司馬遼太郎の「街道をゆく 羽州街道、佐渡のみち」第10巻を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

上杉家。上杉謙信ではなく、上杉景勝と直江兼続の代になってからの話題が多く、上杉家が好きな人には興味のそそられる内容となっている。

佐渡のみちでは「鼠草紙」という奇書、そしてそこに書かれている小比叡騒動のこととそれに関わる辻藤左衛門という廉直な役人が、その廉直さゆえに公儀の謀反人となったいきさつを細かく記している。

大久保長安に関する記述も面白い。

羽州街道

奥羽の地に正規の仏教が伝わるのは、元禄時代という極端な説があるほど遅かったらしい。正規の仏教とは具体的には官寺官僧を指す。

万葉集の頃、べにといわず、くれなゐと呼んでいた。呉の国から来たあゐ(藍)ということで、植物とその色を指すそうだ。末摘花とも呼ばれていた。

紅花は花摘みから始まり、花振り、花寝せ、花かえしと行程を経て干花が出来る。干紅ともいい、よく知られるのは花餅という呼び名かもしれない。江戸時代、純金に等しい価値があったそうだ。

直江山城守兼続。幼名を与六といい、上杉謙信に抜擢されて、養子の景勝の近習となる。資質はたまたま謙信に似ている。学問好きで、武事を宗教のように高次元に置き、観念主義者でなく農本主義の政治家として現実感に富んでいた。また商品経済を軽侮した。

謙信が亡くなった後、お家騒動を景勝が制したが、これを補佐したのはわずか十九才の直江兼続だった。

その後、秀吉が天下を取ると、石田三成と懇意になる。二人は似たところがあり、忽ちに親しくなった。上杉の南奥羽への天封は秀吉の死後家康が立上がることを予想しての防御策の一つであったにちがいなく、三成と兼続のあいだに当然密約があったはずだと司馬遼太郎氏は述べている。

関ヶ原で西軍が敗れ、上杉は直江兼続の所領だった米沢に押し込められることになる。同じ憂き目にあった大名として毛利家があるが、その後の二つの大名の推移は大きく異なる。

毛利は必死に干拓事業を瀬戸内海に向かって伸ばし、産業を興し、幕末においては米作だけで百万石あったといわれるほどに裕福になった。逆に上杉は江戸期を通じて常に破産寸前の状態だった。

直江兼続は兜の前立に「愛」を使っていた。愛は在来の東洋思想では使用頻度が極めて少ない。明治後キリスト教が入ってきてからの訳語としての熟語で盛んに作られ、徳目として重要な位置を占めるようになった。

それまでは仏教思想として慈悲が正面に出て、愛はあまり言われなかった。むしろ、愛欲、愛着、愛執といった悪い言葉として使用された例が圧倒的に多い。かわりに「仁」が愛の内容を代表していた。

伝承としては「愛民」の意味を込めた「愛」だったそうだ。現在のような家族や個人に捧げる愛情としての「愛」ではなかったのは、やはり政治家らしい直江兼続の側面をうかがい知ることが出来る。

ちなみに、直江の家は兼続の代で絶える。

司馬氏は謙信の後を継いだ上杉景勝を謙信や直江兼続の華やかさよりも好きであるかもしれないと言っている。

切れ者とは言い難いが、精神はいさぎよかった。面白みもないが、精神の高貴さのようなものに惹かれているようだ。

佐渡のみち

日本書紀の欽明五年(五四四)の下りに佐渡が登場する。この当時、大和政権の版図は新潟県までおよんでいない。だが、佐渡は版図に入っていたようだ。

このあと「今昔物語」「宇治拾遺物語」には黄金の出る島として登場する。それ以前、佐渡に金がでるという重要なことを中央政権が気づいている様子がないという。織豊政権以前の日本の政権は、金銀への貪欲さが不足していたのかもしれないと述べている。

佐渡の砂金に人が目をつけたのは、室町末期からであり、具体的には上杉景勝が金銀を目当てに佐渡を侵攻してからだという。

だが、豊臣政権になってから、金の採掘権を秀吉に奪われる。豊臣政権は一種の貿易政権ともいえるので、海外貿易を行うのに金銀が必要だったのだ。

この佐渡は江戸期には十三万石の草高があったが、天領だった。

江戸時代に佐渡奉行となった人物に幕末の名吏・川路聖謨がいる。司馬氏は川路を高く評価している。

一里は三十六町。だが、これも地方によって異なっていたようだ。これを統一したのが豊臣秀吉だった。だが、公式には一里三十六町となったが、日常では従来のままでつかわれていたらしい。全国的な常識となるのは明治維新になってからというのが定説だそうだ。

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本書について

司馬遼太郎
街道をゆく10
羽州街道、佐渡のみち
朝日文庫
約二二五頁

目次

羽州街道
 山寺
 紅花
 芋煮汁
 うこぎ垣
 景勝のことなど
 米沢のお手柄
 最上川
 狐越から上ノ山へ
 山形の街路
 花の変化

佐渡のみち
 王朝人と佐渡
 大佐渡・小佐渡
 あつくしの神
 真野の海へ
 倉谷の大わらじ
 小木の海
 鼠浄土
 辻藤左衛門の話
 孫悟空と佐渡
 室町の夢
 黄金の歴史
 藤十郎の運命
 二人の佐渡奉行
 無宿人の道

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