佐藤賢一の「カルチェ・ラタン」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

とにかく各章の題が長い。とてつもなく長い。しかも、その題がサマリーとなっている。

さて、本書は全体的にパロディの色合いが強い。

まず、出だしの”序”から「日本語訳の刊行に寄せて」とあり、まるで実在の海外の人間がいるかのような設定である。

そして、最後の「解説 ドニ・クルパンと、その時代 作家 佐藤賢一」に至るまで首尾一貫している。

さらに、本書は、マギステル・ミシェルを中心とした推理サスペンスであり、それをドニ・クルパンの回想録という形で綴られているのだが、これはシャーロック・ホームズとワトソンの関係に酷似している。

また、他作家の作品の登場人物、ノートルダムの鐘撞き男カジモドを登場させたり、佐藤賢一自身の作品にも登場する”ドゥ・ラ・フルト”の名前を登場させるあたりにも遊びの感じが出ている。

どうやら、ドゥ・ラ・フルト伯爵というのはフランスの超名門一族を表現する代名詞として使っているようである。

このように、遊び心の詰まった1冊である。

実在する歴史上の人物も数多く登場する。イエズス会の創立当時のメンバーや、ジャン・カルヴァンなどがその代表であろう。

イエズス会の創立者はイニゴ・デ・ロヨラの名で登場するが、イグナチウス・デ・ロヨラの名で記憶した人も多いのではないだろうか。同一人物である。

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内容/あらすじ/ネタバレ

<以下は目次に補足情報を加えたもの>

一…私こと、ドニ・クルパンがガーランド通りの印刷屋を訪ねること、ならびに生涯忘れられない恥をかくこと

二…私こと、ドニ・クルパンがカルチェ・ラタンを歩くこと、ならびにマギステル・ミシェルが得意の警句と推理を披露してみせること

三…マギステル・ミシェルが第一事件の捜査の協力を請け合うこと、ならびにフランシスコ・ザビエルが厚い友誼を示すこと

→行方不明の事件が発生した。靴職人親方ジャック・ルブルの行方が分からなくなっているのだ。

四…サン・トレノ街にアラン・サロンを訪ねること、ならびにマギステル・ミシェルが第一事件の真相に意外な推理を寄せること

五…アラン・サロンの逮捕で第一事件が決着すること、ならびにマギステル・ミシェルの横暴に、私こと、ドニ・クルパンが激しい抗議に及ぶこと

六…私こと、ドニ・クルパンが第二事件に遭遇すること、ならびにマギステル・ミシェルの許で、不良と優等生に等しく立腹を覚えること

→馬を巡るトラブルから、事件に発展の様相へ…

七…サン・ジェルヴェ区にアンリ・デルヴァルを訪ねること、ならびにものに目敏いマギステル・ミシェルが、優れた馬具に非常な興味を示すこと

八…私こと、ドニ・クルパンが深夜に穴掘りを行うこと、ならびにマギステル・ミシェルが第二事件の推理と捜査を独断すること

九…戦慄すべき第二事件の全容が明らかになること、ならびにマギステル・ミシェルが神学の潮流と新たなキリスト教の動きを苦々しく論じること

十…マギステル・ミシェルがサン・テスプリ学寮を訪ねること、ならびにゾンネバルト教授を相手に難解な神学問答を行うこと

→ドニ・クルパンはマギステル・ミシェルから聞いた真相に、血が逆流して、ゾンネバルト教授を殺したいと心から思うのだった。

十一…マルト・ル・ポンが「コンドーム」に激怒して、大いに泣きわめくこと、ならびに私こと、ドニ・クルパンが弁えた大人として、根気よく世の道理を諭すこと

十二…修道女ナタリーに再会すること、ならびにマギステル・ミシェルが「コンドーム」の神学理論を、臆面もなく披露すること

十三…私こと、ドニ・クルパンが念願の恋人を得ること、ならびにマギステル・ミシェルが意地の悪い評をなして、私に絶交されたること

十四…愛しきベアトリスが失踪すること、ならびにマギステル・ミシェルと連れ立ち、サン・トゥスタシュ街の古着屋を訪ねること

十五…サン・テスプリ学寮の真実を覗きみること、ならびに私こと、ドニ・クルパンが失恋の痛手を癒すために、神学の道を志すこと

十六…カルチェ・ラタンの大運動会が行われること、ならびにイニゴ・デ・ロヨラの破天荒な明るさに、失恋の痛手を大いに慰められること

十七…大貴族が司教の位をほしいままにすること、ならびにマギステル・ミシェルが臍曲がりにも、あえて望んで、ネール塔飛び込みに挑戦すること

十八…不意に第三事件が勃発すること、ならびに悪徳神父の殺害現場に現れて、パリ司教座特別捜査官ユベール・デシモンが、権限委譲を求めること

→殺されたのは主任司祭の男だった。

十九…サント・バルブ学寮で神学論争が戦わされること、ならびにマギステル・ミシェルが窮地に立たされること

二十…マギステル・ミシェルが獄に繋がれること、ならびに私こと、ドニ・クルパンが救出を決意すると、思わぬ仲間が助太刀に馳せ参じること

二十一…マギステル・ミシェルが獄中から指令を出すこと、ならびにノートル・ダム大聖堂の鐘突男に、二枚の羊皮紙を手渡されること

二十二…冤罪糾弾委員会がサント・バルブ学寮で対策を協議すること、ならびに若き学僧ルイと修道女ナタリーが、それぞれ手柄を上げること

二十三…アンボワーズにドゥ・ラ・フルト伯爵夫人を訪ねること、ならびにマギステル・ミシェルの知られざる過去が明らかになること

二十四…若き学僧ルイ・ミレーが殺害されること、ならびに捜査の難航に、パリ司教座が体制を改めること

二十五…マギステル・ミシェルが釈放されること、ならびに一連の顛末に関して、衝撃的な事実を皆に明かすこと

二十六…宗教改革の志士が互いに睨み合うこと、ならびにルイ・ミレー殺害に関して、ジャン・カルヴァンが重大な証言をもたらすこと

二十七…サン・テスプリ学寮に張りこみを行うこと、ならびに修道女ナタリーの隠れた交遊が明らかになること

二十八…サン・テスプリ学寮の陰謀が明らかになること、ならびにマギステル・ミシェルが侃々諤々の議論を制して、果敢な決断に至ること

二十九…サン・テスプリ学寮の強制捜査を断行すること、ならびにゾンネバルト教授が居合わせた犯人に、素直な自首を勧めること

三十…ジャン・カルヴァンがジュネーヴに旅立つこと、ならびにマギステル・ミシェルが私に無断で、暴挙に等しい神の正義を全うすること

三十一…私の兄こと、アンドレ・クルパンに頼み事をされること、ならびにマギステル・ミシェルが思わぬ事実を明かすこと

三十二…マルト・ル・ポンが、最低の男について熱く持論を展開すること、ならびに私こと、ドニ・クルパンが姑息な視線を手ひどく糾弾されること

三十三…私こと、ドニ・クルパンがサン・タントワーヌ街の三階屋を訪ねること、ならびにマギステル・ミシェルが件と鉄砲の違いを巧に論じてみせること

三十四…一大決心でガーランド通りの印刷屋を訪ねること、ならびにマギステル・ミシェルが推理で断定するところ、最愛の女性が誘拐されてしまうこと

三十五…サン・テスプリ学寮が激怒の群衆に取り囲まれること、ならびに私こと、ドニ・クルパンが自分の気持ちを確かめて、果敢な行動に移ること

三十六…マギステル・ミシェルが図書館で本を読むこと、ならびに私こと、ドニ・クルパンが導き出された結論に苛立ち、また戸惑いを覚えること

三十七…サン・テスプリ学寮の門前で乱闘に及ぶこと、ならびにマギステル・ミシェルが打開の武器の、何たるかを明言すること

三十八…マギステル・ミシェルが師匠と対決すること、ならびにゾンネバルト教授の誤謬が無残に暴き出されること

三十九…イエズス会がサン・ジャック門から広い世界に旅立つこと、ならびにマギステル・ミシェルがパリに最後の宿題を残すこと

四十…この回想を閉じるにあたり、事後の顛末を報告すること、ならびに私こと、ドニ・クルパンが真実に開眼しながら、なおも考え続けること

本書について

佐藤賢一
カルチェ・ラタン
集英社文庫 約505頁
フランス16世紀末

目次


ドニ・クルパン回想録
一~四十
解説 ドニ・クルパンと、その時代 作家 佐藤賢一

登場人物

ドニ・クルパン…パリ夜警隊長、船会社クルパン水運の次男
マギステル・ミシェル…ソルボンヌ学寮の学僧
マルト・ル・ポン…印刷屋の未亡人、ミシェルの恋人
アンドレ・クルパン…ドニの兄
ナタリー…修道女、ミシェルの元恋人
ハインリヒ・ゾンネバルト…ミシェルのかつての師匠、サン・テスプリ学寮の学監
イニゴ・デ・ロヨラ…サント・バルブ学寮の学僧、イエズス会の創始者
フランシスコ・ザビエル…ソルボンヌ学寮の学僧、イエズス会士
ルイ・ミレー…ソルボンヌ学寮の学僧、イエズス会士
ユベール・デシモン…パリ司教座の特別捜査官
ジャン・カルヴァン…プロテスタント主義者、ミシェルの親友

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