宇江佐真理の「甘露梅-お針子おとせ吉原春秋」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

新吉原の一年を舞台にした連作短編集。

おとせというお針子の目を通して新吉原の華麗な世界と、同時に真逆の厳しい世界を見ることになる。これに、季節の催し物をうまく小説の中に取り入れて、華やかな新吉原の世界を彩っている。

正月の松飾り、二月の初午、三月の菖蒲、五月は川開きの花火、六月は吉原田圃の富士権現の祭礼、七月は七夕、八月の八朔、九月の月見、十月の玄猪、十一月は防火のまじないの蜜柑投げ、師走の煤払い・餅搗き

これだけ頻繁に趣向を凝らせば人は来るというものである。そして、やり方が徹底しているのも驚きである。例えば、新吉原では毎年三月のはじめに桜を植え、晦日には根こそぎ取り去ってしまうそうだ。

クリスマス飾りをしていた店が、二十五日を過ぎたとたんに正月モードになるのと同じなのだろうか、とふと思ってしまった。

慶長の頃の江戸には新吉原のようなまとまった傾城町はなく、各町に分散していたそうだ。その後、慶長十年(一六〇五)に江戸城の普請が始まり、慶長十七年に小田原出身の庄司甚内(甚右衛門)が傾城町の取り立てを願い出て、元吉原が出来る。

元吉原のあった場所には葭(よし)や萱(かや)が繁っていた。そこで葭原(よしわら)と呼ぶようになり、吉原になったのだとか。

新吉原といえば、もちろん傾城町であるのだが、流行の発信地でもあった。江戸の流行は吉原の遊女たちがさきがけだったのだ。現代の感覚ではわかりづらい点である。

でも、花魁の華やかな衣装を見れば分からないでもない。

そして、その新吉原での店の格式を示すのが籬(まがき)である。

籬とは店の土間と張り見世をする座敷の間の格子で見世の格式により違いがある。

大籬は上まですべてが格子となっている見世で一番格式が高い。次いで、半籬(交じり籬)は上の四分の一ほどが開いている。惣半籬は下の半分ほどが格子で上は開いている。

内容/あらすじ/ネタバレ

三十六のおとせは江戸町二丁目の海老屋にお針として住み込んでいる。前年に岡っ引きだった亭主の勝蔵を亡くし、裁縫の腕を生かせる住み込みの仕事を頼んだのだ。そして紹介されたのが、この新吉原にある遊女屋だった。

仲の町の夜桜の季節である。

福助が山吹を植えている職人の中に伊賀屋の若旦那がいるという。花魁・喜蝶の馴染みである。海老屋の妓夫・筆吉に確かめさせると果たしてそうだった。

わかったのは、伊賀屋甚三郎は勘当され、さらには人別からも抜かれてしまったということである。これでは客にならない。そうぼやいたのはお内儀のお里である。

お里にはもう一つ心配事があった。最近小さい女の子が悪戯されるのが続いているという。その近くで福助を見たという人がいるというのだ。心配だから、福助のあとを付けてくれとお里はおとせに頼んだ…。

…最近おとせは頭痛を覚えることが多くなった。そして、一人になりたくなるおとせ九郎助稲荷に詣でるようになった。稲荷には先客がいた。若い振袖新造のようだ。

その姿を見ている人物がもう一人いた。引手茶屋の主・花月亭凧助である。幇間(太鼓持ち)上がりの男で、今でも芸を披露することがある。

先客は雛菊というそうだ。凧助は一つの心配をしていた。それは雛菊が大門を抜けるつもりなのではないかということだ。凧助はおとせに雛菊に思いとどまらせるようにいってくれないかと頼む。幸い凧助の店で甘露梅の仕込みが行われることになっており、雛菊もそこに来ることになっていた。

…八月一日。花魁は白無垢の衣装を着る習慣があった。元禄の頃、太夫高橋が始まりで、その習慣が残っている。その衣装作りに追われていた。

花魁の喜蝶は愛猫のたまがいなくなって気落ちしていた。たまはもともと喜蝶の猫ではなかった。喜蝶がまだ振袖新造だった頃、付きの浮船という花魁の猫だったのだ。それが、浮船が切見世に落とされる事件が起き、たまは喜蝶の猫となったのだ。

おとせは切見世に落とされた浮船を訪ねようと思った。筆吉が付いてきてくれた。

…花魁の薄絹は、喜蝶が出世したせいもあるのかもしれないが、とみに機嫌が悪い。さらに遣り手のお久と折り合いが悪いらしくいつも口喧嘩をしている。お久はもとお職を張るほどの花魁だったという。そのことを凧助に心配だとおとせは漏らすが、たいしたことじゃないといなされる。

おとせは凧助を頼りにしていたが、その様子を変な風に勘ぐる人間がいるようだ。そのことを知り、おとせは凧助に甘えすぎていたと反省する。

海老屋では喜蝶の世話をしている振袖新造のよし乃を巡り何やらきな臭い感じになっていた。一方で、おとせはお久と薄絹の意外な関係を知り驚く。

…凧助が怪我をして別荘で療養しているという。その頃、おとせの周りでも大きな出来事が持ちあがっていた。喜蝶を身請けしたいという人物が出てきたのだ。

そうした中、新吉原に火が出た…

本書について

宇江佐真理
甘露梅 お針子おとせ吉原春秋
光文社文庫 約二八〇頁

目次

仲の町・夜桜
甘露梅
夏しぐれ
後の月
くくり猿
仮宅・雪景色

登場人物

おとせ
喜蝶…花魁
たより…喜蝶の禿
よし乃…喜蝶の振袖新造
筆吉…海老屋の妓夫
薄絹…花魁
海老屋角兵衛
お里…お内儀
福助(富士助)…海老屋の養子
小万…海老屋の内芸者
小梅…小万の娘
お久…遣り手
花月亭凧助…引手茶屋「花月」主
お浜…凧助の女房
雛菊…遊女
松雪…遊女
伊賀屋甚三郎
たま…猫
浮船
松野五郎麿
星野又兵衛
鶴助…おとせの息子
おまな…鶴助の嫁
才蔵…おとせの孫
お勝…おとせの娘

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