宇江佐真理の「銀の雨-堪忍旦那-為後勘八郎」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

為後勘八郎と若い岡部主馬を軸に物語が進んでいく。

岡部主馬の若さは、一種の青臭さといってもいい。観念的なことにとらわれ、不正や恥は許せないという潔癖なところなどにそれが現れている。だから、正論を吐いてしまう。

正論だから、筋道が通っていて決して間違いをいっているわけではない。間違いではないが、やりにくいこと夥しい。為後勘八郎はそう思っている。

正論ばかりを吐く人間がいかに扱いにくいかは、昔も今も変わらないだろう。

年を経るにつけ融通の利く人間になっていくのなら、まだしもいいのだが、これが青年の時から変わらないとなれば、それはそれで…。

もっとも、人を言い負かしたいと思うのなら、正論ばかりで相手をへこますという手段もある。だが、その人の恨みは買うだろうなぁ。

正論は正論としてわかっていながら、それを上手く現実に即した形に変化させるのが上策だと思うのだが、如何だろうか。

と、岡部主馬は正論を吐く人間なのだが、為後勘八郎が柔軟で融通無碍の人世の達人かというと、そうではなく、単に年の功だけ世間が見えているふつうのおじさんなのだ。

この物語は、年の功を重ねて世間が見えるようになった人間と、まだ世間が見えていない若者が、経験を重ねて成長していく過程を描いている作品なのである。つまり、誰しもが通るであろう道を描いているのである。

為後勘八郎には娘がいる。小夜という。

この小夜だが、かわいそうなことに父親に似ている。かわいそうというのは、父親の勘八郎が男前でないからだ。そのことを勘八郎は気にしている。

小夜は一人娘のため、為後家は婿を取らなくてはならない。だが、婿のなり手がいるのか。子は子でそうした自分の容姿については気が付いているのだが、やはり親としては心配なのだ。

子は子で悩みを抱え、そして親の知らぬ間に成長していく。だから何かの拍子に子の成長を感じると勘八郎は目を瞠るのである。

勘八郎の子煩悩な面をいろんなところで見ることができて微笑ましい作品である。

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内容/あらすじ/ネタバレ

北町奉行所定廻り同心、為後勘八郎は堪忍旦那と呼ばれていた。下手人に対して寛容な姿勢をみせるためかもしれない。だが、これに異を唱える者もいる。岡部主馬のように。

この日もそうであった。鬱陶しさを感じながら見回りにでた。供をするのは岡っ引きの半吉である。この時、十三、四の娘の姿にふと目を留めた。娘の小夜と同じ年頃である。

この娘、狭い露地に入り、ある裏店に入っていった。まさか、あの年で間夫でもいるのか。それにしても、入る時に「いる?」と訊ね、帰る時には「じゃあね」とは一体どういう事か。

娘はおみちといった。料理茶屋よし川の主夫婦の孫である。

おみちと娘の小夜が同じ手習いとお裁縫の稽古をしているのを知り、勘八郎は小夜に少し話を聞いてみることにした。以外にも小夜はおみちの家庭の細かいことを知っていた。さすがに同心の娘である。

勘八郎はいつものように紅塵堂に立ち寄った。主の鈴木八右衛門は岡っ引きである。八右衛門に会うというよりはその妻女・月江と話すのを楽しみにきているようなものだ。

この夫婦には娘がいる。小夜より一つ下のゆただ。ゆたは八右衛門と月江の年齢から考えると、娘の年齢は少なすぎるようだが、それには仔細がある。

そのゆたの出迎えを受け、八右衛門と勘八郎は事件の話をした。

近頃、人を噛む犬が横行していた。そして、同時に盗難事件が発生しているのも気になるところである。犬は黒犬である。岡部主馬もこの事件を追っているようだ。

この事件を追っている中、勘八郎と八右衛門は互いの娘を誘って川開きの花火見物に行くことにした。
だが、ここで犬が出た…

しじみ売りの梅助が橋の上から干物を投げ捨てる女の姿を見た後、贔屓にしてくれる為後家に向かった。ここで梅助は小夜に自分の見たことを話した。小夜はこの話にとても興味を持ったようだった。

梅吉が寝過ごしてしじみの仕入れが出来なかった時に一人の浪人と出会った。浪人は梅吉を連れ、自分のつくった干物を売ってこいという。

この事があって梅吉は浪人・唐沢郁之助と親しくなった。橋から干物を投げ捨てていた女とは知り合いのようである。唐沢は上総の鶴牧藩に仕えていたが、あることがあって脱藩せざるを得なくなったのだ。すると、干物を投げ捨てていた女とも何かの関係があるのだろうか…

臨時廻り同心、岡部主水の妻が病に臥せっているという。雪江は見舞いに行き、そこで意外な話を聞く。主水が吉原から身請けして妾を屋敷内に住まわせるというのだ。

この頃、本所の御米蔵に抜け荷の疑いがあるという。廻船問屋の相模屋と米問屋の越後屋がつるんでいるらしい。そして、困ったことに抜け荷を見逃している者がいるらしい。それがどうやら岡部主水のようなのだ。

小夜が馬庭念流の錬成館に通っていた。道場では麻吉という手代と仲がよくなった。小夜に好意を持っているようでもある。

だが、この麻吉に対して、道場主の杉山六十三と妻のさきは別の見方をしているようだった。

本書について

宇江佐真理
銀の雨 堪忍旦那 為後勘八郎
幻冬舎文庫 約三一五頁

目次

その角を曲がって
犬嫌い
魚棄てる女
松風
銀の雨

登場人物

為後勘八郎…定廻り同心
小夜…娘
雪江…妻
お留…女中
半吉…岡っ引き
鈴木八右衛門…岡っ引き
月江…八右衛門の妻
ゆた…娘
今朝松…小僧
岡部主馬…見習同心
岡部主水…臨時廻り同心
ひさ…主水の妻
おみち
おしず…おみちの母
富蔵
佐久間庄兵衛
おりせ
梅助
松本品
唐沢郁之助
桔梗屋利兵衛
杉山六十三…道場主
さき
麻吉
山形浪次郎…与力

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