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津本陽の「龍馬(二) 脱藩篇」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

津本「龍馬」は正直読みにくい。その読みにくさが現われてくるのがこの巻からである。

幕末の激動は、藩という組織単位の動きと、志士と呼ばれる個人単位の動きが複雑に入り交じっている。

個人単位の志士たちの動きは、藩という組織を逸脱し、勝手に行動するため、ただでさえ分かりづらい。

さらには、その考えというのが個人であるがゆえに変転しやすく、同じ人間とは思えない方針転換を行うことがあり、複雑にしている。

こうした個人の考えの変転が時勢に影響を与えることがあるから、さらに厄介である。まだしも組織である藩の方針のほうがつかみやすい。

だから、個人の思惑と藩としての思惑が複雑に入り乱れた幕末を描くには、時系列で捉えることが多い。でないと、読む方が混乱するからである。

しかし、本書では単純な時系列だけで描かれていない。例えば、本書の出だしは龍馬が土佐に戻った所から始まるが、すぐに過去に遡って時系列を追っていくことになる。これは作者としての工夫だろうが、有難迷惑である。

本書では、坂本龍馬が脱藩し、勝麟太郎に出会い、師事する所まで描かれている。武市半平太の土佐勤王党とは別れを告げ、一人広い天下に繰り出す姿がそこにはある。

一方、武市半平太の土佐勤王党は土佐藩の国政を牛耳ってきていた吉田東洋を暗殺して、藩をあげて時勢に乗せようと奔走するが、その先には暗雲が立ちこめ始めている。

世上では攘夷が盛んであり、京を中心にして天誅などが活発な時期である。この時期に開国を唱えていると暗殺の対象になる。龍馬が師事している勝麟太郎は、まさにその暗殺の対象であった。

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内容/あらすじ/ネタバレ

文久元年(一八六一)三月。

土佐藩では藩主山内豊信が井伊大老に咎められ、隠居謹慎を命じられていた。家督は豊範がついだ。

坂本龍馬は安政三年八月から再び江戸に出て剣術修行を行い、安政五年九月に高知に戻った。

二十七才になった龍馬は日根野道場や武市道場で師範代を務めているが、自らの道場を開かず、妻も迎えていない。

宇賀喜久馬が上士を斬った。これが城下の上士と下士との間に険悪な雰囲気をもたらした。城下で下士が一斉に暴動を起こせばことは深刻だ。龍馬は危険な状況を穏やかに収束させるため、郷士代表としてことに当たっていた。

龍馬を矢面に立たせているのは武市半平太である。半平太は翌月に江戸出府を控えている。

薩長では尊皇攘夷が急速に進んでいる。これを知った半平太は即座に出府を決意した。

土佐では吉田元吉(東洋)が藩政を望むままに動かし、上士にも下士にも評判が悪い。人材登用に依怙贔屓があるためだ。だが、元吉は海外の事情に詳しく、開港と貿易に積極的である。岩崎弥太郎らを長崎に派遣している。

安政五年。

龍馬は間もなく北辰一刀流目録皆伝を与えられる水準まで来ていた。藩主豊信が一橋派に加わったと溝淵広之丞から聞いたが関心を持たなかった。

龍馬は江戸築地屋敷で半平太と起居をともにする間に、半平太の態度を常に崩さない暮らしぶりに辟易していた。

安政の大獄がおこったのは、こうした剣術修行を終えて高知に帰郷間もない頃であった。

龍馬の旧友今井純正は安政五年の秋に脱藩した。長崎で西洋医学を学んでいる。

幕府の官僚機構は開港後の変化に対応できなくなっていた。

開国とともに物価が高騰し、下士達が脱藩して騒動を起こそうとする。西南諸藩では尊王運動が勢いを強め、武市半平太の所にも決起をうながす便りが来ていた。

また土佐藩の中には吉田元吉への不満が高まっていた。龍馬は評判の良くない吉田元吉を嫌っていない。

江戸では攘夷浪士らによる外国人に対するテロ行為が続発していた。龍馬はこうした世情を注意深く見つめていた。

武市半平太は家中上士を脅かすほどの影響力を備えるようになっていた。

田鶴は亡くなった下田屋の主・川島猪三郎の次女である。十三才であるが、龍馬と気が合う。

龍馬は高知にいならがらにして江戸の情勢を詳しく知っていた。勝麟太郎や高島秋帆の所で学んでいる饅頭屋の息子・長次郎が手紙で連絡してくれるからだ。長次郎は岩崎弥太郎の所でも学んだことがある。

この長次郎は貿易の実情も知らせてくれた。それは金銀の日本と海外では違うことなども含まれている。

文久元年(一八六一)九月。武市半平太が高知に戻った。

半平太は土佐勤王党を結成し、これに龍馬も加わった。土佐勤王党に加盟するものは増えていった。

吉田元吉はこうした動きを知りながら、無視していた。だが、薩摩の国父・久光が来春兵を連れて京へ上るという噂を耳に挟み、半平太から事情を聞くことにした。

吉田元吉には薩長とともに尊王運動をする考えはない。

龍馬はすでに脱藩して広い世間を泳ぎ回る決心をしている。剣術詮議の許しを得て、高知を出て讃岐へ向かっていた。

龍馬は讃岐に剣術詮議に出向くとき、半平太に長州の久坂義助(玄瑞)に会うようすすめられた。

龍馬には尊王攘夷の直接行動を取るつもりはない。事前に河田小龍や今井純正とはかり、諸国の形勢を見るつもりである。

期限延期を許された龍馬は長州萩城下へ向かった。久坂義助はおらず、その間に上方の形勢を見ることにした。

文久二年(一八六二)二月。龍馬は旅行を終え高知に戻った。

正月には久坂義助と会うことができた。義助は弁舌に長じ、この数年の間に起きた事柄の背景を龍馬が理解できるように説明した。

これに対して、龍馬は長州が攘夷を称えるのは国政の中枢に乗り出すための口実なのではないかと疑問を呈した。これに対して、義助は今の現状を切り開くには激烈な方策を用いねばならぬと言う。

この長州でも尊王攘夷を実行するには脱藩するほかに道がなかった。土佐も長州も同じような形勢である。

こうした情勢の中、島津久光が京へ上った。

土佐勤王党の動向は切迫している。武市半平太は吉田元吉の暗殺をためらいつつも、藩論の転換のためには強硬手段をとらなければならない。

この半平太の動きに対し、河田小龍と今井純正は危ういと感じている。龍馬には半平太と別れて、脱藩しろとすすめた。

脱藩前夜、龍馬は沢村惣之丞と会った。

文久二年六月。岩崎弥太郎は藩主豊範の江戸出府に従って出立した。

龍馬が脱藩して三月。吉田元吉が暗殺され、吉田派が総退陣している。そして佐幕路線へとなる。

京では情勢がめまぐるしく変転し、四月には島津久光が兵を率いて近衛忠房に面会している。久光は有力諸侯とともに京都中心の国政を牛耳ろうとしている。朝廷の命によって幕府の政治改革を行わせるつもりである。

いまは討幕によって朝廷の政権を回復し、挙国一致で西欧に抗しなければならない状況になっている。

その京で、寺田屋騒動が起きた。この事件の後、薩長両藩が対立するようになる。

参勤交代の下士の中に岩崎弥太郎がいることを武市半平太らは警戒した。岩崎弥太郎は吉田元吉と関係が深い。だが、弥太郎は政治に興味がない。その弥太郎に帰国が命じられた。

文政二年八月の江戸築地軍艦操練所近く。

饅頭屋の息子・長次郎は勝麟太郎門下として航海術をおさめ、土佐藩陸士格となり、近藤昶次郎と名乗るようになっていた。

龍馬は江戸について五日目で、京橋桶町の千葉定吉道場に寄宿している。龍馬は昶次郎に頼み、勝麟太郎に会うことになった。

勝麟太郎は開国論者だが、日本に海軍をおこすべきだという持論がある。麟太郎は開国派として名を知られるにつれ、攘夷浪士に命を狙われるようになっている。

龍馬は勝麟太郎に師事するようになって、目から鱗が落ちるような毎日である。

六月上旬。薩摩藩が生麦事件を起こした。これは島津久光の意図とは異なり、攘夷派の勢いを高騰させることになる。

京では薩長両藩が主導権争いをしている。島津久光の公武合体方針と、毛利慶親の攘夷方針との衝突である。

この頃、武市半平太は岡田以蔵らを使って、京でしばしば天誅を行い、尊王攘夷派の主導権を握ろうと考えていた。

京にいる半平太の威勢は江戸まで及び、龍馬が築地藩邸に出向いて間崎哲馬と会っても咎められることはない。

幕府は参勤交代をゆるめることにした。

龍馬は勝麟太郎の身辺に従っていた。

将軍家茂は間もなく上洛することになる。公武一致の姿勢を明らかにする必要がある。

今、幕府が政権を放棄すれば、国政はたちまち停頓する。幕府は勅許を謝絶し、その上で幕政改革をすればいい。だが、幕府閣老達は汲々としているばかりである。そして幕府の方針は定まることはなかった。

勝麟太郎はこうした状況に溜め息をつく。

今、人物といえるのは大久保越中守(一翁)、松平春嶽、春嶽の参謀・横井小楠だろう。

土佐勤王党にも暗雲が広がりつつある。

龍馬は間崎哲馬、近藤昶治郎とともに松平春嶽を訪ねた。

本書について

津本陽
龍馬(二) 脱藩篇
角川文庫 約三九〇頁

目次

上げ潮
飛騰
陽は蒼く
渦中
追風
変転

登場人物

坂本龍馬
坂本権平…龍馬の兄
坂本春猪…龍馬の姪
坂本伊与…龍馬の義母
田鶴…川島猪三郎の次女
坂本乙女…龍馬の姉
岡上新甫…乙女の夫
赦太郎…乙女の息子
宇賀喜久馬
山田広衛
平井収二郎
平井加尾
武市半平太
岡田以蔵
望月清平
吉村虎太郎
溝淵広之丞
河田小龍
今井純正(長岡謙吉)
長次郎(近藤昶次郎)
間崎哲馬
沢村惣之丞
高松太郎
新宮馬之助
山内容堂(豊信)…前土佐藩主
吉田元吉(東洋)
乾退助
後藤象二郎
岩崎弥太郎
久坂義助(玄瑞)…長州藩士
桂小五郎…長州藩士
島津久光
田中新兵衛…薩摩藩士
千葉定吉…千葉周作の弟
重太郎…定吉の息子
佐那…定吉の娘
勝麟太郎
大久保越中守(一翁)
松平春嶽
中根雪江…春嶽の近臣
横井小楠…春嶽の参謀