鈴木英治の「手習重兵衛 第1巻 闇討ち斬」を読んだ感想とあらすじ

この記事は約7分で読めます。
記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

覚書/感想/コメント

シリーズ第一弾。この「手習重兵衛」シリーズは全六巻である。一話完結というわけではないので、最初から順番に読むことをオススメする。

最初ということもあって、判明する情報が少ない。

主人公は興津重兵衛。六尺ほどある。信州高島諏訪家三万石の家臣のようである。

重兵衛は、あるとき家中の者に囲まれる。押収した千両のうちから百両が無くなり、その百両に相当する金が重兵衛の屋敷から見つかったというのだ。つまりは横領の罪だ。

こうなる直前、重兵衛は、罪をえた国家老、国家老の屋敷に出入りしていた商家、富くじを主催した商家の関係を調べていた。特に力を入れていたのが、富くじで利益を得ていた商家である。

この富くじで利益を得ていた商家からの差し金でこうなったのか?

どうやら、重兵衛は国許で大きな事件に巻き込まれた節がある。今後のシリーズの展開の中で徐々にその全貌が語られていくのだろう。

主人公の重兵衛の他に重要な人物が二人登場する。

一人は北町奉行所の同心・河上惣三郎だ。もう一人が三河刈屋の譜代大名・土井家の家臣・鳴瀬左馬助である。

この二人は今後のシリーズの中でも重要な脇役となるのだろう。

このうち、河上惣三郎と中間の善吉のやり取りというのが可笑しい。

例えば、次である。

『河上のうしろで、善吉が信じちゃいけませんよというふうに手を振っている。
河上はくるりと振り向き、善吉の頭を拳骨で殴りつけた。
いててて。善吉はしゃがみこんだ。
「まったく油断も隙もありゃしねえ」』

こんなことがしょっちゅう繰り広げられるのだ。

もう一人の鳴瀬左馬助は、ある目的を持って江戸に出てきている。

この鳴瀬左馬助の話と重兵衛の話が並行して語られるので、途中でこんがらがる人もいるかもしれない。きっちりと別の話だということを整理しながら読み進めた方がいい。この並行している部分に関しては、本書のマイナスポイントだろう。

で、この鳴瀬左馬助に関しては、本書の最後の一ページに思わぬ展開が待っている。思わず、「えっ!?」と思ってしまったほどだ。

さて、重兵衛の剣が何流かはわからない。ただ、重兵衛はこう言っている。

「国に古来より伝わる剣法だ。刀など叩き折ってしまえばいい、という考えから生まれた、はやさと重さのみを追求した剣だ」

一方、鳴瀬左馬助の腕もそれなりのものであるが、何流かはわからない。

シリーズ第一弾ということもあって、登場人物達の顔見せと、主人公の重兵衛が巻き込まれている事件の断片だけが語られている。

次作以降の展開に期待したい。

スポンサーリンク

内容/あらすじ/ネタバレ

白金村。宗太夫と名乗った男は五尺八寸で自分よりは二寸は低いだろうが、無駄な肉はなかった。姿は侍のものではないが、以前どこかの家中に属していたのではないかと思われた。

重兵衛は新堀川の土手に倒れているところを宗太夫に助けられたのだ。四日前のことで、今日は四月十九日である。重兵衛は江戸に入ったところまでは覚えていた。

重兵衛は二十三。宗太夫は八つ上だという。宗太夫は手習師匠をしている。入り口には「白金堂」という扁額が掲げられ、門柱には「幼童筆学所」という看板が打ち付けてある。

「興津、刀を捨てろ」五名が取り囲んでいる。正面の斎藤源右衛門になぜこの様なことをと訪ねると、百両が屋敷から見つかったという。押収した千両のうちの百両だ。盗んだということにされているらしい。

鳴瀬左馬助は江戸にあと少しの所にいた。先ほどから執拗に見つめる視線を感じる。付け狙うものに心当たりはない。

それに、左馬助が国を出てきたのを知るのはただ一人で、十分に信頼に足る人物だ。鯉口を切ったが、視線は消えた…。

宗太夫が重兵衛を助けるのを手伝ってくれた茂助がたくあんを届けに来てくれた。茂助にはおさわという女房と竹之助という子どもがいる。

宗太夫に客が来た。幸蔵といい色草紙などを売っている。その後、家主の田左衛門や名主の勝蔵を訪ね、重兵衛が村に逗留することが告げられた。また客が来た。鍛冶屋をやっている長太郎と、お知香である。

鳴瀬左馬助が永田町にある上屋敷について三日がたった。左馬助は人捜しにかけては腕利きの紋兵衛からの知らせを待っている。

重兵衛が宗太夫の手習所に厄介になって十日がたった。宗太夫が熱で倒れ、重兵衛が代行で教えることになった。意外と向いているらしい。

重兵衛が宗太夫の使いで石橋二郎兵衛の所に行く途中、頭から土手に挟まった娘を助けた。

この後、石橋二郎兵衛を訪ねた。石橋と宗太夫は同郷なのだという。三年前に故郷を出てきたのだ。

宗太夫と石橋が飲んでいると、上方の言葉が聞こえてきた。

鳴瀬左馬助は久しぶりに道場主の堀井新蔵にあった。娘の奈緒にもあい、同門の今泉金吾にもあった。

重兵衛が故郷のことを思わなかったことはない。おそらく興津の家は取り潰されているだろう。

斎藤源右衛門の百両が屋敷から見つかったという言葉は本当だろうか。確かに喉から欲しかったが、押収した金に手をつけるなどあり得ない。

重兵衛は斎藤たちに取り囲まれる前に何をしようとしていたか。それは、罪をえた国家老、国家老の屋敷に出入りしていた商家、富くじを主催した商家の関係を調べていた。

特に力を入れていたのが、富くじで利益を得ていた商家である。とすると、あの商家の差し金なのか…。

宗太夫が石橋二郎兵衛の所に飲みにいって帰ってこない。心配になった重兵衛が石橋を訪ねると、二人が刺されて死んでいるのを見つけた。宗太夫はともかく石橋は手練れである。

すぐに同心の河上惣三郎がやってきた。調べると、どうやら宗太夫は誘い出されて殺されているらしい。誘い出した石橋は脅されて文を書いたようである。

村に戻ると、子どもたちが心配そうにしている。村から手習所が無くなるのがいやなのだ。村の人からも懇願され、重兵衛は宗太夫のあとを継いで手習師匠になることになった。

その前に、重兵衛は宗太夫の仇を討つつもりでいた。

鳴瀬左馬助は紋兵衛から、みつかった、との知らせを受けた。

その頃、重兵衛は宗太夫の死を幸蔵に知らせるために幸蔵の家を訪ねた。途中で、最近麻布付近で子どもが行方しれずになっている話を聞く。

幸蔵の所に行くと、死んだ幸蔵のそばに若い侍が立っていた。鳴瀬左馬助であった。鳴瀬はこの男は父の仇だという。だが、殺したのは自分ではないという。

鳴瀬左馬助が一通りの事情を聴かれている時に、三河刈屋という言葉が聞こえた。どうやら鳴瀬の国のようだ。とすると、譜代の土井家の家中となる。

源八といった幸蔵が、父と清造の死に関わっていることは間違いない。鳴瀬左馬助はそう思った。三年前に二人は殺され、山に埋められたのだ。

それがつい最近発見され、左馬助は一つの命を受けた。二人の男を連れて帰ること、一人は殺された源八と、もう一人は大百姓の四男万吉である。

残るは万吉だ。だが、紋兵衛の腕をしても万吉の居所が分からない。父はそれなりの遣い手だった。とすると、助太刀をした者がいるはずだ。

幸蔵と名を変え生活していた源八が殺されたのと、同じような手口で殺しがあったことを重兵衛という男は口にしていた。重兵衛の口から詳しく話を聞きたい。そのためにわざわざ三河刈屋の名を口にしたのだ。来るだろうか。

重兵衛は鳴瀬左馬助を訪ねようと思っていた。

途中で安之助と名乗る男に出会い、倅が行方不明になっているという。最近行方しれずになっている子どもの話を聞いたばかりもあって、重兵衛は探すことにした。すると程なく子どもが見つかった。

そして、子どもを安之助に帰すために寺に向かうと、重兵衛は北町奉行所の同心達に人さらいとして捕まえられてしまった。

その頃、鳴瀬左馬助は、やはり重兵衛に会わないとならないと思うようになっていた。だが、その重兵衛が人さらいの疑いで捕まったという。話を聞くには重兵衛の無罪を証明しなければならない。鳴瀬は重兵衛のために聞き込みをはじめた。

鳴瀬左馬助は、もしかして重兵衛は罠にはめられたのではないかと思うようになっていた。

ことはもしかしたら、重兵衛が国許から引きずってきている何かに関連しているのかもしれない。そう思っていると、果たして左馬助の前に男が現われた。

重兵衛の罪は晴れるのか?そして、鳴瀬左馬助は目的を達することができるのか?

本書について

鈴木英治
闇討ち斬
手習重兵衛1
中公文庫 約三〇〇頁
江戸時代

目次

闇討ち斬

登場人物

興津重兵衛
鳴瀬左馬助
今井将監…江戸家老
紋兵衛
堀井新蔵…道場主
奈緒…堀井新蔵の娘
今泉金吾…鳴瀬の同門
河上惣三郎…北町奉行所の同心
善吉…河上の中間
竹内…北町奉行所の同心
瀬戸口…北町奉行所の同心
宗太夫…手習師匠
石橋二郎兵衛
幸蔵
勝蔵…名主
田左衛門…家主
おその…田左衛門の娘
うさ吉…犬
長太郎…鍛冶屋
お知香
おせい…産婆
お美代
吉五郎
松之介
茂助
おさわ
竹之助
安之助
箕之吉
おきち
おまき…おきちの娘
乙左衛門…手習師匠
斎藤源右衛門
松山輔之進

タイトルとURLをコピーしました