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風野真知雄の「大江戸定年組 第1巻 初秋の剣」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

家督を譲った三人の隠居。藤村慎三郎と夏木権之助、七福仁左衛門。

藤村慎三郎は元北町奉行所の定回り同心。神陰流を学び、三羽烏の一人といわれたこともある。夏木権之助は三千五百石の旗本。男っぷりもよく、上背もある。だが、気が弱い。弓の達人。七福仁左衛門は商人の隠居。

三人は水練の仲間である。十年ほど前に、仲間の一人を亡くして、付き合いが復活した。その亡くなった仲間は浜田三次郎。昔の友人たちに金を無心して回り、その挙句に切腹した。信心がからんだりした謎の多い事件で、真相は藪の中である。

三人は永代橋からもそう遠くはない深川熊井町に仕舞屋を借りて隠れ家とする。大川の河口が見え、向こう岸には霊岸島の越前福井藩松平家の屋敷、本願寺の大伽藍がみえる。右には石川島、富士山も見える。「初秋亭」と名づけられる。

これからどのような隠居生活を送るのか。それは三人の中に「これ」といったものはなかった。とりあえず、俳諧を始めることにした。

だが、厄介な頼まれ事をされたり、隣に番所が出来たりしている内に、次第に隠居しても何をすべきかを見いだしていくことになる。

三人の隠居の周囲の登場人物も色とりどりだ。

七福仁左衛門は若い女房・おさとをもらっている。それが意外に焼き餅焼きである。

藤村慎三郎の女房加代は倅の康四郎が上手く仕事をこなせるのかが心配でたまらない。

夏木権之助は、深川芸者の小助を囲っているが、小助の機嫌の良し悪しに翻弄されている。小助を囲っているが、夏木権之助は妻の志乃とは相思相愛で夫婦となっている。

その志乃について、こう言っている。

『志乃は変わった。
若いときは美しかった。いまは、一言で言って怖い。
いちばんの変貌は、口の両脇にできた皺だろう。唇の端に、深い縦皺ができるのだ。若いときは、あんなものはなかった。それがある日、突然、現われた。』

『いまは、一言で言って怖い。』の箇所で笑ってしまった。

笑うというと、他にもそういう箇所がある。

霊岸島の油問屋布袋屋から持ち込まれた事件。女房のちょうが連れ去られた事件だが、「ちょう」は仮名で「てふ」と書く。主の幸蔵はこういうのだ。てふとはいっても、てふに点がいっぱいつく。「でぶ」である。実際そうなのだが、事態が事態だけに笑えない。

最も面白かったのは、俳諧を始めた三人が、句をひねる場面。

橋を渡る間に五十句も作る仁左衛門が編み出した句が笑える。その一例。

『大川や昔おぼれて死にはぐる
大川にふんどし流す馬鹿なわし
白魚は三杯酢より卵とじ』

三人の家族以外にも、重要な人物がいる。深川佐賀町の岡っ引き鮫蔵だ。

鮫蔵は蛇蝎のごとく嫌われている岡っ引きである。だが、藤村はある一件で、鮫蔵のある一面を見て、見直す。これ以後、鮫蔵は藤村のよき協力者となっていく。

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内容/あらすじ/ネタバレ

藤村慎三郎は五十五歳。北町奉行所の定町回り同心だった。まだやれただろう。だが第二の人生を作るために今日引退した。その別れの会が「うなじ」という料亭で行われた。

それが終わり、藤村は飲み屋の「海の牙」を目指した。そこにはすでに夏木権之助と七福仁左衛門がまっていた。

この席で、藤村は三人で景色のいいところに隠居家を借りないかと提案した。二人とも即座にいいなぁという。さっそく家探しが始まったがいい物件はなかなか見つからない。

そうした中、藤村は霊岸島の油問屋布袋屋からとんでもない話が舞い込む。あるじ幸蔵の女房・ちょうがいなくなり、女房はあずかったという投げ文があったという。このちょうを三人で探し始めた。

三人は布袋屋から深川熊井町に隠れ家を借りた。隠れ家は「初秋亭」と名づけられた。この初秋亭から見える土手に一本の柳が生えている。

三人は俳諧を習うことにした。人について習った方がいいだろうということで、女の俳諧の師匠・入江かな女にお願いすることにした。たいそうな美人である。仁左衛門の貸家の店子だったのだとか。

隠居生活をいろいろ彩るための準備をしている中、土手にあった柳の木が切り倒された。誰が一体何のために?

町回り同心の菅田万之助が初秋亭近くに現われた。藤村の倅・康四郎も一緒だ。どうしたのかと思って聞くと、隣に番所が出来るのだという。

深川佐賀町の岡っ引き鮫蔵は蛇蝎のごとく嫌われている。その鮫蔵と藤村はばったりと出会った。

鮫蔵は深川中の飲み屋に貼られている弁天さまの千社札をみて不愉快そうだ。げむげむ坊主というのが貼り歩いているらしい。鮫蔵はそのげむげむ坊主が引っかかって気に入らないのだ。鮫蔵は蛇蝎のごとく嫌われているが、腕は確かな岡っ引きである。

句会でもげむげむ坊主の話題となり、仁左衛門は弁天の千社札を見て思い出したことがある。あれは、彫り物の絵だった。すると、お札と同じ弁天の彫り物をした女が死んで見つかった。

だが、この彫り物は他にもあった。その彫り物には隠し文字のように数字が入っている。一体なんだ?

仁左衛門は憂鬱だった。倅と言い合いをしたからだ。その仁左衛門の目の前で、紫の傘を差した武士が向き合った町人を斬った。仁左衛門は何が起きたのか分からなかった。

その後、同じような殺しが起きた。やはり紫の傘を持っていたという。藤村の倅・康四郎が江戸紫の傘を持って、色を確かめたが、仁左衛門は違うという。

その色がやがて分かった。そして、それに関わっているのが十返舎一九だった。夏木権之助が海の牙で一人で飲んでいる時に、知り合った重田与七というのがまさに本人だった。今度は十返舎一九が危ない…。

少女が殺される事件が起きた。その少女が殺されたと思われる場所では、白い着物を着た男と、黒い着物を着た男が目撃されていた。
句会にでた三人。句会では浮世絵師の歌川重春のことが話題になっていた。

本書について

風野真知雄
大江戸定年組1 初秋の剣
二見文庫 約三〇五頁
江戸時代

目次

第一話 隠れ家の女
第二話 獄門島
第三話 げむげむ坊主
第四話 雨の花
第五話 昔の絵

登場人物

藤村慎三郎…元北町奉行所定町回り同心
夏木権之助…旗本の隠居
七福仁左衛門…町人の隠居
加代…藤村慎三郎の女房
藤村康四郎…倅
おさと…仁左衛門の若い女房
鯉右衛門…仁左衛門の倅
志乃…夏木権之助の女房
小助…夏木権之助の妾、深川芸者
安治…「海の牙」の主
柴田半左衛門…藤村慎三郎の同僚
幸蔵…油問屋布袋屋の主
ちょう…幸蔵の女房
忠…うどん屋
入江かな女…俳諧の師匠
菅田万之助…町回り同心
秋二…人形師
八重
鮫蔵…深川佐賀町の岡っ引き
重田与七(十返舎一九)
喜助…料理屋川長の隠居
山県精一郎…旗本
歌川重春…浮世絵師