佐藤賢一の「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」「戦争契約書」「ルーアン」が英仏百年戦争の時期の話であり、「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」「ルーアン」はジャンヌ・ダルクにまつわる話である。

「エッセ・エス」はスペインのカスティーリャ国とアラゴン国が統一されてスペインとなるきっかけを主題としている。

「ヴェロッキオ親方」「技師」「ヴォラーレ」はイタリアを舞台とし、レオナルド・ダ・ヴィンチと絡めている。また「ヴェロッキオ親方」「技師」「ヴォラーレ」の順にレオナルド・ダ・ヴィンチは歳を取っていく。

本書の題名でもあり、最初の話である「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」。その題名の「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」とは、ジャンヌ・ラ・ピュセルの本名を意味しているのは新鮮な驚きであった。

名は父ジャック・ダルク、母イザベル・ロメの間に生まれたことを示す。ドムレミ村では娘が母方の姓を名乗る習慣があるためである。

もっとも、ドイツ語が近しいドムレミ村では「ジャネット・タールまたはロメ」と呼ぶのが正確のようであるらしい。

「ヴォラーレ」では佐藤賢一らしい例えが冒頭に出る。「天才は二種類に分けられる。ひとつは最高の人間であり、ひとつは最低の神である。」レオナルド・ダ・ヴィンチは後者であるそうだ。面白い表現である。

このヴォラーレには他に二人の天才が登場する。ミケランジェロとラッファエッロである。

これら三人の中で、日本で人気・知名度ともに高いのはレオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロであろう。

それぞれに特徴的な三人であるが、こと絵画の分野に置いては、ルネサンス最大の天才はラッファエッロであると言われることがある。個人的には、このラッファエッロに焦点を当てた小説もあってもよいのではないかと思う。

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内容/あらすじ/ネタバレ

ジャンヌ・ダルクまたはロメ

神の遣いと称するジャンヌ・ラ・ピュセル。あろうことかシャルル7世がこれを取り上げ、軍をオルレアンに投入するという話になった。

筆頭侍従官のジョルジュ・ドゥ・ラ・トレムイユは忌々しく思っていた。忌々しいのは、シャルル7世が信用したからである。

ジャンヌ・ラ・ピュセルの振る舞いには一介の農家の娘としては説明しがたい部分が多すぎる。一体誰が黒幕なのだ。

ジョルジュ・ドゥ・ラ・トレムイユはそれを知りたく思った。ルイ・クルパンを呼び、調べさせることとした。

ルイ・クルパンはヴォークルール城に向かった。そこで下々の声を集めた。次にジャンヌ・ラ・ピュセルの故郷ドムレミに向かう。そして、これらの場所で得た情報をジョルジュ・ドゥ・ラ・トレムイユに報告した。

これらの報告をもとに、ジョルジュ・ドゥ・ラ・トレムイユはある結論を出した。それは、ジャンヌ・ラ・ピュセルはジャック・ダルクとイザベル・ロメの娘ではない。すると、ジャンヌ・ラ・ピュセルとは、一体誰なのか。

戦争契約書

オックスフォード大学マグダレン校に一四二一年七月十二日付の契約書が残されている。百年戦争の中での話である。

契約はフランスで行われながら、契約の当事者は二人ともイングランド人であった。ニコラス・モリヌーとジョン・ウィンターという二人の間で結ばれたブラザー・イン・アームズ(戦争義兄弟)の契約書である。

ルーアン

ジャック・ドゥ・ラ・フォンテーヌはドミニコ会に属する托鉢修道士だが、パリ大学のソルボンヌ学寮とともに知られる有望株である。かれが、一四三一年の異端審問に招聘されたのは、その学識を買われたからである。

異端審問の相手は「ラ・ピュセル」と呼ばれていた。問題であるのは、彼女が「神の遣い」を自称し「救世主」と呼ばれていたことである。

ジャック・ドゥ・ラ・フォンテーヌはその女が「ジャンヌ・ダルク」という名であることを初めて知ったのは、予備審問の結果が廻状されてのことであった。

エッセ・エス

グティエレス・デ・カルデナスは回想する。我がカルデナス家の紋章が何故Sを二つ重ねているのか、その発端となった出来事を。それは一四六九年のことだった。

グティエレス・デ・カルデナスはカスティーリャ国のイザベル王女に仕えていた。カスティーリャ国はイザベル王女の兄エンリケ四世が統治していた。

イザベル王女には一つの悩みがあった。誰と結婚するかである。兄エンリケ四世はポルトガルのアルフォンソ五世と結婚することを臨んでいたが、イザベル王女はアラゴンの王太子フェルナンドを見初めていた。

イザベル王女は兄に先んじてフェルナンドと結婚する必要があった。そこでグティエレス・デ・カルデナスが呼ばれたのであった。

ヴェロッキオ親方

アンドレア・デル・ヴェロッキオは大成功した親方の一人だった。優秀な弟子を持てば、その分工房も繁盛するはずである。すると、この弟子だけは当てが外れたことになる。

だが、その弟子の筆を見たときに、アンドレア・デル・ヴェロッキオは天才であることを確信した。その弟子とは…

技師

フランス軍がロカの街に向かってやってくる。アントニオ・ペーザロはロカ生まれの軍事技師である。築城家と言い換えてもよい。

ロカの参事達の議論は堂々巡りをしていた。アントニオ・ペーザロはここが売り時と見たところで、脅したり、スカしたりした。そして、高値で売りつけることに成功した。

ロカはアントニオ・ペーザロのもと改築工事を始めた。当時の戦争は、最新兵器の大砲を主体とするものに変わりつつあり、旧式の城壁は役に立たなくなってきていた。

ヴォラーレ

ヴォラーレ、すなわち空を飛ぶこと。レオナルド・ダ・ヴィンチはこのことに夢中であった。当歳五十三になったレオナルドはフィレンツェにいた。

フィレンツェとの契約により絵を完成させなければならなかった。レオナルドは久しぶりにフィレンツェに戻って驚いたのは一人の若き天才が生まれていたことである。名をミケランジェロといった。

本書について

佐藤賢一
ジャンヌ・ダルクまたはロメ
講談社文庫 約315頁
短編集
フランス15世紀他

目次

ジャンヌ・ダルクまたはロメ
戦争契約書
ルーアン
エッセ・エス
ヴェロッキオ親方
技師
ヴォラーレ

登場人物

ジャンヌ・ダルクまたはロメ
 ジャンヌ・ダルク
 ジョルジュ・ドゥ・ラ・トレムイユ…筆頭侍従官
 ルイ・クルパン
 シャルル7世

戦争契約書
 ニコラス・モリヌー
 ジョン・ウィンター

ルーアン
 ジャック・ドゥ・ラ・フォンテーヌ…托鉢修道士
 ジャンヌ・ダルク

エッセ・エス
 グティエレス・デ・カルデナス
 イザベル王女
 アロンソ・デ・パレンシア
 フェルナンド王太子

ヴェロッキオ親方
 アンドレア・デル・ヴェロッキオ

技師
 アントニオ・ペーザロ
 ヴィルジニーア・ロセッタ

ヴォラーレ
 レオナルド・ダ・ヴィンチ
 ニッコロ・マキァヴェッリ
 エリザベッタ・コンチーニ
 ラッファエッロ

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