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佐藤賢一の「王妃の離婚」を読んだ感想とあらすじ(面白い!)

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覚書/感想/コメント

第121回直木三十五賞受賞作品。

この作品が出るまで佐藤賢一が発表してきた作品の多くとはレベルが一つも二つも上の作品。本書で一気に殻を突き破った感のある出色の作品。エンターテインメント性に優れかつ文学的な香りもする作品である。

本書は中世フランスの裁判を扱った作品。教会が行う裁判であるため、宗教裁判といってもよいのだが、その実は離婚裁判である。

だが、カトリックの信教では離婚は認められていないので、離婚する場合にはとってつけたような論理が様々と生まれることになる。キリスト教の教理的な部分にも触れながら物語は進んでいくのだが、本書はそのあたりの馴染みのないキリスト教独特の論理をかみ砕いて書かれているので、難しいことはない。

馴染みがないにもかかわらず、その論理の展開のダイナミックさが見事に描かれており、そのダイナミックさが本書の魅力の一つとなっている。

本来は下世話でどろどろした離婚裁判であるため、陰鬱な内容の話になるのだろうが、それを知性の戦いに仕立て上げ、さらには政治的な要素を取り入れることで、物語全体に幅を広げているのは見事である。

是非読みたい一冊である。

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内容/あらすじ/ネタバレ

フランソワ・ベトゥーラスはパリ大学の学生だった。パリ大学の学生といえば聖職者と相場が決まっていた。

だから、フランソワもコロナと呼ばれた剃髪頭だった。フランソワは将来有望な学生だった。十四才から始めて教養部をわずか三年で終了し、十八才の若さでマギステルになったほどの逸材だった。

フランソワには同棲している恋人がいる。ベリンダ・カニンガムというその女性は家庭教師をした生徒である。聖職者である身分でフランソワはベリンダと結婚は出来ない。だが、フランソワはベリンダと結婚したいと考えていた。フランソワ二十七才のことである。

……注目の裁判が始まろうとしていた。被告はジャンヌ・ドゥ・フランス、王妃である。その王妃が姿を現わすのだ。裁判は国王夫妻の離婚裁判だった。

フランソワはこの裁判を傍聴をしにやってきていた。フランソワは四十七才になり、今はナントで弁護士をやっている。フランソワはパリ大学を中途退学で終わっていた。

ジャンヌ・ドゥ・フランスは醜女と呼ばれた女だった。また、体裁の悪い歩き方をする。別に足萎えのジャンヌとも呼ばれている。そのジャンヌが法廷に現れた。

フランソワはちらりと見た顔は、ジャンヌの父・ルイ十一世に似ていると思った。ルイ十一世は暴君と呼ばれ、恐れられた君主だった。

この裁判の下馬評は、事実上の手続だけで終わるだろうというものだった。それをわざわざフランソワが傍聴しに来たのは、暴君の娘が苦しむ姿を見たいからだった。

フランソワはルイ十一世にパリを追われたのだった。嘱望されたフランソワの境遇を一変に地獄へと落としたのがルイ十一世だった。だから、この裁判の傍聴はフランソワにとって復讐の意味合いもあった。

フランソワはジャンヌが全てを認めて降伏する姿を欲していた。認めろ、全てを認めて降伏しろ。だが、ジャンヌは否定をした。抗戦の構えを示したのだった。

……フランソワが傍聴した裁判が終わり、外で意外な人物に出会った。かつての後輩・ジョルジュ・メスキである。現在はソルボンヌの副学監になっている。ジョルジュ・メスキは三人の学生を連れていた。ミシェル、ロベール、フランソワである。

旧交を暖める意味でフランソワはジョルジュ・メスキ達と今度の裁判について話をした。学生達はフランソワに会えて興奮していた。というのも、フランソワは半分伝説になっていたからである。

彼らは裁判について様々な考えを述べた。だが、フランソワには彼らの話が遠くの事柄のように聞こえる。所詮は絵空事だ。裁判の結末は見えている。そうフランソワは思っていた。

先の見えた裁判に見切りをつけようとフランソワは考えていた。その矢先に仇敵に出会う。オーエン・オブ・カニンガム、近衛隊長である。

オーエンはフランソワのかつての恋人ベリンダの実弟であるが、フランソワに暴力を使い、パリから追い出した張本人でもある。このオーエンは再びフランソワに暴力をふるった。フランソワが気絶する直前にオーエンの口から衝撃の事実を知ることになる。

気が付いたフランソワが運び込まれていたのは、あろうことか王妃・ジャンヌが宿泊している司祭館だった。フランソワは怒りに駆られながら館を出ようとした。そこを引き留めたのが王妃本人であった。

そして、王妃がフランソワに弁護を引き受けてくれないかと頼んできた。冗談じゃない。フランソワは自分を地獄に落とした娘の弁護なんぞ金輪際引き受けるつもりはなかった。

だが、王妃も負けてはいなかった。再びの喚問の時に新任弁護士を立てることを宣言したのだった。それは俺のことなのか。フランソワは思った。フランソワの気持ちの中には変化が見えていた。そうだ、今こそいうのだ、俺が新しい弁護士であることを。

今、伝説の男が立ち上がった。

本書について

佐藤賢一
王妃の離婚
集英社文庫 約420頁
長編
フランス15世紀末

目次

プロローグ
第一章 フランソワは離婚裁判を傍聴する
 田舎弁護士
 被告
 旧友
 クエスチオ
 証人喚問
 仇敵
 求め
 新任弁護士
第二章 フランソワは離婚裁判を戦う
 宣戦布告
 作戦会議
 再喚問
 冒険
 旅路
 パリ
 界隈
 賭け
 朝の光
 決定打
第三章 フランソワは離婚裁判を終わらせる
 展開
 優男
 引き抜き
 大雨
 狼狽
 再生
エピローグ

登場人物

フランソワ・ベトゥーラス…弁護士
ジャンヌ・ドゥ・フランス…王妃
シャルル・ドゥ・プルウ…王女の侍従
ルイ十二世…王
リュクサンブール…判事
ルイ・ダンボワーズ…次席判事
フランシスコ・デ・アルメイダ…次席判事
アントワーヌ・レスタン…検事
ジェラール・コシェ…医者
ジョルジュ・メスキ…ソルボンヌの副学監
ミシェル…学生
ロベール…学生
フランソワ・オブ・カニンガム…学生
オーエン・オブ・カニンガム…近衛隊長
ベリンダ・カニンガム