 緑川平八郎…隠密廻り同心

鳥瞰図
 いなみ
 大沢崎十郎…いなみの実弟
 日向伝左衛門

摩利支天横丁の月
 おみつ
 おとせ…おみつの母
 緑川平八郎
 喜久壽…芸者

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