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坂岡真の「うぽっぽ同心十手綴り 第6巻 病み蛍」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

シリーズ第六弾。

このシリーズの底に流れる暗い感じというのは、恐らくつぎの一分に凝縮されている気がする。

『江戸には貧しさに喘ぐ善良な者たちが、数え切れないほどいる。逆しまに、善良な人々を騙し、安金で辛い仕事をさせ、平然と私腹を肥やす悪党どももはびこっている。』

なにも江戸の当時だけを言っているわけではない。おのずと現在の姿も重ね合わせることができる。そういうつもりでこの一文を書いたのではないかと思う。

さて、江戸の風物詩として七夕の井戸替えというのがある。どんなものだったのか、作中に描かれているので、抜粋してみる。

『井戸替えは年末の大掃除といっしょで、手抜きができない。綱のさきに結びつけた大桶で井戸水を七分方汲みだし、そのあとは命綱を胸に結んだ井戸職が潜って井側を洗う。そののち、残った水をすべて汲みだして底を洗い、櫛笄や簪などの戦利品を拾いあつめ、仕上げに御神酒を浄め塩を供えるのだ。』

内容/あらすじ/ネタバレ

おふうが逝ってひと月。浮瀬はおこまと雁次郎が切り盛りしている。

心は死にかけているのに、仁徳の「おまえは、歩くことしか取り柄のねえ臨時廻りだろうが」の一言に歩いている。

いましがた、牛込の穴八幡で妊婦が大八車に轢かれるという出来事を耳にした。このあたりの岡っ引きは音羽の半五郎という。お上の威光をかさに来た横柄な男だ。

聞いてみると、女がわざと大八車に突っ込んだように見えたという。

この出来事に関しては北町奉行所の臨時廻り占部誠一郎が事を大袈裟にするなと言ってきている。

長尾勘兵衛が南町のうぽっぽなら、占部は北町のうぽっぽと呼ばれてる。それに二人は良く似ていた。

勘兵衛は占部に会って、なるほど良く似ていると思った。

占部は互いの境遇が似ているといった。占部は妻を早く亡くして、忘れ形見の一人娘は二十三で独り身だという。

占部は耳寄りな話を教えるという。それは瓜屋の主・市兵衛のことだ。安値で瓜を仕入れ、それを捨てることで瓜の値を上げているという。

占部はその証拠をつかんで、引退の花道にしたいと思っていると語った。

女が苦しんで運び込まれてきた。なんと、女は大八車に轢かれた女だった。名をおまきという。

おまきに聞くと、住み込みで働いていた先は、目白坂下の鳴子屋であった。本店から訪ねてくる主・市兵衛の子を孕まされた上、捨てられたという。

勘兵衛は市兵衛本人にあたるつもりでいた。占部への気遣いは二の次だ。

だが、市兵衛に話を聞くとまるっきり話が違う。おまきの孕んだのは情夫・飄太の子だろうという。手の込んだつつもたせだというのだ。

この一件、どうも裏があるような気がする。

飄太の死骸が見つかった。咽喉笛を鋭利な刃物で真一文字に掻っきられている。

その夜、市兵衛が動いた。向かった先は石川島。そこで勘兵衛は占部が探し求めていた証拠を見つけた。

飄太は死神に殺されたと言い残していた。

さらに、昨夜、北町奉行所の臨時廻りを勤めていた米倉左門が殺された。占部とは元同僚で、米倉の子息と占部の愛娘との間で縁談が進んでいたそうだが、結納を交わす直前で破談になったという。

死神とはいったい誰なのか。

おまきが逃げ込んでいた寺から北町の連中に連れて行かれた。住職に聞くと、おまきと飄太は幼馴染だったという。

浅草橋に近い思川。遺体がうつ伏せのまま浅瀬に浮かんでいた。水死である。

末吉鯉四郎が月見草の花弁を持って走ってきた。花弁に血が着いていた。

七夕の朝、江戸は井戸替えで活気づいた。この井戸替えを木遣りの名人でもある源七が手伝っている。源七はその昔、鬼源と呼ばれた名岡っ引きである。

娘のおきみもいた。おきみは産後の肥立ちがおもわしくなく、満足に働けないらしい。

翌日、おふうのための四十九日法要を行った。

月見草の女の素性が分かった。柳橋で売り出し中の芸妓で小菊といった。小菊には見受け話があった。相手は近江屋利介である。

殺された当日、小菊は座敷に呼ばれていた。一緒に小梅という芸妓もついて行った。

牛島丑之介という浪人が行元寺の裏山を崩し、土を売ろうとしたという。たかが土とはいえ、寛永寺の末寺である行元寺の土を売ろうとしたのだ。

牛島は隠し売女に関わりのあるものたちの用心棒をしているようだ。

牛島が裏山を掘った本当の理由とは、野分けの大雨で土が緩んでいたため、土留をしないと長屋が丸ごと潰される恐れがあったからだという。五年前まで、秋田藩佐竹家で砂留役をつとめていた。

牛島には寅之介という息子がいた。そして何かと世話を焼いてくれるおそめという町娘がいる。

牛島はある事情を抱え込んでいるようだった。秋田藩の内部のもめ事に関わることで、謀反人の烙印を押されているようだ。牛島は藩命に背いたばかりか、公費を横領したのだという。

その牛島から勘兵衛は事の真相を聞いた。

重陽の節句。

鯉四郎の祖母・志穂の惚けがひどくなってきているようだ。夜中に歩いて出ることもあるという。三日に一度、からなず夜明け前の寅刻前後に起きだし、山王神社に向かって、桶町二丁目の不動堂に参り戻ってくるのだ。

また、毎月二十八日の不動尊の縁日になると、白装束に身を包み、桶町の譲の井で水垢離をする。

桶町の譲の井で心中があった。不審な点がある。血曇りのある小刀が見つかったが、それも不審を増す原因でしかない。

女のほとけは夢やの女将・およう、男は鉢屋の主・新左衛門であった。

もしかしたら、この心中の様子を志穂が見ていたかもしれない。

新左衛門の内儀・おれんは八卦見の川路順恵の言う通りになったという。川路には勘定奉行の佐原式部正も執心だという。

この佐原の名を聞いたとたん、鯉四郎のここをはここにあらずという体になった。佐原は鯉四郎の父・平右衛門が腹を斬らされた時の組頭だった。

志穂が何者かに襲われた。そのときたまたま一緒にいた綾乃が巻き添えを食った。

本書について

坂岡真
病み蛍
うぽっぽ同心十手綴り6
徳間文庫 約三四〇頁

目次

瓜ふたつ
病み蛍
むくげの花
不動詣で

登場人物

長尾勘兵衛
綾乃…娘
静…失踪した妻
井上仁徳…医師
銀次…岡っ引き、福之湯の主
三平…銀次の手下
おしま…銀次の女房
末吉鯉四郎
根岸肥前守鎮衛…南町奉行
門倉角左衛門…吟味方与力
宍戸馨之介…南町本所廻り同心
文七…岡っ引き、びんぞりの異名
おこま
雁次郎
音羽の半五郎
占部誠一郎…北町奉行所の臨時廻り
暁海…占部の娘
市兵衛…瓜屋の主
おまき
飄太
佐々木次郎八
須藤式部
米倉左門
善次郎
源七
おきみ
小菊
月音
近江屋利介
小梅
牛島丑之介
寅之介
おそめ
磯辺弾正
森脇平九郎
治助
およう
新左衛門
おれん
川路順恵
佐原式部正
木曾屋重蔵