風野真知雄「耳袋秘帖 第3巻 浅草妖刀殺人事件」の感想とあらすじは?

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へぇ、といった感じの話。

貧乏神は七福神の姉という話もあるそうです。姉は黒闇天女といって、この神に守られると、ほかのことはともかく、お金の方はさっぱりだとか。まさか、貧乏神が女性だったとは…。

このネタ、そのまま時代小説に生かせるような気がします。

六十二歳で南町奉行に就任して、足かけ十八年も奉行の地位にあった根岸肥前守鎮衛江戸時代といえども、長寿の人はそれなりに多かったです。

根岸の健康法だが、佐渡奉行をしている時に知った「宗右衛門の井戸」という名水をよく飲むことです。

「宗右衛門の井戸」の水は一日一升を飲めば万病を寄せ付けないと言われています。それを根岸は一升五合ほど飲みます。約2.7リットルです。…飲めないよ、そんなに。私には無理むり。

坂巻弥三郎と栗田次郎左衛門。対照的な二人です。優男風の坂巻に対して、強面の栗田。性格はだいぶ異なり、いまだに互いにしっくりと来ないところがあります。共通するのは二人とも剣の達人というところです。

強面の栗田は、一刀流の達人で誰にでも臆することなくものを訊ねる剛胆さがあります。怪奇話にはからっきし弱い。根岸の側にいれば、この手の話には事欠かないのだが慣れません。対して、坂巻は動じません。

強面の栗田が怪奇話に弱いというのが、おちゃめでいいです。この栗田に幸せな話が舞い込みます。

そろそろ決めぜりふとして定着してきた感のあるのが、次のフレーズです。

「その言葉、この大きな耳の袋にちゃあんと入れたぞ」

これがないと締まりません。

さて、このシリーズ、とてもドラマ化しやすいと思います。

ちょっぴり怪奇ものがはいり、それを根岸が種明かしをする。そして、その怪奇の裏に潜む真実を暴き立てる。殺人事件も起き、その犯人捜しもある。ウケそうな要素がたんまりと入っているのです。

配役もしやすい。主役の根岸は還暦を過ぎているので、配役としてベテランを起用しやすいし、坂巻、栗田は若手を起用しやすい。根岸の恋人・力丸は坂巻、栗田に歳も近いので、これまた人選が容易です。とにかく、配役に悩む必要がありません。

どこかでやりませんかね?

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内容/あらすじ/ネタバレ

寛政十一年の旧暦七月。江戸に雪が降った。坂巻弥三郎は非番を利用して叔父の家に泊まりに来ていた。そして、真夜中に二人組の盗人の影を見る。追いかけ、袋小路に追いつめたものの、取り逃がしてしまった。思いの外身軽な連中だった。

逃げた二人組は互いの首尾のよさを誉めた。相棒をそれぞれスケ、タと呼び合っている。兄弟である。

二人はついに二千両ため込んだ。目標に届いたのだ。これで、子供の頃からの夢が叶うかも知れない。潰れたおやじと同じような刀屋を再興するという夢…。

この半月ほど江戸を騒がせている凶悪な「おたすけ兄弟」という盗賊がいる。互いに「タ」「スケ」と呼ぶところから来ている。

奉行所の中間・与之吉が家に戻ると、娘のおかよが高熱を出していた。流行熱だ。与之吉は昨日坂巻が追いかけていたときに、福川神社の境内に怪しい二人組を見かけたのを思い出した。あれは坂巻が追いかけていた盗賊ではないか?そして、盗んだ金を隠していたのでは?

果たしてそうだった。三百両あった。これでおかよの病を治せる…。

栗田次郎左衛門は根岸肥前守鎮衛の前でやたらと緊張していた。意を決して根岸に、奥女中の雪乃を嫁にしたいという。雪乃はこれを承諾していた。

その雪乃が小石川の牛天神にまつられている貧乏神を知っているかと根岸に聞いた。最近、この貧乏神に大金持ちがお参りに来ているという。

大金持ちかどうかはともかくとして、さる屋竹蔵といって、猿を貸す商売をしている男がお参りに来ている。竹蔵は猿のしつけ方が酷い。これを聞き込んでいるのは栗田だ。竹蔵が貧乏神をお参りするのは、牛天神近くにある同業の猿貸し屋に貧乏神が取り憑くようにとの願いをかけていることが分かった。

浅草寺裏の奥山には見世物小屋などが無数にある。その一つに雁之助と雁太の兄弟がいる。普段は気を付け、「タ」「スケ」とは呼び合わないようにしている。この二人がこの間の金を確かめに行った。一方、与之吉は三百両をどうするか悩んでいた。

宮益町の岡っ引き久助が訪ねてきた。ひいき筋の十条屋善右衛門の娘・おもんが二月ほど前にぷいっといなくなってしまった。がこのおもんが縁の下にいるのが発見された。だが、出てこないのだという。

根岸は坂巻に行かせることにした。そして、坂巻が数日通う内に、おもんはぽつぽつと話し始めるようになった。

ある夜、おもんが思いにふけっていると、誰かが忍び込んできた。だが、逆におもんに驚いて逃げてしまった。逃げたのは「おたすけ兄弟」だった。

続けざまに不首尾に終わった「おたすけ兄弟」は三百両を盗んだ者を探すことに決めた。あのときの様子からして、北か南か分からないが、奉行所の者にちがいない。

五郎蔵が久しぶりに髪切が出たという。旅籠にいた女だそうだ。その女を坂巻と栗田が探しに出たが、すでにいなくなっていた。

髪切にあった女は通にいるとひどく目立つはずだ。だが、通で客引きをしていたという。一体なぜ?その疑問が二人にうかんだ。わざと目立つようにして、誰かから何かを受け渡しをしていたんじゃないだろうか。そう推測したが、分からないことが多すぎた。

大酉藩江戸家老の木村康右衛門が根岸を訪ねてきた。根岸の古い友人だ。殿が参勤交代の途中でなくなったのだという。その死に方に疑念が残るのだとか。藩内でよからぬ動きがあり、それもそうした疑念を深める要因になっている。

髪切がでた。今度は力丸が髪切にあったという。根岸も、開いた口がふさがらなかった。

「おたすけ兄弟」が与之吉の家に侵入した。二人は去ったが、小さな細工物を残した。そこには村正と雁之助と書かれていた。

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本書について

風野真知雄
耳袋秘帖3 浅草妖刀殺人事件
だいわ文庫 約二七五頁
江戸時代

目次

第一話 貧乏神に祈る
第二話 縁の下の怪
第三話 髪切
第四話 帰ってきた佐之介
第五話 妖刀村正

登場人物

根岸肥前守鎮衛…南町奉行
坂巻弥三郎…根岸家の家来
栗田次郎左衛門…根岸直属の同心
たか…根岸の亡き妻、幽霊
お鈴…根岸の愛猫、黒猫
雪乃…奥女中
力丸(新郷みか)…根岸の恋人
馬蔵(珍野ちくりん)…船宿「ちくりん」主
お紋…「ちくりん」女将
五郎蔵…海運業者の顔役
久助…幇間あがりの岡っ引き
辰五郎…栗田が手札を与えている岡っ引き
松平定信…元老中
雁之助(スケ)
雁太(タ)
三太
三之助
与之吉…中間
おかよ…与之吉の娘
きち坊(次郎吉)
半次郎…きち坊の父親
さる屋竹蔵
十条屋善右衛門
おもん
木村康右衛門…大酉藩江戸家老
奥田又蔵
瀬田佐之助
五平…刀屋天宝堂の主
伝蔵…花川戸の岡っ引き

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