佐伯泰英の「交代寄合伊那衆異聞 第2巻 雷鳴」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第二弾。前作でやむなく主を殺し、座光寺左京為清になりかわった本宮藤之助。

このシリーズのように大身の旗本や大名家で、主筋と全く血縁関係の無い家臣が替え玉になるというのはほとんど無いことだっただろう。だが、このシリーズに近い時期の南部盛岡藩では替え玉が藩主となっていた。

南部家では若い藩主が突然死んでしまった。将軍に初謁見しておらず、家督相続、本領安堵を許されていない。領地没収、家中離散を覚悟しなければならず、重臣たちは狼狽しながらも、藩主の死を秘匿し、国許から一族の者を送らせ、藩主になりすまさせた。

これは幕府が滅びるまでばれなかったそうだ。だから、このシリーズの設定もまんざらあり得ない話ではない。同じようなことは他でもあっただろう。

替え玉ではないが、似たようなもので、旗本御家人では入り子と呼ばれる方法があった。将軍家も知っていたことで黙認していたようだ。

相続権のある子供が死んだ。それを、死亡届を出さずに生きたままにしておく。子供を武家にしたいと思っている裕福な町人から金を受け取り、子供を受け入れる。受け入れる子供は町人である必要はない。冷飯食いの旗本御家人の二男三男などでもよかった。

ちなみに、本宮藤之助は主筋と全く血縁関係がないと上記で書いたが、現時点でのことであり、もしかしたらシリーズが進むにつれ血縁が語られるかも知れない。

むしろ、主筋の傍流なのではないかとすら思える。というのは、将軍家の介錯用の刀・藤源次助真が本宮家に伝わっていること自体が不自然だからである。まぁ、おいおい語られるだろう。

この藤源次助真に、包丁正宗、そして座光寺家に伝わる「首斬安堵」の異名を取る御朱印状。座光寺家の最大の秘密事項の三点セットだが、今ひとつ口伝がある。

密命の使いがあるというのだ。包丁正宗は双子刀で、もう一振り同様の短刀があるという。それは密使が持っている。だが、今まで座光寺家に密命がもたらされたことはない。

この設定、佐伯泰英氏の「古着屋総兵衛影始末」シリーズを彷彿とさせる。

さて、座光寺左京為清と名を変えた本宮藤之助は信濃一傳流の奥傳「正舞四手従踊八手」を伝授される。自らが工夫した「天竜暴れ水」とは真逆の奥傳で、まるで能を舞っているかのように緩やかな動きをする。

新たな剣技を身につけた左京は、最後に名を再び変える。座光寺藤之助為清となるのだ。

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内容/あらすじ/ネタバレ

安政二年(一八五五)霜月。座光寺左京為清は伊那谷に帰る片桐朝和神無斎から信濃一傳流の奥傳を伝授された。それは「正舞四手従踊八手」と呼ばれる。

この左京は何者かに狙われた。恐らくは品川式部大夫が雇った者達だろう。品川式部大夫は殺された自分の息子、つまり先代の座光寺左京為清を殺した現在の座光寺左京為清に怨みを持っていておかしくないのだ。

左京は北辰一刀流の千葉周作道場に入門した。先だって、千葉道場で師範の村木埜一と対戦したばかりであり、その折には本宮藤之助を名乗っていた。武具商甲斐屋佑八の番頭・篤蔵のはからいにより、千葉周作は事情を推し量って入門を許してくれた。

門人たちも事情を飲み込み左京に接してくれる。師範の村木や若い酒井栄五郎らは左京を歓迎してくれた。この交わりは、玄武館名物の待ったなし山試合を経て一層深くなった。

左京は巽屋左右次を訊ねた。ここでも左京の変転に戸惑っていたが、事情を話すと納得してくれた。

左右次に品川家が差し向けた刺客に襲われた話をし、それを聞いた左右次は瀬紫を取り逃がしたのが響いていると悔しがった。瀬紫を押さえていれば、品川家から座光寺家に養子で来た先代の座光寺左京為清がなした悪行を押さえ込むことになり、品川家への牽制となる。

左右次は瀬紫の探索を当たることにしたが、かわりにといってはなんだが、左京に頼み事をした。近頃厄介な事件を抱え込んでいた。勤番風の侍が吉原の仮宅に三人か四人で上がり、夜半にだんびらを抜いて帳場を襲って逃げるという事件が立て続けに起きている。

千葉道場に周作の次男で天才と呼ばれる栄次郎成之が戻ってきていた。栄次郎は水戸家の剣術指南をしている。早速栄次郎は左京に手合わせを願った。この二人の対戦は後々に伝説として語り継がれるほど激しいものとなった。

巽屋左右次からの使いで兎之吉が来た。瀬紫の行方が知れたという。神奈川宿にいるようだ。神奈川宿の新開地、横浜が開けるというので、そこに出かけた瀬紫の馴染みが見かけたのだ。

左京は兎之吉と一緒に神奈川宿へ向かった。土地の浦島の伝蔵親分の助けを借り、横浜村の新開地に足を踏み入れた。今や新開地は無頼の徒が跋扈している。その闇が深すぎて、瀬紫になかなかたどり着けない。

薪炭屋三代目のおあきが瀬紫の行方を教えてくれた。女は瀬紫の名を捨て、元のおらんで生きているようだ。唐人の一味で極悪な黒蛇頭と組んでいるようだ。場所は豆州戸田村だ。

左京と兎之吉は豆州戸田村に着いた。そこには唐人船がいた。中では博打などの遊興が行われているらしい。何とかしてそこに潜り込みたい。そこで博打が好きな庄屋の嘉右衛門に同行して入り込むことにした。ついに、瀬紫ことおらんを追いつめた…。

本書について

佐伯泰英
雷鳴 交代寄合伊那衆異聞2
講談社文庫 約三三五頁
江戸時代

目次

第一章 奥傳伝授
第二章 軽業栄次郎
第三章 洲干島の唐人
第四章 陽炎の女
第五章 北辰落つ

登場人物

座光寺左京為清(=本宮藤之助)
お列…義母
文乃…奥女中
谷口平助…若侍
池田公武
千葉周作
せつ…内儀
千葉道三郎光胤…後継者、三男
千葉栄次郎成之…次男
村木埜一兼連…師範
酒井栄五郎…御側衆酒井上総守義宗の倅
高橋歳三
巽屋左右次…岡っ引き
お蔦…おかみ
兎之吉…手下
甲右衛門…稲木楼主
おたね…内儀
一初…抱え女郎
お豆
浦島の伝蔵…岡っ引き
十之助…手先
お蝶
おあき…薪炭屋三代目
瀬紫(おらん)…元遊女
廷一渕…黒蛇頭副頭目
老陳…黒蛇頭頭目
張史権
土橋のお馬
江川太郎左衛門英敏…韮山代官
嘉右衛門(陣内嘉右衛門達忠)…庄屋、老中首座堀田正睦の重臣
品川式部大夫
辻蔵次…無外流
岩城参五郎秀康…刺客、タイ捨流

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