米村圭伍の「蜜姫 第1巻 おんみつ蜜姫」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

蜜姫シリーズ第一弾。

本作では「風流冷飯伝」を初めとした「風見藩」が登場する。

風見藩は変わった藩で、天守閣からして二層半という奇妙なつくりで変わっており、城の玄関とでも言うべき大手門と裏門の搦手門の向きが通常とは逆になっている。

さらにはこの城を中心として、男は左回り、女子は右回りに回るのを習わしにしたという。

こうした習わしを決めた藩主・時羽光晴の時代が舞台になっている。広い意味で、この作品も「風見藩」ものに入れてもいいのではないだろうか。

さて、主人公の蜜姫は、幼い頃からやんちゃで悪戯好き。江戸に連れて行ったらどんな騒動を巻き起こすかわからないので、病弱で長旅に耐えられないと幕府に断りを出し、温水にとどめられることになってしまった。

そんな蜜姫なので、とうぜん国許ではおとなしくしていない。豊後の暴れ姫と言われるしまつである。

この蜜姫のたくましい想像力…いや妄想から、父・乙梨利重が巻き込まれた事件の背後には八代将軍徳川吉宗がいると信じ、その真実を知るべく、そして闘うべく故郷を勝手に飛び出してしまう。

そもそもの発端は、父・乙梨利重が国元に帰っている時に刺客に襲われる所から始まる。

利重には襲われる心当たりがあるとすれば一つしかない。それは讃岐国風見藩と合併すると画策していることである。だが、これは風見藩の時羽光晴と自分の二人しか知らないはず。

これを聞いて、心を躍らせ、国を飛び出してしまうのが蜜姫である。

だが、どうも父の考えていることとは真相は違うようだ。

徳川吉宗の時代に大事件となった天一坊が登場し、さらには吉宗の最大のライバルである尾張徳川家の徳川継友の画策も見え、さらにはさらには、武田勝頼の隠し財宝の話も飛び出したりして、てんやわんやの物語となる。

それでもどこかのんびりしてホンワカとした感じになる物語である。肩の力を抜いて気軽に読める一作である。

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内容/あらすじ/ネタバレ

享保十三年三月。江戸城では徳川吉宗が暇をもてあましていた頃、尾張徳川家が十二年かかって編み出した陰謀が動きだし、その種火がはるか遠く九州の地で発火しつつあったのでした…。

豊後・温水藩二万五千石の藩主・乙梨利重は娘の蜜姫と馬を走らせておりました。その前に金比羅参りの格好をした男が現われ、突然重利に向かって発砲したのでした。

幸い、かすり傷一つ負わなかった利重でしたが、蜜姫は父が命を狙われるほどの大物であると思いこんで嬉しそうです。蜜姫の勝手な想像が膨らんでいきます。

利重は蜜姫に縁談の話があると伝えました。相手は讃岐国風見藩時羽家、同じく二万五千石の家です。利重は婚儀を機に、両藩を併合してひとつの藩にするつもりだと言います。さては、そのことを嗅ぎつけて刺客を放ったものでしょうか?

そして、利重は将軍・吉宗の弱みを握っていると言います。それを聞き、蜜姫は天下の将軍・吉宗を相手に闘うことを想い陶酔しています。

蜜姫の母は甲府徳川家から側室入りしたので、名は宇多ですが、甲府御前と呼ばれています。その母の飼い猫タマはちっとも蜜姫になついてくれません。

蜜姫は脱藩して、風見藩と江戸を探索しようと思うの、と母に申します。すると、母は武者修行の若侍の格好をしてゆきなさいと言います。

蜜姫の脱藩…いや出奔に際して、母は護衛をつけてやることにしました。それは母の飼い猫のタマです。タマは忍び猫だったのです。

蜜姫が出奔した頃、甲府御前の前に武田忍びの笛吹夕介と名乗る好ましい殿方が現われました。

蜜姫は船に乗りました。驚いたことに忍び猫のタマは船が苦手なようで、船酔いをしています。

船の船頭は五平といいます。蜜姫が女であることはすぐにばれていたようでしたが、とても親切にしてくれます。

この五平と別れ、五平が紹介してくれた雲吉という船頭を探すことになりました。五平は雲吉に蜜姫を必ず風見湊へ送り届けよと手紙を書いてくれていました。

風見湊を目指す船だけを狙った海賊が横行していると聞きます。金比羅参りの格好をした刺客、金比羅参りの船を狙う海賊。この二つの間には何か関わりがあるに違いないわ、蜜姫はそう考えました。

雲吉の船に乗って風見湊を目指していた蜜姫でしたが、深い霧の中で海賊船にぶつかり、沈んでしまいました。

江戸では吉宗のもとに、温水藩の姫が出奔した情報と、風見藩の沖合に海賊が出没している情報がもたらされていました。

蜜姫は風見藩の冷飯食いの池崎源三郎と飛旗菊馬に助けられました。蜜姫は自分が風見藩にいることを知り驚いています。助けた二人はすでに蜜姫の身分を知っていました。

この風見藩というのはいろいろと変わったところがあるようです。

蜜姫は藩主の時羽光晴と会うことにしました。そのいい機会が訪れようとしています。光晴が金比羅大権現にお参りすることになっているのです。

先に金比羅大権現にいた蜜姫でしたが、光晴の前に忍び者が現れました。忍びの者達は熊野神社の牛王宝印をもっていました。熊野忍びということであれば、やはり吉宗が放った刺客なのでしょうか?

蜜姫は池崎源三郎らと海賊の征伐に向かいます。驚いたことに、雲吉とタマが生きていました。

海賊の頭目は三人おりましたが、その正体がはっきりとしません。ですが、どうも尾張名古屋の侍ではないかということになりました。それに、金比羅大権現で光晴を襲った忍び者達の太刀筋は尾張裏柳生のようだったのです。

蜜姫は倉敷へ向かい、江戸へ向かっているはずの父の一行を待ってみましたが、いっこうに来る気配がありません。そのまま岡山へ向かうことにしました。

岡山では松平源六という妙な男の存在を知ります。どうやら裏で尾張徳川家が糸を引いているようなのです。その狙いは一体何なのでしょう?

京に入り、蜜姫は父の一行に合流することになりました。この場所で温水藩と風見藩の合併の詰めをしようと考えていたようです。

その席で蜜姫は松平源六の話を聞きました。あろうことか、松平源六は将軍・吉宗の隠し子だというのです。これが将軍の弱みを握っているといっていた真相です。

この話が尾張の徳川継友公にも伝わっていたのです。偶然と必然が絡み合って、温水藩は将軍の座をめぐる争いに首を突っ込んでしまったのでした。

父を出し抜いた蜜姫でしたが、なぜか母の甲府御前がくっついてきています。

松平源六こと天一坊の情報が蜜姫のところへもたらされます。笛吹夕介が知らせてくれるのです。

名古屋に入りました。ここでは忍び猫・タマの真の能力を目の当たりにし、尾張柳生の柳生厳也に出会います。

柳生厳也は天一坊の警護に尾張柳生随一のものがついているといいます。名を山内伊賀亮というそうです。その対策にと、柳生厳也は秘太刀を授けてくれました。

江戸に着いたもの束の間。蜜姫は母・甲府御前の正体が露見し、天一坊一味に捕らえられたことを知ります。今頃は母の故郷・諏訪へ向かっていることでしょう。

甲府御前は諏訪湖に武田勝頼の軍用金が沈んでいるから、それを身代金として渡すと言ったようです。

蜜姫は吉宗の前でこれまでのあらましを語り終え、諏訪へと向かいます。そして、武田勝頼の軍用金を探すことになりました…。

本書について

米村圭伍
蜜姫1 おんみつ蜜姫
新潮文庫 約五二〇頁

目次

その一 豊後の暴れ姫
その二 忍び猫
その三 船上の危機
その四 海坊主と海賊
その五 漂着
その六 金比羅大権現の激闘
その七 海賊征伐
その八 岡山城御前試合
その九 京の密談
その十 世良田松平源氏坊天知天一
その十一 尾張名古屋の咆哮
その十二 身代金
その十三 諏訪湖の秘宝
その十四 音無之太刀
その十五 天一坊始末
その十六 風青葉

登場人物

蜜姫
乙梨利重…温水藩主
宇多(甲府御前)…側室、蜜姫の母
タマ…忍び猫
(マタタビの平六)
笛吹夕介…忍び
五平…船頭
雲吉…船頭
時羽光晴…風見藩主
池崎源三郎
初江…池崎源三郎の義姉
飛旗菊馬
鳴滝鉄平
虎蔵
徳川吉宗…八代将軍
大岡越前守忠相…南町奉行
徳川継友…尾張藩主
天一坊
赤川大膳
山内伊賀亮…尾張柳生
柳生厳也

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