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佐伯泰英の「酔いどれ小籐次留書 第3巻 寄残花恋」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第三弾。題名の「寄残花恋」は「のこりはなよするこい」と読む。

「寄残花恋」は「葉隠れに散りとどまれる花のみぞ忍びし人に逢ふ心地する」という西行法師の「山家集」の恋の歌をさらに凝縮した言葉。
この葉隠れの歌から「葉隠聞書」が名づけられたという。

本書で、小城藩家臣・伊丹唐之丞は、赤目小籐次こそ真に葉隠の武士ではないかという感想を持っている。逆に、葉隠を標榜しながら小籐次を狙う刺客は偽物ということになるのだろう。

この葉隠を生んだ肥前佐賀藩だが、佐賀本藩鍋島家は「三家格式」という独特の武家諸法度により、小城鍋島家、蓮池鍋島家、鹿島鍋島家と繋がりを持っている。

「三家格式」は二代藩主鍋島光茂が天和三年(一六八三)に制定したもので、文治主義政策の基本となるものである。この政策は三代綱茂によりさらに強固なものとなった。

これと対比するのが、光茂に仕えた山本常朝の武士道を賛美確立する「葉隠聞書」である。

相反する考えが、藩が始まったばかりの頃からあるのだから、大変といえば大変である。

さて、本作は前作のおよそ十日後くらいから始まっている。一巻目から数えても、半年と経っていない。

小籐次は能見一族十三人との死闘を終えた後、一旦は現場を去るものの、再びの場に戻る。商売道具の砥石などを取りに行くためだ。そして、この場で刺客に狙われ、その刺客が持っていた脇差を手に入れる。脇差しは長曾根虎徹入道興里の手による物である。

最後に。御鑓拝借騒動に続いて、能見一族との対決を終えた小籐次のことは、江戸中に知れ渡ってしまう。読売屋が「酔いどれ小籐次」と勝手に名づけてしまい、以後酔いどれ小籐次の名は江戸中で有名となる。

これで、副題との整合性がとれた…ということになるのだろう。ま、ここあたりは愛嬌だ。

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内容/あらすじ/ネタバレ

文化十四年(一八一七)晩秋。傷だらけの赤目小籐次は甲斐へ向かっていた。能見一族十三人との死闘が終わってからおよそ十日が過ぎていた。

峠越えを試みている時、小籐次の後ろから黒帯を前結びにした女がやって来た。女はおしんといい、小籐次はおしんと同行することになった。

湯治で傷を癒した小籐次の五体は能見一族との戦い以前に復した。その小籐次の前に甲府勤番支配下街道騎馬組があらわれ、密偵の女が通らなかったかと聞く。おしんを探していたようだ。

甲府は幕府の直轄領、そこに密偵が潜入するとは一体どういう事か?その訳をおしんに聞くと、新たに甲府勤番支配になった長倉若狭守実高がどうも影で悪さをしているようで、調査に潜入した別の密偵が帰らないので、おしんが派遣されたのだという。

行きがかりで、おしんの手伝いをする羽目になった小籐次は、おしんと供に甲府へ入り込んだ。そこで仕入れた情報は、女衒が頻繁に行き来しているという話だった。どうやら甲府領内に働く場所があるようだ。どうやら、これがこの度の事件に関係しているようである。

千ヶ淵の騒動を後にした小籐次は、一旦は信濃へ向かおうとしたが、江戸に戻ることに決めた。

江戸に戻った小籐次は久慈屋の好意で再び元の長屋で過ごせることになった。そして御鑓拝借に続く能見一族との対決は、読売などですでに江戸中に知れ渡っていた。

だが、能見一族との対決が終わったにもかかわらず、新たな刺客が小籐次に襲いかかっていた。それはこの一連の騒ぎを収めようとした佐賀藩の重臣・姉川右門の努力を無にするものであり、鍋島四藩の藩主たちの意向と異なるものでもあった。

そうした新たな刺客との対決の日々が始まった小籐次は、再び研ぎ仕事を始め、甲斐へ行ったため無沙汰となった馴染みを挨拶がてら回った。

その馴染みの一つ、歌仙楼の女将おさきの元気がない。聞くと、店が人の手に渡りそうなのだという。主が騙されてしまったようなのだ。

小籐次は肥前佐賀藩鍋島家江戸屋敷の御頭人の姉川右門と会った。そして、姉川は家中に追腹組と称する小籐次を狙う暗殺団が極秘裏に組織されたようだという。だが、その全容が全くつかめていないのだという。

後日、小城藩家臣の伊丹唐之丞が小籐次の前に現われ、追腹組は藩を超え、鍋島四藩に広く回状が回されて資金を集めているということを知らせてきた。

水野家のおりょうが小籐次に助けを求めてきた。主の水野監物の様子が最近おかしく、聞いてみると、役目の大番頭に関してなにやら御城であったようなのである。

本書について

佐伯泰英
寄残花恋 酔いどれ小籐次留書3
幻冬舎文庫 約三一五頁
江戸時代

目次

第一章 柳沢峠越え
第二章 千ヶ淵花舞台
第三章 夕間暮れ芝口町
第四章 追腹暗殺組
第五章 雪降り蛤町

登場人物

おしん…密偵
中田新八…密偵
青山下野守忠裕…老中
おすみ
おはな
長倉若狭守実高…甲府勤番支配
奥野武太夫…支配組頭
芦安の大造
進藤丑右衛門辰惟
高遠屋新右衛門
おさき…歌仙楼女将
五郎八…歌仙楼主
お万…五郎八の妾
一得屋伍兵衛…鉄火質
殿ヶ谷素伝
曲物師の万作
水野監物
登季…水野監物の奥方
岡部長貴
馬渕権平邦緒